第55話 どう考えてもここって事故物件だよね
───お店を後にして、最後の物件に向かっていた。
郊外まで歩いたところにぽつんとある屋敷を見つける。
遠目から見ても、いままで一番大きいのが分かる。
「あそこに見えるのが今回見に来た最後の物件です」
ミルバもそう言うので間違いないようだ。
屋敷の前に来ると、その大きさを実感できる。
それだけじゃない。
「ここは、いうなれば洋館だな。趣があるというか…」
と、思わず声が漏れてしまった。
異世界に来て洋館も何も無いんだろうけど。
この屋敷は、”なんとか西洋館”とか付きそうなくらい立派な屋敷で、とても広い庭がある。
数棟の厩舎に、古い工房跡。
それに大きな倉庫もある。
なんといっても、メインの屋敷がとても大きく、部屋も20以上はありそうだ。
「ここ、本当に売ってるのか…?」
「はい、売ってます。それはもう格安で…」
なんだかアヤシイ反応だな。
「先に聞くぞ、ここいくらだ?」
例えどんなにいい物件でも、借金してまでは買いたくない。
どう考えても貴族が所有するような屋敷だ。
予算に間に合うのか聞いてみる。
「ここはですね。とある貴族様の管轄物件だったのですけど、すぐに処分したいからと破格になっています。値段は、なんと3000金貨です!」
「おぉっ。それは破格だな。あ、借地税は?」
「借地税は、年200金貨です。ここら辺は町の中心から比べて1/10くらいの借地税なんです」
「なるほど、じゃあ維持費も抑えられてありがたいな」
町までは30分以上は歩くことになるが、馬とか使わせればあっという間だ。
俺の場合は、いくらでも騎乗動物を捕まえることが出来るので問題は無いに等しい。
それよりも問題は…
「なぁ、なんでこの敷地にはいってから俺の袖を掴んでいるんだ?」
「え?ええと…気のせいじゃないですかね?」
「じゃあ、歩きづらいから離して?」
「はひ!あの、その…。イヤです」
やはり、どうにもアヤシイ。
よく見ると、若干顔も青い気がするし。
「で?一体何を隠しているんだ?」
「ナンデモナイデスヨ?」
なぜ片言!?
「ん?あれ?今人が通ったな。まだ管理している人がいるのか?おおーい!すいません、お邪魔していますね~!」
「わわわっ!ダメです、ユートさん。彼らを刺激しては!!」
「ん?なんだ、やっぱり誰かいるんだな?一体、なんだというんだ?」
「そ、それはですね…」
ミルバが滝のような冷や汗を流して、盛大に目を泳がせながら答えようとした時だった。
『いらっしゃいませ、当屋敷へようこそ…お客様でいらっしゃいますか…?』
なんとも、ニンゲンの声なのにニンゲンらしからぬ質の声が響き渡った。
「…ミルバ君?」
「は、はひ!」
「ここをさ、住む場所を探している人間に、売っていいところだと思っているのかな?」
「は、はひ!私も最初はそう言ったんです!でもでも、支部長が…冒険者なら自分で退治出来るだろ、幽霊くらい…と」
あのオヤジ~!食えない顔をしていたけど、こんな物件を寄こしてくるとかどういう神経しているんだ。
「それで、ここを浄化しようとか思わなかったわけ?」
「はい…、何度も試みたらしいのですが、うまくいかなかったようです」
「そういう事ね…。で、ここで何があったの?」
「う…。実はですね、ここは旧領主様の別宅でして。休暇の度にここを訪れていらっしゃってたようなんですが、数年前に襲撃に遭いまして…」
「おいおい、マジか。中とかスプラッタとかじゃないだろうな…」
さすがに、血まみれの部屋とかに住みたくはない。
「あ、そこは大丈夫みたいです。すべて綺麗にはなっていますし、一部の破損したものは修繕してますし、家具とかも入れ替えてあります。あ、そう、家具とか備え付きのものも付いてきますよ」
「へぇ、それは経費がおさえられていいな。で、どうなってるんだ?」
「はい…。それで、当時働いていたメイド達が襲撃時に全員命を落としてしまいまして…レイス化したようです。そこでギルドも教会の
「…結果は?」
「失敗でした」
「理由は?」
「あまりにも数が多すぎて、浄化対象が絞れないから。らしいです」
詳しく聞いたこところによると、襲撃時に人質として外に庭に全員集められたらしく、建物の中では殺人は起きていないらしい。
だから、部屋の中は大丈夫ですよ!と言うので、じゃあ建物の中は出ない?と言うと、『あ、それは出ます。』ということだった。
何が大丈夫なんだ?
ちなみに旧領主は、逃亡してその襲撃とは関係ないところで死んでるらしい。
そして、領主が逃亡してしまったゆえに、広場で全使用人が処刑されてしまったという事だった。
なんとも惨い話だ。
「逆に言えば、彼らさえどうにしか出来れば、綺麗な屋敷を格安で手に入れれるってことか…」
「そ、そういう事になりますね…。って、え?住むんですか!?」
「俺に紹介した君がそれを言うかね…」
そんな二人を見つめるじっと視線があった。
『お帰りなさい、ご主人様。さあ、こちらへ…』
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