第35話 死神の天使

 フロアを2つくらい先に進むと、大きめのフロアに出た。


 この塔の1フロアが大体コンサートホールくらい広いのだけど、1層毎に数フロア繋がって構成されている。1階層の広さは大体東京ドーム1個分くらいだ。


1周するだけなら15分くらいだが、戦いながらだとその倍は掛かる。


 もちろん、ぐるぐる回らないと進めないわけじゃないから、一番真っ直ぐに行けそうなルートを選んでいる。

 …ニケとカルマがだけど。


 ちなみに、そのふたりは一番先頭で、大暴れしている。

 とは言っても、ちゃんと魔力を温存して魔法を控えめに使っている感じだ。


「ここのフロアで、この階層は終わりだね。あそこの階段上れば14階層だね」


 そういいながら、次のフロアに入った。

 そうしたら、いきなり辺りの壁に魔法陣が現れた。


 そこからにゅーーぅっと、天使たちが生まれてくる。


「ああ、こうやってこいつら生まれているのか」


 いいながら、爆発付与したクロスボウで、射ぬいていく。

 実体化してすぐに爆発して、数体が灰になった。

 倒せなかった敵は、シュウとリンが止めを刺した。


「ここまでで、羽と灰がかなり貯まったな」


 すでに、このパーティーで700近くの敵を倒している。


「主よ、この層も制圧したぞ」

「ああ、ありがとう」


 これで、この層もクリアだな。

 次で15階層だ。

 きりもいいし、次の16階層前あたりで一度休憩しよう。


 15階層に来ると、パワーしか出なかった。

 その代わり、持つ武器のバリエーションが豊富になっていた。


 今も槍を持ったパワーに槍を突き立てたれ、回避したと思ったら盾をもったパワーに挟まれる。

 それを力任せに弾いたら、横から大剣を持ったパワーが斬り込んできた。


 俺は、その下をスライディングして、通り抜け様に双剣で両足を切断する。

 そして、起き上がりに下から上に2条の剣閃を引き連れて斬り裂いてトドメを刺した。

 灰になった天使を煙幕にして盾のパワーの首を斬り裂き、蹴りで槍のパワーの方へ吹き飛ばす。

 怯んだ槍のパワーにクロスボウを3発撃ち込み、爆破した。


「なんかユートのやつ、動きが尋常じゃないな」


 ガントが唖然として呟いた。


「あれで、武技アーツ無しなの?本当にユートさんて、テイマーなのかな…」


 と、遠い目をしながら(それでもちゃんと、敵を倒してるからエライ。)

呟いた。


「わぁ、パパカッコいいねー!あんな動き出来るんだ。私もやってみよ!」


 と、リンだけがハイテンションに感動してた。


 …しかし、なんか違和感があるな。

 いくら、個々の意識があるとは言え、ここまでガラッと戦い方が変わるもんだろうか。


 少し、用心しておこう。

 と、ユートだけは、パワー達のあまりの変化に警戒を強めた。


 ニケとカルマは、違和感を作っている存在がこの階層の真ん中にあるフロアに居ることに気が付いていた。しかし…


 さて、どうします?とカルマに目線を送るニケ。

 そのまま、行けばいいと顎で先を促すカルマのやりとりがあるだけたった。


 真っ直ぐ進んでいくと、扉の前に着いた。

 予想通り、ボスがいるようだ。

 ただ、10層にいたような召喚されて出てくるのと違い、既に中に居ることが感じ取れる。


「全員、ボス戦だ。補助スキル準備!」


 了解!という返事と共にスキルを使用する。

 カルマとニケは、魔力を溜めている。


 ゴゴゴゴゴッと、扉を押し開ける。

 中を見ると、一体の天使がその身を翼で包んで待ち構えていた。


『人の子よ、我等の住処に侵入して何を望むのか。如何なる理由とて我が主に仇なす罪、万死に値する!』


 ブワッと翼を広げた。


 大天使サマエル ランクS 種族:天使 HP:4444/4444


「サマエルか…。Sランク!アイツの鎌には気を付けろ!ぞ!」


 わかった!と全員頷いた。


 すると、サマエルが大きな鎌を横薙ぎに振った。

 それと同時に、前方の3方向に衝撃波が飛ぶ。


「防御するな!回避!」


 ユートから号令を受けて、全員回避する。

 衝撃波は、壁にぶつかりその壁を溶かした!


「うげえ、何あれ!壁が溶けちゃってるよ!」 


 シュウが溶けた壁に驚愕の声をあげた。


 しかし、攻撃はこれだけでは終わらない。

 今度は、被ってたフードを取り払い隠れていた素顔をさらけ出した。

 

 それは、まんま髑髏だった。

 黒く窪んだ目の穴には、光が灯ってた。


「うえ、あれで天使なの?!」


 シュウのいう事はごもっともだが、今はそれどころじゃない。


 そして、次の瞬間…

 ───キーーーーーンと耳障りな音か響き渡った。


「うがっ、がっ!」「きゃあッ!」「うわああああっ」


 ガントが直でくらい卒倒しそうになる。

 なんとか耐えたがうずくまってしまった。


 リンが悲鳴をあげて慌てて耳を塞ぐ。

 シュウも、びっくりしてたがなんとか耐えた。


「鬱陶しい奴。黙るがいい。…ホラーナイト」


 カルマが新しい魔法をサマエルに放った。

 悪魔のような顔だけの黒い影が宙を縦横無尽に飛び交い、サマエルを噛み千切っていく。


『ぐおぉ、なんと小癪な。だがこの程度の魔法では…』


 そう言ってる最中に、天高く駆け上がった…カルマ!?が、空中を駆け下りて来て、前脚によるプレスを喰らわせた。


 ドゴンオオオオオオオオオオオオオオン!!

 あたりに衝撃波が生まれるほどの一撃をサマエルに撃ち落とした。


『がぁあぁぁぁぁあぁっ!』


 サマエルは、地面にめり込みながら尚もカルマに踏みつぶされている。


「我が主に講釈を垂れるなど、身の程を弁えろ下衆が。グラビティフィールド!」


 踏みつけたまま、更に魔法を展開する。

 カルマの周りに重力の檻により、さらに潰されていく。


『き、貴様…ただのナイトメアではないな。一体お前は…』


 頭蓋が砕けて朽ちて灰になりながらも、カルマの正体を見抜こうと睨みつけるが、抵抗すら出来ない。


「貴様のような雑魚が知る必要はない。…消えろ」


 そういうと、より魔力を上げてついに頭を粉砕した。

 

 次の瞬間、サマエルは光の粒子と灰になり消え去った。


『私の出番が無いではないですか…』


 とニケだけが不満そうだった。


 サマエルがいた場所には、人のサイズに小さくなったサマエルの鎌と、死神風のフードローブが落ちていた。

 これ着たら、コスプレ状態だなと戦慄した。


「んー、アーティファクトではないが、マジックアイテムだな。これは、カーゴにしまっておくな」


 とガントは冷静に鑑定を済まして、そそくさと素材回収を終えた。


「なんか、カルマが強すぎて、相手がどのくらいの強さだったか分からなかったな」


 頭をぽりぽり掻きながら、困ったもんだと苦笑いする俺だった。


「主を侮辱するものは、我が許すわけがあるまい!」


 と、胸を張っていうのだった。

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