第22話 トラブルと人徳

 出てすぐに、ガヤガヤとやけに周りがうるさい。

 人だかりがある方を見ると、どうやらニケとカルマを待機させてた場所ようだ。


 近づいていくと、何やら一人の騎士が叫んでる。


「おい!魔獣共!ここは人間様の住んでる場所だぞ!貴様達が来る場所では無い。直ぐに消え失せろ!聞こえないのか!?」


 魔獣に言葉でどけさせるとか、とっても頭の悪い奴なのかな?


 …よく見ると、顔が赤い。酔っ払いか?


「あのー?

 その子達、うちのコなんですがー?」


 初対面だし、大人しめに聞いてみる。


「ああん?お前のだと?ははーん、お前テイマーか。魔獣を可愛がる頭のおかしな連中だな。残念だが、俺が見つけた獲物なんだ。お前みたいな雑魚は、下がっていな」


 そう言うと、スルリと剣を抜いた。あれは、ミスリル素材の剣かなー?

 まあまあいい素材持っているな。


「お、おい、いいのか?

 あいつニケに攻撃しようとしているぞ?」


 ガントが、心配そうに声を掛けてける。


「大丈夫じゃない?

 死んだら蘇生してみるよ」


 いや、アイツが死ぬ前提かよ!とツッコんできた。


 考えたら、あんな奴に俺のスキルなんか使いたいとは思えない。

 …しょうが無いなぁ。


「ニケ!その無礼なやつ、…手加減して…やれ!」


 言外に、殺さなければやっていいと言う。


 クアッ!と片翼をあげて返事すると、右前足をあげて…ドン!っと地面を叩いた。

 ゴゴゴゴゴ…っと、地鳴りが鳴った。


 相手の騎士はそれだけで、その場でたたら踏む。

 そしてすぐに、ビュンっと風を切りながら左前足で薙ぎ払う(ツメは出していない)。

 バチンと音がし、空を3回転半したかと思うと地面にフライングキスを成功させてから、騎士はその場でのびた。


「おお、一瞬シャチホコのようだったぞ。ぶふっ」


 堪えきれず、息が洩れてしまった。


 その様子を見ていた、野次馬という名の観客は、一斉におおおっ!と歓声をあげたあとに、拍手喝采した。


 中には、"あのクソ騎士ざまーねーぜ!"とか言ってるやつもいた。

 こいつ、見た目通りに人徳無いな。


 そこに、騒ぎを聞き付けたギルド職員が駆け付けてきた。


「何事だ!…て、貴方は先程登録されたユートさんですか。何があったんですか?」


 困った顔が張り付いたギルド職員が尋ねてきた。


「いやー、俺の従魔に絡んで討伐とか抜かすから、軽く撫でただけだよ。うちの子がね」


 確かに派手に倒れている割には、血が全く出ていない。と確認すると、倒れている騎士の顔を確認しにいった。


「この人は…、なるほど。分かりました、この件は勘違いしてた騎士が起こした事故ということで…」


「事故ー?

 どう見ても、喧嘩売ってきてたぞ?」


「いやー、この人はこれでもBランクの騎士で、厄介ごとはあとあと面倒なので…」


 なるほど、事故なら本人の不注意で終わるわけか。


「しょうが無いな、分かったよ。まぁ、こいつに伝えておいてくれ。こいつらが野生の魔獣だったら、今頃お前はミンチだったぞ、と。躾の行き届いた、俺の従魔で良かったなと」


 手加減してやったぞと伝える。


「畏まりました。必ず伝えます。皆さん!この騎士は、事故とはいえこのSランクテイマーのユートさんの従魔に攻撃しようとしました。本来ならその場で処刑されていても文句ありませんが、手心をいただき彼は命を落とす事はありませんでした。寛大なユート様に拍手をお願いします!」


 おおおおおおお!!という歓声と共に再び拍手が巻き起こった。

 "Sランク!?英雄じゃないかっ!"とか言ってる人がいたが聞かなったことにする。


 しかし、なかなかの役者だな、この職員。


「では、私はこの騎士を救護室に連れていきますので!」


 そう言って他の職員と協力して、騎士をズルズルと引き摺っていった。


 ちなみにカルマは、面倒くさいと思っていたのか、黒い馬のフリをしていた。

 おい、ヒヒヒーンじゃねえよ。

 お前そんな可愛い鳴き方じゃないだろ…。


 その後、全員引き連れて宿屋に来た。

 辺はすっかり夜だ。


 今日は、色々あり過ぎて疲れた。

 そのまま寝たい気持ちもあったが、お腹も空いてるし、しっかりと話もしておきたい。


 宿屋に前金で4人分で1週間分支払ってから出てきた。

 部屋は、一番上のスイートルームだ。

 4人一緒に泊まっても問題ないくらい広いし中で部屋も分かれているし、なんと風呂がある!それで即決した。


 全部で、金貨1枚と高価だが、納得はいく造りだった。


 カルマとニケは、そのまま預けてきた。

 チップ弾んだら、新品の干し草ベットを二匹に作ってくれた。二匹とも満足そうだったので、良かった。

 ついでに、餌用の干し肉も渡しておいた。


 さて、約束してた酒場に4人で来たのだが。

 結構というかかなり賑わっているな。


 開いてる席が無さそうだったが、席を探してもらう前に上の方から声がした。

 見ると、ライとサナティが上から手を振っている。


「あ、ユートさん!やっと来ましたか!こっちに席用意しているので、どうぞーー!!」

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