第28話オークキング
「静かだな」
タックが砦の惨状を伝え応援を呼ぶために、ひとり馬に乗ってチャッチャカレまで戻ることになった。
ひとりで大丈夫かと思ったが、2人乗りだと遅くなるし馬を2頭とも使うのもどうかということで、任せることにした。
キャスカの死体は砦の中と周囲のは見当たらなかった。
ということは、連れ去られた可能性が高い。
オークに連れていかれた若い女がどうなるか。
考えるだけで虫唾が走る。
しかし、応援部隊を連れてタックが戻ってくるまでの間、オレたちがやるべきことは砦を見張ること。
木影に隠れて、何か異変があればその情報を応援部隊に伝えること。
それが、Eランク冒険者であるオレたちがやるべきこと。一刻もはやくオークたちのあとを追うべきだと気勢をあげたかけたオレをタックとミリゼットがなだめてくれた。
あたりには人はもちろん魔物や動物もおらず、オレたち3人の息づかい以外に聞こえてくるのは風に揺れる草の音と鳥の鳴き声だけの、静かな時間が過ぎていく。
数時間も経っただろうか。そろそろタックがッチャッチャカレに到着したんじゃないかと思えるころ
「オーク……それにハイオークだ。3匹砦の中に入っていくようだ」
ミリゼットの声に目を凝らすと、砦の裏口側からオークたちが砦に入っていくのが見えた。
オークとハイオークの違いは力の強さの他に知力の高さも挙げられる。
単純に力押しで殴ってくるオークと違い、ハイオークは倒した商人や冒険者の武器を使いこなし、個体によっては魔法を使ってくるやつすらいる。
「何しにきたんだ? もう砦の中には誰もいなかっただろう」
「おそらくだが、武器や食料の確保だろう。盗賊どもの備品を確保するために戻ってきたんだろうな」
「くそ。あいつらそんな知恵まであるのか」
「ゴブリンでもそのくらいはやるさ。それより、奴らが出てきたら後をつけるぞ。準備しておけ」
言うが早いか、装備品や手荷物をチェックしはじめるミリゼット。
「奴らの後を追えば、きっとやつらの巣まで案内してくれるはずだろう。その情報を応援部隊に伝えることができれば、きっと何かの役に立つ」
メルルもすでに準備を始めているのを見て、オレも慌ててその後に続いた。
「出てきた。やはり食料を持っているな。つけるぞ」
夜目が利くミリゼットを先頭に、オークたちに見つからないように後を追う。
風魔法で風の流れを制御して、匂いで気付かれることもないように細心の注意を払う。
チャッチャカレ西の街道とは違って道が整備されていないから歩きにくくてしかたがない。
その時ミリゼットが足を止め、何かを確認したかと思うと急に走り出しオークとの距離を一気に縮める。
『グガッ!?』
オークもミリゼットの気配に気が付くが、身構える前に3体とも首を刎ねられ即死した。
「ミリゼット!?」
オレとメルルも走り寄ると、崖下を指さした。
「あそこに洞窟があるだろう。見張りもいるようだし、あそこがオークの巣で間違いない。確認できたし、さっきの場所まで戻ろう……な……に……?」
驚いた表情でオレたちのさらに後ろに視線を向けたまま固まるミリゼット。
振り返ると、そこには今倒したハイオークよりもさらに巨大なオークがいた。
「オークキングだ! ヒカリ、メルル、逃げるぞ!」
ミリゼットの叫びが終わる前に、オークキングが手にしていた戦斧を振り回す。
「ぐはっ!」
オークキングの戦斧はとっさに抜きかけたオレの剣を折り、そのままオレを吹き飛ばした。
折られた剣が多少なりとも威力を殺してくれたのかなんとかオレの上半身と下半身が生き別れになることは避けられたようだ。それでも肺にかなりのダメージを喰らったのか、呼吸がまともにできない。
呼吸? それだ!
「【ウォーターボール】!」
オークキングの顔を飲み込むような形で水球をつくる。
苦しいだろう? お返しだ!
このまま水球を維持して窒息死させてやる。そう思ったのだが
『ブルゥウァァアアアア!』
オークキングがその周辺に風を巻き起こし、水球を弾き飛ばした。
どうやら、そう簡単にはいかないらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます