第20話美人受付嬢と肝っ玉ビキニ母さん
「あれ? うちのキャスカはご一緒じゃないんですか?」
それが、オレが冒険者ギルドに着いて受付で最初に言われた言葉だった。
「昨夜も寮に帰ってきてないみたいで、今日も出勤していないので、てっきりヒカリさんのお宅でいい雰囲気になってそのまま朝帰り……いや、昼帰りコースかと思ってたんですけど」
「いや、昨夜どころか夕方にいったん分かれてから会ってないぞ? 夜の宴会には来るって言ってたのに顔を出さなかったから、オレたちも急な仕事でも入ったのかと思ってたんだけど」
「そうなんですか? キャスカさんと同室の子も、彼女が帰ってこなくて心配してたんですけど……。あ、すいません少しお待ちください。ギルドマスター!キャスカさん、ヒカリさんのとこにもいないみたいですよー」
立ち上がって手を振りながら奥にいる初老の男に声をかける。きっと彼がギルドマスターなんだろう。
「なに? それはおかしいな。あいつは男関係以外で仕事を勝手に休んだりするようなやつじゃないんだがな。なあ、兄さんええと……」
「ヒカリです」
「ああそうそうヒカリだったな。ダイヤモンドタートルで一攫千金当てたんだよな。羨ましいぜ」
「いやあ、たまたまですよ。ははは」
こっちにやってきたギルドマスターが笑いながら肩をバンバン叩く。正直痛い。年齢はそれなりにいってるみたいだけど、身体能力はオレなんかよりまだまだずっと上なんだろうな。
「で、うちのキャスカのことは本当に知らないのか?」
「ええ。おととい商業ギルドのナナさんって人といっしょに家探しを手伝ってもらって、昨日は夕方まで引っ越しを手伝ってくれたんです。それで夜に引っ越し祝いで宴会をするからいっしょにどうかって誘ったら、差し入れを持ってくるって言って帰っていきましたね。それで結局戻ってこなかったんで、てっきり急な仕事か何かでこれなくなったんだと思ってました」
さっき受付嬢に話したことをそのままギルドマスターに伝える。というか、実際それ以上のことは分からないんだから説明のしようもないんだけどな。
「昨日は急な仕事は特には無かったはずだが……おい、お前らも昨日は定時であがったんだよな?」
「ええ。昨日は受付や買い取り窓口は時間通りで閉めて残業もなかったですね」
「だよなあ。だからこそ、オレぁてっきり兄さんとそういう関係になったんだとばかり……まさか……? いや、さすがにそれはないか……」
「何か気になることでもあるんですか?」
「ん? あ、いやたいしたことじゃねえんだ。 まあ、あいつもいい大人だからそんなに心配しなくても大丈夫だろ。それで悪いんだがちょっくら捜してもらって、キャスカを見かけたらさっさとギルドに顔を出せって伝えてくれるか? 兄ちゃんのとこにいたならともかく、そうじゃないなら拳骨の一発くらいはくれてやらにゃならんからな」
「オレのとこならともかくっていうのは分かりませんが、いいですよ。ギルドマスターからの指名依頼ってことにしておきますね」
「しっかりしてるぜ。報酬は、受付の列が混んでても先頭に割り込み1回OKな権利でどうだ?」
「受注と報告の2回で」
「いいだろう。契約成立だな」
「あー、それで、寮には戻っていないのは間違いないんだよな?」
「はい、間違いなく。少なくとも今朝の時点ではいませんでした」
オレとギルドマスターの話を聞いて苦笑している受付嬢に尋ねるが、返事は予想通りのもの。
今はもう昼近い時間だから、とりあえずまずは寮に戻っていないか確認に行くか。
「あ、寮は男性は敷地内に立ち入り禁止なので、確認に行かれるならメルルさんかミリゼットさんといっしょに行ってくださいね。玄関の横に受付があるので、そこにいる寮母のビキニさんっていう方に聞いてみてください」
「ビキニ? それが名前なのか?」
「はいそうです。肝っ玉母さんっていう感じで頼りになりますよ」
そうか。ビキニな肝っ玉母さんか。誰得なんだよ。
「それじゃ任せたぞ兄さん」
「キャスカさんをよろしくお願いします」
「ああ、任しとけ」
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