第19話新居でのんびりと
「ん……んあーーっ」
新居で迎えたはじめての朝。昨夜は飲みすぎてしまったせいか、すっかり寝坊してしまったな。
伸ばした体がキシキシ鳴ってる感じがする。
今からじゃ急いで冒険者ギルドへ行ってもいい依頼は残っていないだろうし、せっかくだからもう少しゆっくりしていくか。
「おはようメルル。ん? 何かいい匂いするな」
「おはようございます。せっかくお台所があるので朝ご飯を作ってみたんですよ」
「ふう、飲みすぎて頭がまだガンガンするな。おお、ふたりとももう起きてたのか」
「おはようございます。大丈夫ですか? ミリゼットさんもよかったら朝ごはんごいっしょにいかがですか?」
「おお、それはありがたいな。いただくよ」
「オレも食べるよ。それにしてもこの匂いはまさか……あ、やっぱり!」
テーブルに並べられていたのはこれぞ和朝食というものばかり。
鯵のひらき、冷や奴、豆腐とわかめのお味噌汁にだし巻き卵と納豆と漬物。それに何と言ってもホッカホカの白いご飯。
「うめえー!!」
以前は正直朝食なんて時間が無くてほとんど食べない生活を送ってたけど、久しぶりの和食は最高だな。醤油の匂いがたまらん。
「はじめて食べるものばかりだが、確かに旨いな。この納豆というのは少し苦手だが、他はこのご飯というのとよく合っていて旨い!」
「ミリゼットは納豆は苦手派かあ。まあこれは好き嫌いが分かれやすいからな。それにしても……んぐんぐ、おかわり!」
「すまない、わたしにも!」
「はい、まだたくさんありますからたくさん食べてくださいね」
メルルがまるで女神様みたいに見えるなって、もともと女神様だったか。じゃあ聖母?いや、それだと格が下がるか。とにかく、母性みたいなものが溢れて見えるぞ。
「ふうー、食った食った」
すっかり膨らんだ腹を撫で、お茶をすすって人心地つく。って、これ緑茶じゃないか! この街では紅茶しか見たことなかったのに。
「お粗末様でした。どうでしたか?」
「ああ、すごい旨かった。メルル殿は料理がこんなに得意だったのだな」
「ん、オレも大満足。おふくろの味って感じでくつろげたよ」
「ありがとうございます。また時間がある時には作りますので召し上がってくださいね」
「それはぜひ。でも、材料はどうしたんだ? 米とか味噌に醤油とか、どれもこっちで見たことなかったけど?」
「わたしも新しい能力が使えるようになったんですよ。ヒカリさんのサブチャンネルとしてわたしの配信しているチャンネルが、登録数10人になったんです」
「おお、おめでとう。それで食材調達の能力を?」
「正確には日本のスーパーマーケットで売られている食品をこちらの貨幣で購入する能力ですね。チャンネル登録者さんの数がもっと増えてきたら、他にもいろいろなお店のものが買えるようになりますよ」
ということは、これからは懐かしの日本食……いや、普通の家庭で出てくる料理くらいならお金さえあれば食べられるってことだよな? うーん、これは稼ぎがいが出てきたぞ。
「あ、そういえばメルルが能力をゲットできたっていうことはミリゼットもそのうち?」
「はい。残念ながらミリゼットさんは魔法系や地球に関係するような物は無理ですが、いわゆる身体能力の強化系なら適正があるので伸ばせますね」
「おお、ミリゼットやったな!」
「ええと、正直わたしは話についていけていないのだが……」
「ようするに、頑張りをみんなに認めてもらえればもらえるほどお前はもっと強くなれるってことだよ」
「本当か! 具体的にはどうすればいい?」
「そうだな。やっぱりミリゼットの魅力はそのボディーにある。薄着で男を挑発するような恰好をしてだな……」
「しょ、娼婦のような恰好ということか? むむむ……いやしかしそれで力が手に入るなら……むう」
「ヒカリさん、馬鹿なこと言わないでください。ミリゼットさん、ダメですよ。そんなことしたらバンされることだってあるかもしれませんからね」
「パン? なんだ?」
「パンではなくバン……垢バンともよく言われますが、ええと、わたしたちの場合だと……チャンネル……だとわからないですよね。ええと……」
「自分の魅力をアピールすることの出来る舞台やチャンスを取り上げられちゃうって感じだな」
「そう、それです。ミリゼットさんは変にそっちに走らずにそのかっこよさを前面に押し出していけば大丈夫だと思いますよ」
「ようするに今のわたしのままでいいということだな? 助かったよ。あのような恰好は好きな殿方以外には見せたくないからな」
ええい、こっちを見るんじゃない。
すっかりくつろいでしまったオレたちは、昨夜なぜかこなかったキャスカに炊き立てのごはんでオニギリを作ってギルドへ行くことにした。
しかしそこで聞かされたのは、彼女は昨日の夕方にオレたちの家を後にしてナナと別れて以降、行方不明になっているというという事実だった。
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