第15話コメント返しとそれぞれの昇格

 ダイヤモンドタートルをラッキーというかアンラッキーというか、とにかく倒した翌朝。


 水袋や武器など、最低限の荷物以外はオレのストレージに収納して夜明けとともに鉱山の町を出発した。


 着替えや予備の武具を収納したことで、足取りは往路よりもはるかに軽い。


 途中でなんどかジュエルタートルの素材確保のため鉱山に向かっている冒険者とすれ違ったので、落盤事故があったからしばらくは入山禁止になっていることを伝えるとほとんどのパーティーはそのまま引き返して行った。


 一部は「Fランク冒険者の言うことなんぞ信じられるか」と悪態をついて鉱山へ向かって行ったけど、それはもう知ったことじゃない。ご苦労様ですとだけ思っておくことにしよう。


 いちおう昨日のうちに近隣の街のギルドや領主のところへ早馬が走っているらしいけど、まだ情報が行き渡っていないのは距離の問題や魔物、野盗に警戒する必要があって時間がかかることから仕方がないかな。


 情報は鮮度が命。次にもらう能力はパーティーメンバー間の通信能力とかでもいいかもしれないと思ったところでメルルに確認。


「次に能力をもらえるのって、チャンネル登録何人?」


「えーと、次はチャンネル登録50人か動画の総再生回数5000回か、どちらかを達成したときですね」


「ちなみに今はどのくらいだっけ?」


「登録が13名で、再生数が888回ですね。ちょうどゾロ目です。はい、ミリゼットさんも拍手しましょうパチパチパチー」


「う、うむ。パチパチパチー」


 888回だからパチパチパチですか? まあいいけどさ。


 ここまで投稿した本数が14本。この動画が15本目で登録13人か。


 すごい多いっていうわけじゃないけど、毎日大勢増える新人マイチューバーの中には10本以上投稿しても登録0っていうのも多いからな。


 トップマイチューバーに憧れて自分でもはじめたはいいものの、現実に打ちのめされて消えていくマイチューバーは数知れず。


 そんな中でオレの動画を見に来てくれて、評価してくれたみんなには本当に感謝しかない。


 そういえば、最近はじめてコメントもいただいたんだぜ。


 チャチャッカレまではまだかかるし、警戒はミリゼットとメルルがしてくれているから今のうちにちょっと紹介させてもらおうか。


『マイチューバーと異世界転生の合体というのがオリジナリティーに富んでいて面白かったです』


 このコメントをくれた方、ありがとう。


 星の数ほどあるマイチューブの動画の中でオリジナリティーを出すのはなかなか大変だ。


 だけど、オレは実際にこのエランディールに転生してるからそういう面では他の実況者さんよりオリジナリティーは出しやすいのはありがたい。


 これからも頑張っていくから応援よろしくな。


 他の視聴者のみんなも、コメントもらえたらこんな感じで返事させてもらうこともあるかもしれないから、気軽に絡みにきてくれよな。


 そんなこんなでチャッチャカレに到着。ギルドへ行く前に露店で小綺麗な小さい袋を購入。


 オレのストレージのことをミリゼットに教えたら、そんな能力や魔法は見たことも聞いたこともないということだったので、これをアイテム袋と偽ってここから取り出したり収納したりすることにした。



「お疲れさまでした。皆さんのことは連絡が届いていますよ。大変だったみたいですね」


 ギルドではいつもの受付嬢が出迎えてくれた。


 名前は……えーと何だったかな? 聞いたような気もするけど思い出せない。普通に受付嬢でいいよな? 知りたい人がいるならもう一度聞いてみるけど?


 ダイヤモンドタートルの素材は解体せずに丸ごと提供したため、解体費用ということで2割近く差し引かれたけど、それでも金貨数千枚。本当は解体してくるつもりだったんだけど、ダイヤモンドタートルの体表は甲羅以外の部分もかなりの高度があってオレたちの手持ちの解体道具では歯が立たなかったから仕方がない。本来は討伐にも高ランクの魔法使いがダース単位で必要なんだそうだ。カッパータートルの甲羅の落下で倒せたのは本当にラッキーだったらしい。


「おめでとうございます。ヒカリさんとメルルさんはこれでEランクに昇格です」


 金貨といっしょに渡されたのは、茶色の魔法石のネックレス。Eランク冒険者の証だ。


「おめでとうふたりとも。よく似合うぞ」


「ありがとう」


「ありがとうございます。ミリゼットさんに手伝っていただけてよかったでです」


 さっそく首にかけてみる。 


 特別な力が込められているわけではないけど、これで見習い卒業だと思うと少し力がついたような、そんな感じがする。おっと、調子には乗らないように気を付けないとだめだな。


「ミリゼットさんにはこちらを」


「む? なんだ?」


 受付嬢が差し出したのは、銀色に光る魔法石のネックレス。


「おめでとうございます。ミリゼットさんは今回のダイヤモンドタートルの納品で貢献値が貯まったため、Bランクに昇格です」


「「おおーー!!」」


 オレとメルルはびっくりして叫んでしまったのに。当のミリゼット本人は固まってしまっていた。


「わ、わたしがBランク? 今回わたしは案内をしたくらいで直接討伐したのは若い亀1匹だけだぞ?」


「問題ありません。ヒカリさんからはこれからもあなたとパーティーを組んでやっていくつもりだと伺っていますので、れっきとしたしたパーティーメンバーの貢献値として加算されます」


「わ、わたしが……これからもヒカリ殿たちといっしょに……?」


 信じられないといった表情でこっちを見てくるミリゼット。


「嫌だったか? メルルとも話し合って、できればこれからも3人でやっていければと思って受付嬢さんに相談してたんだけど」


「嫌じゃない! むしろこちらから頭を下げてお願いしたいくらいだ! だがその、最近はいっしょにいたから分かっただろう? わたしに魔力が無いせいで何度も迷惑をかけてしまったし……」


「ミリゼットさん。わたしたちが迷惑だなんて感じたことはありませんよ? むしろこちらこそ足を引っ張って申し訳ないと思っているくらいですし」


「オレだってそうさ。迷惑なんて思わないし、できればこれからもいっしょにいてくれたら嬉しい」


「ヒ、ヒカリ殿……メルル殿……」


 銀の魔法石のネックレスを受付嬢から受け取り、ミリゼットと向かいあう。


「OKしてくれるなら、このネックレスオレがミリゼットにつけさせてくれないか?」


 しばらく見つめあった後、つけていたネックレスを外してミリゼットは後ろを向いた。


 そこにオレが新しいネックレスを首に手をまわしてかける。


 ミリゼットの肩は、しばらくの間小さく震えていた。





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