第14話視聴者さんありがとう! はじめてのレベルアップ
さて、問題はこのダイヤモンドの甲羅をどうやって持って帰るかだ。
まず、重くて担げない。かといってミリゼットにここまで降りてきてもらうというのも問題がある。
とても飛び降りてこれる高さではないし、正規のルートではジュエルタートルがうろうろしているだろう。さすがにひとりで危険地帯を抜けてきてもらうわけにはいかない。
そうなると、ロープで縛って引っ張りあげてもらう?
いや、それも無理か。
崩落するくらい地盤が緩くなっているんだし、無理をしたらミリゼットの危険が危ない。
しかもそろそろ他の冒険者も来る時間帯だろう。
こんな場所でダイヤモンドタートルの素材なんて下手な連中に見られたら、何を言われるかわからないしな。
街中なら手は出しにくいだろうけど、鉱山の中だと不幸な事故にされてしまいかねないと思う。
うんうん唸りながら悩んでいると、『ピロン』という音と共にいつも動画編集で使っている半透明のウインドウがポップアップした。
【チャンネル登録者数が10人になりました】
「お、おー!」
「やりましたね、ヒカリさん!」
これぞまさしく視聴者のみんなからの助け。なんというグッドタイミング!
「メルル、例の能力を頼む」
「はい! ……終わりました。もう使えるようになりましたよ」
「え、もう?」
なんだかかなりあっけなかったけど、時間がかかるよりはありがたい。
オレの頭に、能力の使い方が刻まれていく。ずっと昔から使えていたかのように違和感なく使いこなせるのが当たり前という感覚がオレの中に広がっていく。
手に入れた能力は【ストレージ】。
ダイヤモンドタートルに手を触れて、心の中で収納と念じる。
すると目の前にあったはずのダイヤモンドタートルがスッと消えて、代わりにウインドウに新しく追加された【ストレージ】の項目の中にしっかりと収納されていた。もちろん最新のユーザーインターフェースなので分解などの各種機能付き。
これで荷運びの問題はおおいに軽減されるはずだ。
ありがとう。視聴者のみんな、愛してる!
カッパータートルの銅の甲羅も収納。落ちた衝撃でかなり傷ついてしまっていたけど、試験達成には問題なし。というよりも種類はなんでもいいって確か言っていたよな。ダイヤモンドの甲羅で驚かせてやるのも面白いかもしれないな。
あ、違う。銅の甲羅はここからの脱出に使えるじゃないか。
「おーいミリゼット。今からそっちに行くから、待っててくれ」
「どうする気だ? 危険な方法じゃないだろうな?」
「大丈夫、ちょっと魔法使うだけだから」
さっき収納したばかりの銅の甲羅を取り出し、土魔法をかける。
なんということでしょう。甲羅が、長いはしごに姿を変えました。
強度的には不安はあるけど、重い荷物も無くなっているしひとりずつ上っていく分には問題ないだろう。
「それじゃ、メルルから上ってくれ」
「え? わたしは後でいいですよ。 ヒカリさんから行ってください」
「いいから。 大丈夫だと思うけど、万が一のことがあったときにはオレが下にいれば受け止めてやれるだろう?」
「ヒカリさん……わかりました。お先に行かせてもらいますね」
はしごで女性を先に上らせるということから変なことを期待した男性視聴者諸君、残念だったな。
そして女性の皆さん安心してほしい。
ミリゼットはズボン着用だ。鉱山に入るのにスカートのわけがないだろう。
「よかった。本当に無事でよかった」
無事に上ったメルルに続いてオレも上ると、ミリゼットに飛びつかれてその勢いでまた落ちそうになった。
さすがにまた落ちるのは勘弁してほしい。
はしごはきちんと消しておいた。 深い層にいる亀がこれないようにするためだ。
あいつらの体重ならはしごが持たないと思うけど、別に手間でも何でもないしな。
ただし、落ちた穴……水がでていた場所はそのままにしておいた。
鉱山入口にいる警備兵に落盤事故があったことを伝えたら、慌てて確認に行き、そのまま立ち入り禁止になったそうだ。
こういう事故があった場合は上位の冒険者とベテラン鉱夫がいっしょに潜り原因究明と対策を施すらしい。
何はともあれ、これで昇格試験は達成だ。
帰り道は荷物も身に着けるものは最低限にできるから、往路よりも楽だろう。
ただ、さすがに疲労は溜まっていたので、帰るのは明日にして今日は早めに飲んで休む。
飲み会でのひとこと。
「はしごを収納してストレージで操作すれば、銅のインゴットだけ持ち帰れたんじゃないですか?」
「あ」
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