第10話さようなら

「おはよう。ずいぶん早いんだな」


「おはようございます、ミリゼットさん」


「ああ、おはよう2人とも」


 いつも通りの時間にメルルとギルドへ行ったが、どうやら待たせてしまったらしい。


 いちどオレとメルルが泊っている宿にこないか誘ってみたけど、お金に困っているミリゼットには少し高すぎるのか、断られてしまったんだよな。


「遠出と夜営に必要そうな物は書き出しておいたぞ。さっそく買い出しに行くか? それとも朝食にするか?」


「オレたちは食べてきたから大丈夫。ミリゼットは?」


「わたしも、もう済ませてある。それではさっそく行くとしようか」


 オレたちが今生活しているチャチャッカレの街はルコット王国の西部に位置する辺境伯領に属している。


 西に数日行くと海があるらしく、今はまだ大丈夫だけど魚の味が恋しくなってきたらぜひ行ってみたいと思っている。


 南には巨大な森林がずっと続いていて、馬車で20日くらいの時間をかけるとミリゼットが昔いたというイミズルという所にたどり着くそうだ。


 イミズルにもいつか行ってみたいけど、ミリゼットは余りいい思い出が無いみたいなのでとりあえず保留中。


 東には広大な土地がずっと続いているけど、ミリゼットも行ったことがないので何があるのかはよくわからないそうだ。


 ただ、この国の王都があるのは国の中心部……チャッチャカレから東らしいという噂だけは聞いたことがあるらしい。


 ランクアップして旅費にも余裕ができたらいつか行ってみたいな。王様とかには興味ないけど、やっぱりせっかく異世界にきたからにはお姫様くらいは見ておきたい。


 そして北には今回の目的地である鉱山や、さらに進んだ先には大きな海峡があり、船で渡った先には王都よりも発展している大都市があるらしい。


 西側の国と繋がる玄関口で、いろいろな貿易品がはいってくるそうだ。


 食文化も発展しているらしいので、正直なところ王都よりも優先順位が高い。


 魔法石の調理器具なんかがあるおかげで、この街の料理も決してまずくはないんだけどさすがに日本と比べるとねえ……。ましてや魔法石も使えないそのへんの屋台のレベルなんかはお察しだ。とはいえオレの知らないところにはおいしいものもあるのかもしれないので、屋台巡りもしてはみたい。


 あ、これは今日ミリゼットにおすすめを聞いてみればいいか。時間があれば。



 武器屋でミリゼットの予備用のショートソードにオレとメルルの短剣を購入。


 オレもミリゼットがいつも使ってるようなかっこいい大剣を使ってみたいなーと思ったけど、試しに持ち上げようとしてあやうくギックリ腰になりかけた。


 筋トレしてそのうち使いこなしてやると言ったら、後衛には無用の長物だと言われた。残念。


 続いて防具屋で皮鎧を全員購入。


 オレとメルルは微調整だけでしっくりくるサイズの物があったけど、ミリゼットはみごとな張りのある胸部装甲のおかげですぐには調整できず、受け取りは明日の午前中ということになった。


「ヒカリさんはあのくらいがお好きなんですね」


 メルルの視線が痛い。


 大丈夫だ、メルルだってそのうち成長……するのか? 年齢はしらないけど、女神って成長するのだろうか。本人に聞くのは怖すぎてオレには無理だ。だれかコメント欄で聞いてみてくれ。返事があるかどうかは知らん。



「え、水も買っていくのか?」


 干し肉や黒パンを購入後、向かったのは冒険者ギルドの酒場だった。


 いつもの依頼で近場に出るときは、オレの水魔法で作った水を皮袋に入れて準備していて、買ったことはない。


「ああ。本来水袋は全員1つずつは持っておくものだ。近場で日帰りの依頼ならまあ1つでもなんとかなるが、遠出では何があるか分からないからな。引っかけて破いたり魔物に攻撃されて使えなくなったりするのは珍しくないから複数用意しておくにこしたことはない」


「でも、オレがいれば魔法で……」


「それは駄目だ」


 ぴしゃりと言い切るミリゼット。


「ヒカリ殿の魔力の多さは知っているが、それでも無駄使いするべきではない。いざという時に魔力切れにでもなったら即パーティーが危機に陥るぞ。それに最悪の場合はわたしたちがばらばらにはぐれてしまった場合だ。その時にヒカリ殿頼みではどうにもならないだろう? だから最低限の食糧と水だけは各自で持っておいたほうがいい」


「なるほど、確かにな。それじゃあ買っていくか」


 実際のところオレの魔力はメルルのチートのおかげで無限にある。もちろんメルルも。


 だけどミリゼットの言う通りだ。


 ここは異世界エランディール。地球よりさらに危険度は高いんだ。


 安全はお金で買う。準備不足で痛い目を見るのは馬鹿のすること。


 だから商人だって高いお金を払って冒険者に護衛依頼を出したりしているんだもんな。


「次は傷薬を買いにいくぞ。わたしのおすすめの店は2本向こうの通りにある……」



 その後しばらく買い物をしたあといつものゴブリン狩りの依頼を受けて街の外へ。


 軽くゴブリンを始末したあとは早めに夜営の準備に入ることにした。


 炭鉱までの道のりは森なので、今回も森でキャンプを張る。


 襲われにくく敵の接近を見つけやすい場所を探すのはなかなか大変で、ミリゼットに教えてもらわなければきっと変な場所でキャンプをしてしまったと思う。このあたりのことはタックたちには教わっていなかったことなので、本当にミリゼットをパーティーに誘って良かった。


 干し肉とドライフルーツで食事したあとは、特にすることもないので寝ることになった。


 もちろんお風呂なんてない……けど、余っていた水を使って体は拭いておいた。


 メルルとミリゼットもオレに続いて拭いていく。


 男の前でいいのかと聞いたら、こんなことは冒険者をやっていれば日常茶飯事だそうだ。


 逆にひとり離れるほうが魔物や動物に狙われやすくなるため危ないのだそうだ。


 この世界の男性冒険者は苦労しているんだなと思った。何がとは言わないが。


 見張りを1人だけのこして、2人は就寝。


 4人以上のパーティーだったら見張りに2人起きている場合もあるらしいけど、3人だと1人になるそうだ。


 順番はメルル、ミリゼット、オレの順番。


 体力的にいちばんきつい中間の見張りをミリゼットが引き受けてくれたのは助かった。


 そしてオレはほとんど眠れずひとばん過ごす羽目になった。


 なぜかって? ……美女の寝顔を見ながらぐっすり寝れるか?



 翌朝、日の出と同時に行動開始。


 依頼を受け出かけていく冒険者たちと入れ違いでギルドへ戻り、ゴブリンの達成報告をしてから、使った消耗品の補充とミリゼットの皮鎧を受け取りに行く。


「スイカップ……」


「古いです。いやらしいです」


 確認のため試着したミリゼットは、それはそれは凄かった。……凄かった。



「よし、2人ともお疲れ。今日はこれで終わりにしよう」


 まだ昼前だけど、明日に備えて今日は早めに解散だ。恒例の打ち上げも無し。


「明日はいつもより半刻早い時間にギルドに集まろう。今日はゆっくり休んでくれ」


「ああ、分かった」


「ミリゼットさんもゆっくり休んでくださいね」


 ミリゼットと別れ、メルルと宿へ。部屋の前でメルルと別れると、ベッドへダイブする。


 今回の準備にかかったお金で、オレが前世でマイチューバーとして稼いだお金はあらかた使ってしまった。


 これからはランクアップしてしっかり稼がないとこの柔らかいベッドともさようならか。


 ああ、昨夜の疲れがいっきに襲ってきた。


 ああ、もう限界だ。みんな……おや……す……み…………。



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