Turn270.魔界演奏家『両者決着の時は近い』
──べべンッ!
グラハムは余裕の笑みを浮かべながらピピリを翻弄していた。元々戦闘向きでないピピリからの攻撃など容易に避けることができた。
そもそも、グラハムはピピリなど眼中にないようだ。戦闘中のドリェンに向かって、熱く吠えたものである。
「さぁ、ドリェン! そろそろ終わりにするでやんすよ。お前のありったけの力を解放するでやんす!」
グラハムは三味線を激しく奏で始めた。
それに呼応するかのようにドリェンの肉体はさらに膨れ上がっていく。
「ガァアァアアアッ!」
「や、やば……」
アルギバーは只なる気配を感じて後退る。
遠目にそれを見ていたピピリも、同様の感想を抱いたものだ。
ドリェンの肉体に凄まじいパワーが集結していく。光り輝く彼の肉体は、何事かの必殺技を繰り出そうとしていた。
もしも、あの攻撃が放たれれば間違いなくその先に待っているのは──死。
それを、直感的に感じたものだ。
「やめるのねぇええ!」
ピピリは慌ててグラハムに飛び掛かり、演奏を妨害しようとした。
飛び退ったグラハムにあっさりと躱されてしまい、おまけに蹴りまで顔面に食らってピピリはひっくり返った。
「もう誰にも止められないでやんす。これで終わりでやんす!」
グラハムの気持ちも昂ぶり、演奏は最高潮に達していた。その指が弦の上でヌルヌルと動く。
──ベベンッ、ベンベンッ!
「これで終いでやんすぅうううぅう!」
「ウガァアアアァッ!」
グラハムとドリェンが共鳴し、同時に咆哮を上げた。ドリェンの全身が光り輝き、そのパワーは最大限にまで溜められた──。
『貫ケ』──!
「……はぁ、でやんす……?」
──グラハムの表情が強張る。
ここへ来て──その声は──その力は──。
──べべンッ……キュルルゥッ!
「……あっ!?」
グラハムの手元に異変が起こった。
三味線のボディーに、蜘蛛の巣状に亀裂が入った。
「な……な、な……!?」
それまで乱暴に使ってきたツケであろうか。あるいは長年使ってきた老朽化からか──三味線の亀裂は次第に大きくなっていく。
グラハムは何とか亀裂を阻止しようと手で押さえたものだが、当然抑えることなどできなかった。
──弦が外れ、不協和音が鳴り響く。
途端に、ドリェンから悲鳴が上がる。
「ウガァアアアァッ!」
溜めていたパワーが行き場を無くし、暴走したらしい。ドリェンの全身から血が吹き出し、痛みからのたうち回って悶絶し出した。
──隙が生じた。
やるなら今しかない──。
「そこだぁああぁあっ!」
「今なのねっ!」
それを好機とばかりに、アルギバーとピピリが同時に動き出した。
アルギバーは目の前で動きを止めた巨体に向かって強烈な斬撃を放った。
「閃光斬烈剣っ!」
強烈な一撃が、ドリェンの体を袈裟斬りにする。
「あ……あぁ……」
苦悶の表情を浮かべたドリェンはドサリと地面に倒れた。
「そ……そんな……先生、どうして……」
自我を取り戻したらしいドリェンが、グラハムに向かって手を伸ばす。
アルギバーも直ぐ様、視線をそちらに向ける。
丘の上に蹲る人影──三味線の残骸を手に持ち、ガックリと肩を落としたグラハム。
その前に居たピピリが、アルギバーの視線に気が付いて笑顔でピースサインを送った。
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