Turn271.魔界演奏家『悪あがきを』

「ゆ、勇者を見縊っていたでやんす。まさか……こんなことになるとは……」

 グラハムは愕然として、その場に膝を付いていた。


「何をしているんですか、先生! 先生が頑張らないと、勇者は永遠に葬れないんですから……しっかりして下さいよ!」

 尚も食らいつくように立ち上がったドリェンが、グラハムに向かって叫ぶ。

 戦いはまだ終わっていないのだ──。


 剣聖アルギバーはそんなドリェンに問答無用で斬撃を放った。

 ドリェンはその太刀を両手で白刃取りをして押さえ込む。

 アルギバーとドリェンは近距離で睨み合った。

「させるかよ! 勇者様に手を出させるか!」

 アルギバーが剣に力を込める。その熱意と情熱に──ドリェンは押され気味になる。


「せ、先生っ! 負けないで下さい!」

 それを不味いと思ったドリェンが、グラハムに向かって声を上げる。


 しかし──放心状態となってしまったグラハムにはその声は届いていないようだ。魂の抜けた抜け殻のようになり、ボーッと首だけドリェンの方に向けた。

「力を貸して下さい! このままでは、やられてしまいます!」

 悲痛の叫びを上げる元教え子──その声が、グラハムの心にようやく届いたようだ。

「ドリェン……コトハ……。俺っちは、もうお前たちを失いたくないでやんす……」

 改めてそう思い返したグラハムは、バラバラになった三味線の残骸を抱き抱えながら叫んだ。

「勇者よ……『止マレ』『ヤメロ』『倒レロ』『離セ』『消エロ』『死ネ』ぇえええぇええ!」

 思い付いた言葉をひたすらに並べ連ねて、勇者の息の根を止めにかかった。

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