Turn206.魔界演奏家『隠密行動に目立つ連中』
大陸を渡り、とある森の中にグラハムは身を隠していた。岩場に座るグラハムにサイクロプスのエリンゲが地図を広げながら説明をする。
「あそこに見えるのが、オールゴーの町ですね」
「すまねぇでやんすが、俺っちには見えねぇでやんすよ」
エリンゲが指を差しながら説明すると、グラハムが苦笑いを浮かべる。魔物たちもそれに倣って笑い声を上げた。
──チッ!
人知れず、エリンゲは小さく舌打ちをする。
それでも怒りを抑え、悟られないように──下手に出て胡麻をすりながら説明を続けた。
「商業の盛んな町ですね。露店も多く、美味い料理屋も多いところらしく人間たちの間では観光地として有名な場所らしいですよ」
「へぇー、そうでやんすか」
エリンゲからの説明に興味を抱いたらしく、グラハムは岩場から飛び降りる。
「人の声は……あっちでやんすね……」
耳を澄ませ、グラハムは町の方角を探った。そして杖をつきながら町を目指して歩き始めた。
「よーし、お前ら。オールゴーの町へ行くぞ」
ドシンと足音を踏み鳴らし、エリンゲが大声を上げる。グラハムは頭を掻いた。
「……お前たちでは、目立って騒ぎになってしまうでやんすよ。俺っちが一人で行って様子を見て来るから、待ってるでやんすよ」
確かに魔物の一行が町に現れれば大パニックになることは間違いないだろう。
それでもエリンゲは不服そうだ。
「え? なんでですか? いいじゃないですか?」
食って掛かるエリンゲに、グラハムは息を吐く。
「目立って俺っちの位置が勇者側の人間にバレたらどうするでやんす? 密かに勇者を倒すこともできなくなっちまうでやんすよ。隠密行動が一番でやんす」
「そしたら、ぶっ潰してやればいいんですよ!」
「……もういいでやんす。お前たちはここに居るでやんすよ」
ハァと溜め息吐きながらグラハムは血気盛んなエリンゲを無視して歩き始めた。
魔物たちは大人しくグラハムの言うことに従うことにしたが──エリンゲだけは、敵意の籠もった目をグラハムに向けていた。
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