Turn204.賢者『神様のお告げ』

 お城にある礼拝堂の中──神像に向かって祈りを捧げていたニュウ・レンリィは突如目を開いた。


──かつては仲間たちを裏切り、魔王の配下となって闇の力を手に入れたニュウであるが、今はこうして仲間たちの元に戻っていた。

 聖職者としてあるまじき行為を冒したニュウを果たして神は再び受け入れてくれるのだろうか──。

 賢者としての能力を再度賜わるべく跪いていたニュウだが、神妙な顔付きになって祈りを中断した。


「……どうだったの?」

 後ろから見守っていたテラも、祈りが終わったものだと思って声を掛けた。

 ニュウは顔色を悪くして、額に汗が浮かんでいた。

 余程ショックなことでもあったのだろうか。ニュウはテラの呼び掛けには答えず、しばらくボーッと遠くを見詰めて静止していた。

「まさか、駄目だったの……?」

 賢者としての能力を取り戻すことができずにショックを受けているのではないかと勘繰ったテラが心配そうな顔付きになる。

 ところが、そうではないらしい。ニュウは横に首を振るってみせる。

「いいえ。神様は寛大なお心をお持ちよ。穢れた私にも、もう一度チャンスを下さったわ」

 ニュウは手を翳した。──すると、その手が発光し、神々しい光が瞬いた。

 どうやら本当に、賢者としての能力は取り戻すことができたようである。


「良かったわね!」

 それはテラにとっても嬉しいことであった。

 ニュウが力を取り戻したというのなら心強い。また一緒に戦えるのである。

「……ただ、頂いたのは一部の能力だけよ。これからきちんと鍛練を積んでいけば、また元通りの力を手にすることはできるでしょうが……それまでは、みんなの足手まといになってしまうわ……」

「元々ニュウは私たちのサポート役なんだから、頑張るのは私たちだけで十分よ。今度は、ニュウを困らせるようなことはしないから、ニュウはニュウのできる範囲でのことをお願いね」

 表情の暗いニュウを励ますようにテラが言うと、ニュウの表情も明るくなる。

「それだって、私も足手まといにならないように努力するわよ」

 ニッコリと笑顔を浮かべるニュウ──。

 再出発を祝うかのように、二人は固く握手を交す。

 賢者ニュウ・レンリィが再びこの世界に舞い戻った。


──しかし、そうなると疑問が残る。

「……なら、どうしてそんな顔をしているの?」

 表情が戻ったニュウだが、どことなく不安げな面持ちであった。まだ何か、引っ掛かることがあるようである。

「賢者としての力を少しは取り戻し、神様から啓示を授かったの。その内容が……」

「啓示?」

 魔導師であるテラは賢者界隈の情報には疎いようで、ニュウの言葉に首を傾げている。

「ええ。神様から、世界中の出来事や予言なんかを受け賜れるのよ」

「へぇー。そんなことができるんだ。それで、どうしたの?」

「勇者様の情報も、もしかしたら頂けるかもしれないかと思って頂いたのだけれど……」

 そこでニュウは言葉を切り、険しい顔付きになる。

 それで、テラも何となく予想がついた。

「勇者様の身に魔の手が迫っているようなの」

 ニュウからの言葉に、テラも神妙な顔付きになる。

 勇者はこの世界の希望である。勇者がいなくなってしまえば魔物の手からお姫様を守ることは難しくなるだろうし、何よりこの世界に害を成す魔王を倒すことができなくなってしまう。

「まだ詳しいことは分からないわ。もう少し、神様から詳しい啓示を頂けるよう集中してみるわね」

 再びニュウは神像が捧げられている儀式の祭壇に向かって歩き始める。

「……なら、私はお姫様に知らせてくるわ」

「ええ、お願い。啓示を承るにはしばらく時間が掛かると思うから、それまで他のことはお願いね」

 テラは頷くと、今後の指示を仰ぐべくお姫様の元へ向かうことにする。

 礼拝堂にニュウだけを残し、外へと飛び出したのであった。

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