Turn202.魔界演奏家『魔物たちを従えて』
邪眼のグラハムは意図的に両目を塞ぎ、心眼力を高める努力をしていた。顔の半分を布で覆い、視覚情報に頼らず聴覚を発達させる。三味線や杖の音の反響で周囲の情景を把握していたのだ。
──コツコツ、コツ。
魔王城から出たグラハムは、ふと妙な反響音を耳にする。そこに大きな誰かが立っている──。
だからといって、自分と関係があるとも限らない。グラハムはそれを無視して歩みを進めた。
「お待ち下さい!」
ところがその者に呼び止められたので、グラハムは止まって、声のする方に耳を傾けた。
どこかで聞いたような声である──。
少なくともパッと思い浮かぶ親しい仲に、その声に該当する者はいない。
ドシドシと重量のある足音がグラハムに近付いて来た。──いや、一人ではなかったようだ。物陰に隠れていたらしい複数人の足音がこちらに近付いてきた。
周りを取り囲まれて、グラハムは警戒したものだ。
もしや、集団で暴行を働くつもりなのではないか──と。
身構えたが、どうやら違ったようだ。
「お噂は伺っております。どうか、我々にも勇者を倒すお手伝いをさせて下さい!」
代表して声を上げたのはサイクロプスであった。グラハムよりも身の丈は倍もあろうかというサイクロプスが、ちっぽけなグラハムに頭を下げた。
「俺はサイクロプスのエリンゲと申します! 何とぞ、お願いします!」
他にもゾロゾロとグラハムの周りに集まってきたガーゴイル、デーモン等の魔物たちが同じ様に頭を下げ始める。
──どこで嗅ぎ付けたのか、グラハムが魔王から勅命を受け、勇者退治に貢献することを耳にしてきたらしい。
グラハムはしばらく考えた。
なんせ、これまでグラハムを散々な目に合わせてきた連中だ。グラハムが何の能力も持たないことを理由に、酷い仕打ちをしてきた連中──。
まぁ、こうした有事の時にしかグラハムの能力は輝かないので、能無しと蔑まれてきたことは仕方がないのかとしれない。
それをこのタイミングで嗅ぎ付けた彼らは、まるでハイエナのようにも思えた。掌返しをする魔物たちを簡単に信用しても良いものだろうか──。
「宜しく頼むでやんすよ」
──しばらく考えた末、グラハムは頷いた。
過去は過去。今のグラハムを慕って来てくれたのならば受け入れよう──そう心優しく考えたのである。
そんなグラハムの決断に魔物たちは大いに喜んだ。
「ありがとう御座います! 手足となって……身を粉にして精一杯働きますんで、宜しくお願い致します!」
ペコペコと頭を下げ、魔物たちは必要以上にへりくだった。なんとかグラハムに取り入ろうとでもしているのか、腰がかなり低い。
邪眼のグラハムが杖をつきながら歩き出すと、その後ろを屈強な魔物たちが続々と付いてきた。
ところが──出だしからグラハムが立ち止まるので魔物たちも急停止する。
「ど、どうしたんすか?」
サイクロプスのエリンゲが少々迷惑そうに顔を顰めながらグラハムに尋ねた。
「ああ、いや……」とグラハムは頭を振るう。
「ただちょっと、開戦の挨拶を敵さんにし忘れていたことを思い出したでやんす」
「敵……?」
エリンゲが首を傾げるとグラハムは頷き、口元を歪めた。
「宣戦布告みたいなものでやんすよ。俺っちの存在を、敵さんに知らしめてやらないと……」
グラハムは言葉を切り──そして、一言呟いた。
「『落チロ』」
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