Turn200.魔界演奏家『異界の勇者討伐志願』
「魔界の王たる貴方様が、異世界に葬ったはずの勇者に苦戦している。……と聞いたでやんすが……不思議な話でやんすねぇー。存在しないはずの相手に手を焼いているとは……」
魔王城の玉座の間──。
邪眼のグラハムの言葉を批判とでも捉えたのだろうか、玉座に腰掛けた魔王からギロリと睨まれてしまう。グラハムは慌てて手と首を振るってそれを否定する。
「誤解しないで欲しいでやんす。俺っちは別に批判をしようっていうわけじゃないでやんす。ただ、不承不承ながら俺っちのこの能力を魔王様のお役に立てないかと思って、ここに来させて貰ったでやんすよ」
グラハムの意図を探るかの様な真っ直ぐな視線を魔王から向けられる。
一先ず、魔王から怒りを買わずに済んだようで、グラハムはホッと胸を撫で下ろした。
「フフ……。まぁ、魔王様が不審に思うのも無理がないでやんす。パッと出の俺っちなんかに何ができるのか……そうお思いでやんしょう?」
魔王は何も答えなかった。
「そんな魔王様のお考えも、俺っちの能力を知ればきっと変わると思うでやんすよ……」
──邪眼のグラハムの能力。
お役に立てるというそんなグラハムの能力とやらに魔王は興味を抱いたらしくピクリと眉を動かした。
普段、雑魚モンスターにですら虐げられ肩身の狭い思いをしているグラハムに、いったいどんな凄い能力があるというのか──。
グラハムは口を開いて、それまで秘めていた自身の能力を打ち明ける。
「俺っちの能力は……異世界に干渉できる能力なんでやんすよ」
異世界に干渉──どうやらそれは魔王が求めていたものであったらしい。自然と、座位の魔王が前のめりになっている。
「『予言』『言霊』とでも言うでやんすかね。俺っちが口にした災難を、異世界にて実現化することが出来るでやんすよ」
グラハムの持つ能力が異世界にのみ通用するものであるからこそ、この世界では力を振るうことができなかったのである。他の魔物たちからは能無しと蔑まれてしまってはいたが、対異世界の敵に関してはグラハムの右に出る者はいない。
「俺っちは、ずっと待っていたでやんす……。こんな日が来ることを。日々堪え忍んで、ようやく俺っちの能力を発揮させられる時がきたでやんす」
グラハムにとっても、これは千載一遇のチャンスであった。
魔王すらも手を出すことが出来ない厄介な異世界の相手──勇者に唯一手を下せるとすれば、それはグラハム一人だけなのである。
魔王の役に立てれば、グラハムのこれまでの評価も覆ることであろう。
「俺っちに任せては下さいませんか? 必ずや、勇者の首を討ち取ってくるでやんす。だから……その大役を俺っちに任せて欲しいでやんす。……もしも、勇者を倒したその暁には……その時は、魔王幹部の座を頂きたいでやんす……」
流石に厚かましいだろうか。グラハムは魔王の機嫌を探るように顔を向けた。
──魔王は何も口にはしなかった。
ただ一挙動──コクリと縦に首を振るった。
『お前に任せよう』
グラハムの脳内には、魔王からの了承の言葉が聞こえてきたような気がした。それでグラハムの表情もパアッと明るくなる。
「ありがとう御座います! 必ずや、勇者を仕留めてくるでやんす!」
感謝の言葉を述べつつ、グラハムはその場に平伏した。
◆◆◆
──トコトコトコ……。
しばらくそうして平伏していたグラハムだが、足音が遠ざかっていくのが聞こえた。魔王が玉座から立ち上がり、部屋から出て行ったようである。
グラハムは顔を上げるとフゥと息を吐き、緊張を解した。
魔王のために勇者を葬り去らなければならない。そのために、行動を起こさねばならない。
──ふとグラハムは窓の外に顔を向けた。暗雲に覆われ、日光が遮られた薄暗い空──。
グラハムにその景色は見えなかったが、そこは問題ではない。
「嵐が、来るでやんすね……」
グラハムはそんなことを誰ともなしにボソリと一言呟いた。
グラハムは立ち上がり、杖をつきながら歩き始めた。
「さぁ、勇者……勝負でやんすよ」
不敵な笑みを浮かべ、グラハムは玉座の間を後にするのであった。
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