Episode004.魔王『脅威が去った異世界で』

 この世界から、唯一の脅威である勇者を排除できたことで魔王の気も晴れやかであった。

 後は、どれ程の強大な力を持っていようとも、魔族に太刀打ちできる人間などこの世には存在しないのである。

「いや、待てよ……」

 そこでふと、魔王は自身の失態に気が付いた。

 不安要因があるとすれば、生かして残してきたお姫様だ。勇者に繋がる唯一の存在といえば、あのお姫様くらいのものだろう。

 もしや、勇者を再びこの世界に蘇らそうとするかもしれない。方法が存在するのかは分からないが、万が一、それが成功でもしてしまえば厄介だ。

「おい! 誰か、おらぬか!」

「はっ!」

 魔王が呼び付けると幹部のペデロペが飛んで、眼前で平伏した。

「グラディール城の姫をこの場に連れて来い。生死は問わぬ」

「畏まりました。すぐに手配を致します」

 ペデロペは再度頭を下げると、部下の魔物たちに指示を送った。

 魔物たちが一斉に魔王城から飛び去り、お姫様を捕らえに行った。


 魔王は深々と玉座の背凭れに寄り掛かった。

 後は待つだけだ。お姫様を捕らえ、ゆっくりと人間界を支配していけば良い。

 魔王はほくそ笑んだものである。障害となるものはなにもない。


──僕は必ず……。


 しかし、どうにも勇者の遺言が頭から離れなかった。


──お前を倒す!


「うっ!?」

 後ろから、誰かの手が伸びてきて引っ張られるような感覚に襲われた。

 驚いた魔王は飛び上がり、慌てて振り返った。

──誰もいない。

「気のせいか……?」


 魔王はホッと息を吐いたのだった。

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