Turn134.偽勇者『偽の勇者と犬の勇者』

「うぅ……うぅ……」

 ロディッツィオは苦しそうに顔を顰め、目を覚ます。

「大丈夫ですか、勇者様?」

 近くで声がした──。

 目を開けると、すぐ側にマローネの顔があった。


 ロディッツィオはマローネに膝枕をされていることに気が付いて、慌てて飛び起きた。

 そして、「賊はっ!?」と声を上げて周囲を見回す。

「大丈夫ですよ」

 マローネがおっとりとした口調で呑気に言った。

「ほら」

 マローネが指を差した先に、ロディッツィオは視線を向けた。


──その視線の先に、一匹の犬の姿が写る。

 犬の周りには盗賊団の男たちが倒れ、残るはリーダー格である髭面の男、ただ一人という状況。

 これを全て、あの犬一匹がやったのであろう。ロディッツィオは思わず息を飲んだ。

「な、なんだ、この犬は……!」

 サーベルを持つ髭面の男も、心なしかガタガタと震えている。どんなに攻撃を繰り出そうとも余りに素早く、一撃も攻撃を加えることはできない。

 一瞬の隙に、仲間が一人──また一人と倒れていくのだから、髭面の男が怯えるのは無理もない。

『悪いけど、彼女には指一本触れさせないよ』

──ふと、ロディッツィオの耳に微かに声が聞こえたような気がした。


「化物がっ!」

 サーベルを振りかぶり、髭面の男は無鉄砲にも犬へと突っ込んで行った。

『化け物って……随分な言い草だなぁ』

 犬は軽やかに横に跳んで、それを躱す。

「くたばれぇえっ!」

 髭面の男は運任せに、闇雲にサーベルを振るった。

──そんな攻撃に犬は呆れたように目を細める。


『そんなものは当たるわけはないだろう?』


 髭面の男の隙をつき、犬は男の顔面に体当たりを食らわした。

「ぐふっ!」

 顔面に頭突きを食らい、髭面の男は鼻血を出しながら後ろに倒れた。そのまま意識を失い、仰向けに伸びてしまう──。


「な、何者だよ。お前……」

 ロディッツィオは、自然と疑問を口にしていた。

 ただの犬にしては余りにも強過ぎる。

 チラリと犬がこちらに視線を向ける。

『僕は……』

 ロディッツィオの目を真っ直ぐに見ながら、その犬は言った──。

『勇者さ……』

 その言葉を聞いた瞬間──。

 ロディッツィオは脱力し、その場にへたり込んでしまう。彼の頬を涙が伝う。


「ゆ、勇者様……本当に、勇者様が助けに来て下さったんだ……!」

 重荷が降りたかのようにロディッツィオは大粒の涙を流し、泣き崩れたのだった。

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