Turn106.勇者『目を覚ます方法』

「やっぱ、駄目か……」

 不知火は僕をくすぐっている手を止めると、肩を竦めた。

「まぁ、そうでしょうね……」

 聖愛も端から期待などしていなかったようで、当然といったように息を吐く。

「そうまでして起きないなら、病院にでも連れて行ってあげたほうがいいんじゃないかなー?」

 紫亜が最もなことを提案するが、精神科医は後ろ向きのようである。

「うーん……。できれば、勇者様のことは側に置いておきたいんですよね。……なんせ、私たちにとって特別な存在ですからね」

 意味深な精神科医の発言に不知火と紫亜は首を傾げたが、特に説明する気もないらしく息をついた。

「勇者様の状態はこんな感じですね。……残念ですが、他に手がないというのなら、お引取り頂いても結構ですよ。こちらでなんとかしてみますから」

「病院は、最終手段ってところかしら」

 精神科医の考えに則るのであれば、そうなるだろう。聖愛は他に方法がないかと頭を捻る。

「水でもぶっかけてみる?」

 不知火の口から出た実力行使に、精神科医も「やってみますか?」と同意を示す。

「それは余りにも可哀想じゃないかしら……」

 乱暴な方向に進んでいく話しの流れに、聖愛が釘を刺す。

「それもそうですね……。勇者様に対して、あまりにも非礼ですね」

 精神科医も思い直して頷いた。余程、切羽詰まっていたのだろう。兎に角、僕を起こそうと必死になっていた。



 ◆◆◆



 それから、四人で話し合いが行われた。

 色々と意見を出し合ったが妙案は思い付かず、精神科医は溜め息を吐いて場を取り纏める。

「もう少し様子を見てみることにしてみますよ。明らかに異常な事態ではあるのですが……もしかしたらパッと目を覚ますかもしれませんし」

「……そうですか。わかりました」

 精神科医の言葉に聖愛が頷き返す。

「うん。俺らの方も、何か良い手がないか考えてみますよ」

「宜しくお願いしますね」

 不知火の励ましの言葉に、精神科医は笑顔を浮かべる。


 こうして──この日はこれで解散となる。

 友人たちは僕の身を案じて心配に思いつつも、一旦は解散してそれぞれの家路についたのであった。

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