Chapter4【寝起きの悪い勇者様】

Turn96.偽勇者『善意の嘘』

 ロディッツィオ・マーキンソンには大した戦闘力はない。魔法も使えなければ、剣すらも握ったことはなかった。唯一できることと言えば、動物と心を通わせることくらいである。あくまでも話せるのは一部の小動物程度で、当然モンスター相手には役に立たない。

 そんな彼がむしろ、よくぞ依り代の一員として迎え入れられたものである。

 勇者を肉体に宿す依り代の候補者に選ばれた人たちは皆、何かしらの能力に秀でていた。武術や魔術に長けていたりサポート役に特化していたりと、その筋でも有名な人物ばかりである。

 そんな猛者たちに引けを取らないものがロディッツィオにあるとすれば、それは『優しさ』であろうか。

 人々が苦しむ姿や悲しみに暮れる姿を見ることが見るに堪えず、ロディッツィオは身を犠牲にするために依り代として志願したのだ。


 ロディッツィオは今、十三人の依り代の一員として話し合いの席に加わっていた。順々に自己紹介を終えた後、この場は重苦しい空気に包まれた。

「勇者様はいらっしゃいませんか?」

 取り纏めであるお姫様が、何度も依り代たちに尋ねた。ところが、誰も手を挙げようとはしない。

 勇者の降臨の儀式が終わり、誰かの肉体に勇者の魂が宿っているはずであった。しかし、誰もそれに反応を示さないとは──。

 最悪の事態が思い描かれる。

──勇者は死んでしまったのだ。


「そんな……」

 ショックを受けたお姫様は、立ち眩んで椅子に腰掛けた。降臨の儀式を執り行った大魔導師テラも神妙な顔付きになっている。

「確かに、デスサタンの襲撃時には勇者様のお力が働いておりました。それなのに、どういうことでしょう……」

 その後に、勇者の身に何かが起こった──ということであろうか。

「もうお終いだ……。魔王に、抗うことはできないんだ……」

「ふざけんじゃねぇぞ! 俺らは、なんの為に集められたんだ!」

 絶望的な状況に、絶望に打ちひしがれる者──怒り狂って声を荒らげる者──様々な反応が上がった。

「勇者様が居れば、みんなは悲しまずに済むのに……」

 重苦しい空気の中、ロディッツィオは呟いた。

 しかし、頼れる存在である勇者は、もうこの世にはいない──。希望は失われてしまったのだ。

 希望を──希望を示さなければいけない。


 何を思ったのか、ロディッツィオは無意識に手を挙げていた。

 皆の視線が一気にロディッツィオへと集まる。

「私が勇者です……」

 人々の希望を絶やさず紡ぐために、ロディッツィオは宣言したのであった。

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