Turn41.異世界の少女『魔法の言葉』

「ンン……ンゥ……」

 目を覚ましたテラは、先ずは手足を動かしてみた。

 後ろ手に縄で縛られ、足には手錠が嵌められている。さらに、鎖で壁に繋がれているのでほとんど体の自由はきかなかった。

 体を揺らしてみるが、しっかりと拘束されており、それらを解くことは容易でないだろう。

『……オ……ショ……ロット……』

 悶えるテラの耳に、どこからか微かに声が聞こえてくる。

「……ンゥ……?」

 地下に造られた洞穴の奥底である。突然、他に誰が居るはずもない。

 それなのに、響いてきた声は徐々にハッキリとテラの耳に届いた。

『オルツェーション・アロット……』

 どこかで聞いたことのあるような声だ──思い返されるのは、勇者の声である。

 それがテラの耳には間近で聞こえた。


 途端に、テラの表情が変わる。先程まで絶望に打ちひしがれていた彼女の表情が希望で溢れる。

「オルツェ……オルツェーション・アロット……」

 テラの口からは、何故だかその言葉だけは発することができた。それ以外の言葉というのは、どんなに口にしようとしても、魔法で封じられていているので発することはできない。

 そして、テラが思いを托したその呪文は──奇跡を起こすことになる。


──ガシャン!

──ジャラジャラ……。


 テラが声に倣ってその呪文を口にした瞬間、テラを捕らえていた拘束具の縄や鎖──手錠までもが自然と外れて地面に落ちた。

 どうやらそれは、解錠の呪文であったらしい。


 テラは起き上がり、フラフラとした足取りで牢獄の扉へと向かった。薬でも飲まされているのか、頭がグルグルと回って満足に歩くこともできない。足取りが覚束なく何度も倒れそうになったが、何とか扉にまで到達することができた。


──ガチャガチャッ!


 案の定──というか、当たり前のように牢獄の扉には鍵が掛かっていた。頑丈なその扉は、強引に押しても引いてもビクともしない。

「……オルツェーション・アロット……」

 テラは再び、その呪文を詠唱した。


──が、何も変化は起こらない。

 この呪文では扉の鍵を開けることまではできないようだ。


 残念そうに顔を伏せたテラの耳に、新たな言葉が聞こえてきた──。


『……ト……プス……』

──何と言っているのか?

 テラはその言葉を聞き取ろうと、全神経を集中させた。

『……ザクトドープス……』

──それは聞いたこともない呪文であった。

 しかし、この場でその言葉が聞こえてきたということは、何らかの効力があるのであろう。

「ザクトドープス……」

 テラは何の疑いを抱くこともなく、その言葉を口にした。


──カチャン!


 扉の錠が音を立てて外れた。

「ンンゥッ!」

 テラは大いに興奮し、嬉しさの余りはしゃいだものである。


 援護のお陰で、テラは牢獄から外へ出ることができた。

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