Turn025.勇者『新たな旅立ち』

それから僕は、これまでお世話になっていたおばさんの家を離れることになった。


「今までお世話になりました。ありがとう御座いました……」

おばさんは身寄りのない僕を引き取ってくれた恩人なのである。

ホロリと、おばさんは涙を流した。

そんなおばさんを前にして、僕は後ろ髪が引かれる思いがしてなかなかその場所から離れることができなかった。

──ただ、僕にはやなければならぬことがあるのだ。


その為には、何時までもおばさんの優しさに甘んじて、ここに留まっているわけにはいかない。


「辛いことがあったら、いつでも戻ってくるんだよ。アンタは私の息子なんだからね」

おばさんは我儘な僕の体を、優しく抱き締めてくれた。

「おばさんも、お元気で……」

別れを惜しみつつ、僕も頭を下げた。


荷物の詰まったトランクを引き摺り、表に停まっている精神科医の車へと向かう。

荷物を後部座席に押し込み、次いで僕も車の中に入った。


運転席でハンドルを握る精神科医が振り返る。

「それでは、参りましょうか。勇者様……」

「うん。お願い」

僕が頷くとエンジンが掛かり、車は走り出した──。


これから僕達は、お姫様を守るため──異世界を救うために、現実世界を奔走することになる──。

遠ざかっていく故郷の町を見送りながら、僕は見知らぬ異世界へと思いを馳せるのであった。

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