Turn013.姫『逃げ込んだ町』

平野を抜けたお姫様は、ある町に辿り着く。

お姫様の記憶では最果ての町と呼ばれている都──『ポルンガ』である。

ようやく人の気配があるところに来れて、お姫様はホッとしたものだ。


町の中に魔物の気配はなかった。通りに居た住人たちに、お姫様は訴えた。

「私はこの国の姫君です。魔王に捕まって魔王城に囚われていたのですが、何とか命からがら逃げ出すことが出来ました。どうかお願いします。このことを、周辺の国々にお知らせ下さい!」

「なんだって!?」と、町の人達はお姫様の言葉に驚いて目を丸くした。


お姫様が本当に『姫君』という身分にあるかどうかも、ポルンガの住人たちに判別がつくはずもなかった。だから、町の人たちの中にはお姫様を怪しんで睨み付ける者もいた。

それでも、お姫様としては助けを求める立場であるので、頭を下げる他ない。

「お願いします。どうか私を信じて下さいませんか……」

お姫様は何度も頭を下げて訴えた。

──そんなお姫様の必死さが、町の人たちにも伝わったようだ。


「どうか、安心して下さい」

人垣を掻き分けて、一人の老人が前に出て来た。

「大変な目に合われたようですね。……こんな通りに居ては目立つでしょう。一旦、ワシのお屋敷にお出でください。そこでお話を伺いますから」

そう言いながら、老人が歩き出したのでお姫様は困惑したものだ。

「ああ」と、そこで老人は思い立ち、振り向いた。

「ワシはこの町の町長、ヤジローと申します。怪しい者ではございませんよ」

「そうでしたか……。すみません、ありがとうございます」

お姫様は親切に声を掛けてくれた町長に頭を下げて、その後について行った。

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