Turn008.姫『出口を守るモンスター』
「……困りましたわね」
お姫様は長い廊下を進み、ようやく魔王城の正面口へと辿り着いた。
ところが、そこには番兵の魔物が巨大な斧を担いで居座り、扉の前を守っていた。
──頭に鋭い二本の角を生やし、背中に大きな翼を携えたダーク・デーモンである。
上級の魔物であり、到底お姫様では太刀打ちすることはできず、瞬殺されるのが関の山だろう。
お姫様は魔物の存在にいち早く気が付いて物陰に身を忍ばせたので、ダーク・デーモンはお姫様には気付いていないようだ。
──だが、この魔王城から脱出するには、どうしてもあの扉から外に出なければならない。
勿論、他にも窓なり抜け道なり脱出口はあるだろうが、マップも分からぬ魔王城の中を闇雲に歩く気にもなれなかった。
他の魔物たちにも出会うリスクもあるだろう。
お姫様が牢獄から抜け出したことに誰も気が付いていない今こそがチャンスなのである。
悠長に、他の出入り口など探している時間などありはしない。
ダーク・デーモンも油断をしている。
相手は一体なのだ。一撃を喰らわせて隙を作り、ここから逃げ出せれば良いのである。
「やるしかありませんわね……」
お姫様は覚悟を決めて、地下で拾った短剣を握り締めた。
虫すら殺したことのない、お姫様の手は震えたものである。それでも、頼りの勇者がいない以上、お姫様自身でやるしかないのである。
そろりそろりと、柱や棚の陰を行きついでダーク・デーモンの背後へと忍び寄った。
絶妙に気付かれない位置まで接近したお姫様は、短剣を握り、ゴクリと息を飲んだ。
「……覚悟っ!」
柱から飛び出し、ダーク・デーモンに向かって一気に駆けて行く。
──ビィーッ! ビィーッ! ビィーッ!
そんな緊張の最中に、けたたましい警報音が魔王城内に響きわたった。
「何事だっ!?」
これにはダーク・デーモンも驚き、肩に力が入る。
『侵入者かっ!?』
遠くで慌ただしく動く、魔物たちの叫び声が聞こえてくる。
ダーク・デーモンも侵入者を撃退するために翼を羽ばたかせると、持ち場を離れて魔王城の奥へと飛んで行った。
お姫様は一旦、柱の陰に戻って身を縮ませて、それをやり過ごしていた。
魔物の姿が見えなくなると、お姫様は物陰から出て堂々と正面口の扉を開けた。
こうして、お姫様は囚われていた魔王城から脱出することができた。
何とも絶妙なタイミングで警報機が鳴り、注意を惹き付けてくれたものである。
お姫様は、救いの手を差し伸べてくれた誰とも分からない相手に感謝をした。
あれだけ魔物が集まっているのだ。──その人は、おそらくすぐに捕まってしまうだろう。当然、ただでは済まない。
お姫様とて、牢獄から逃げ出したのだ。再び捕まればどんな仕打ちを受けるか分かったものではない。
出来るだけ魔王城から遠退いて身を隠さなければ、安心することはできない。
お姫様は全力で荒廃した平野を駆け抜けた。
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