言の葉縛り
紀乃鈴
プロローグ
『――今月十三日、××県D市の○○川で溺れている女児が通行人の男性に救助された水難事故で、当時現場から走り去る自転車が複数台目撃されていたことがD署への取材で判りました。D署はこの人物らが何かしらの事情を知っているとみて、行方を追っています』
またこのニュースか。連日ずっと同じような内容を垂れ流している。でもそれももうすぐ終わるだろう。
『当初、D署は女児が川で遊んでいて溺れた可能性があるとみて捜査していましたが、地元住民からは生活排水が流れる川で誰も近づかない、と疑問の声が上がっていました』
あの時もっとしっかりと助けることができていたなら。
『なお、女児は病院に搬送されましたが、現在も意識は戻っていません』
こんな悲しいことにはならなかったのに。
『――速報です。××県D市で男児三人の遺体が相次いで見つかりました。捜査関係者によると、この三人は十三日の水難事故現場から自転車で走り去った人物の可能性が高く、関連性を慎重に捜査するとしています。死因は明らかになっていません。続報が入りましたら、この後のニュースエブリデイでも――』
ひとしきりニュースを伝え終えた後、テレビ画面がスタジオに切り変わる。司会者が速報に言及しつつ、スタジオのコメンテーターに意見を求めた。
『最近D市ではよく事件が起きますね。私には溺れた子のために三人に復讐した人物がいるように思えます。しかしそれぞれの自宅で遺体が発見されたとなると、犯行は難しい。犯人は何らかの超能力でも持っているのでしょうかね』
失笑。と同時に玄関の開く音が聞こえた。どうやら母さんが帰ってきたようだ。いつもよりテンポの速い足音と共に、部屋のドアが開く。
「意識が戻ったって今さっき連絡があったよ! すぐに病院に向かうわよ!」
スマホを片手に慌てた様子で言った母さんの言葉に、顔がほころぶのを感じた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます