第12話 どんなに外が吹雪でも

 外を見る。

 見続ける。

 やりたい事と、やらなけらばいけない事をキチンと分けて考えることだ。

 それが仕事だ。

 理想を言えば、50%50%。

 それでモチベーションが保たれる。

 こんな吹雪の日に(あんたの住む土地に雪は降るかい?この地方の吹雪はひどいもんだぜ?今日みたいな日には、伸ばした自分の掌も見えないほどだ。口開けて呼吸する?馬鹿だな)西軍のやつらも大人しくしてると思うだろ?

 普通。

 思うのは自由だ。 

 だが、現実はもっと不自由で馬鹿げてる。 

 知ってるよな?

 こんな日だから、そう思ってのんびり煙草を吸って、もう12回は読んだお気に入りの小説を読んでたら、下手すりゃ小説を読み終える前にズドン。

 最悪だろ?

 でもちょっと考えれば分かる。

 こんな吹雪の日だから、脱走が成功するんじゃないか。

 心のどこかにある願望は、どんな理由でもエサにする。

 そうだろう?

 そして、西軍の陣地から東10キロにあるこの塔に辿り着く。

 いや、北に行くのは、雪に埋もれて死にたい願望があるやつだし(一応、言っとくが、北はここより寒いぜ?学校行ったよな?)南に行くやつはドMだ。

 痛みを感じないと生きてる気がしないとか言っておきながら、銃弾で死にたくはないというド変態だけだ。

 西軍が西に脱走するかね?

 …東しかないだろ? 

 つまるところ、小鳥ちゃん達(もちろん老いた鳥も)は戦争で死にたくないから脱走する。

 ということは、吹雪で冷えた体を休めたり暖めたりする場所が必要だ。

 な。

 この塔の存在意味が見えてきたかい?

 そこで、俺がここに居る。

 仕事だからしょうがないと、誰も見てないのに鳥を探す俺が。

 しかも、残念なことに、弾はあと300羽は土に還せるほどある。 

 一羽に二発使っても。

 勘違いしないで欲しい。

 俺は別に鳥を撃ちたくない。

 撃つことに何ら喜びを感じない。

 溜め息吐きながらトリガーを絞っている。

 壁に鳥を書き足すときは、一羽一羽の顔を思い浮かべ、ストーリーを添えてやっている。

 向いているだとか、天職だとかも考えない。

 ただ、この場所は気に入っているし、ここに居るからにはやらなきゃならないことがある、それだけだ。

 だから撃ったさ。

 3日前と同じ、4羽。

 吹雪で難しかった?

 いやあ、そんなことはなかったね。

 発砲音が聞こえないんだろう。

 頭下げて黙々と塔を目指してやって来るんだぜ?

 真っ白な壁に、這っている虫をみつけた様なもんだ。

 そして、俺はそれが気になってしょうがないタチなんだ。

 それでもな。

 たっぷり3秒悩んだよ。

 しかも、ここだけの話、二度、トリガーを引きかけて止めた。

 勝手に溜息が出て、肩の力が抜けた。

 眉の上も掻いた。

 顎もさすったさ。

 もうあきらめようかと思った。

 しっ。

 秘密にしといてくれ。

 だが、やっぱり今日じゃないんだよ。

 それで、せめて、先頭から、撃ったよ。

 二羽目は、一羽目の血に気付いて立ち止まってるところで撃った。

 残りの二羽は逃げてもいいと思った。

 運のいい、悪いの境界線を、せめて、せめて。

 だがね、残りの二羽は逃げなかった。

 黙々と塔に歩いて来た。

 ただただ、足元だけ見つめて。

 それでな。

 撃ったよ。

 三羽目。 

 ああ。

 四羽目はね。

 三羽目が倒れるのを抱き抱えるように支えたよ。

 今日は、それで終わりだと思った。

 早く、小説の、何度も何度も読んだ小説の、あの素晴らしく悲しく、安心できる物語の世界に戻りたかった。

 最後の奴、どうしたと思う?

 ああ。

 手を広げて、顔を上げて、こっちに向かって来やがった。

 トリガーを引いたのは、認めよう、恐怖だったと思う。

 俺はトリガーを引きながら、逃げた。

 本当にもう、勘弁してくれ。

 俺の計画と違うんだ。

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