第3夜 朝起きる
4月の末か、5月の頭か。
ノンデンブルグの外れ、あまり人の来ない、短いトンネルを抜けた先に、天然の中庭がある。
人の来ないつっても、まあ、あの村では人に会いに行かないとそもそも誰にも会わないのだが。
そこで、まどろんでいた。
妄想に浸っていた。
まだ、13だった時の妄想だ。
13!
子供じゃないか!
だが、素晴らしい時でもある。
食べること、寝ること、遊ぶこと、そして、女の子の服の向こうを気にすること、そう、それ以外何にも知らない、つまりは、食べるために何が必要かを知らない時。
妄想が、現実にほとんど影響を受けない、無限で、羽が生えているような。
それこそ、飛べると本気で信じても、構わない季節の、終わりに差し掛かっていた頃。
マーガレットは、その名前よりも、より、花のような女の子だった。
辺境の、辺鄙な村には、珍しいほどの美しさだった。
妄想の中で、俺とマーグ(俺だけの呼び名だ)は恋人同士だった。
当然だ。
俺の頭にある、この世界なのだから。
俺はその年頃のカップルにありがちな競争に追われていた。
つまり…分かるだろ?
どの組が一番先に、相手の唇に触れるか、その次は…
Aの次はB。
そういうことだし、そういうもの。
俺は、俺だけの秘密の場所に、マーグを招待した。
男なら…まあ、20の高みを越えていたら思い出してくれるとは思うが(もちろん、30でも40でもいい)秘密の場所や、自分だけの秘密を教えたいと思うものだし、そういう気持ちを覚えた女の子とは、キスしたいと思うだろ?
まだ目覚めたばかりの春の空気の中、相思相愛の相手にキスする、あるいは、そう妄想するだけで、体の内側から、エネルギーが湧くものだ。
そして、なるべくなら、自分にとって最高の場所がいい。
俺はマーグの手を取って、天然のトンネルを抜ける。
光の向こうに、期待と共に。
そこで、目が覚めた。
ヤバい、という言葉を寝床に(あの場所とは雲泥の差だ、残念ながら)置き去りにするスピードで起き上がると、背中の痛みに感謝しながら、寝間着のまま窓際にしゃがむ。
後悔先に立たず。
後悔には、今夜、運が良かったら、ベッドで(ベッド!!笑う)出会うことにしよう。夜飯と一緒に噛み締めてもいい。さぞ旨いだろう。
イテテ。
膝が痛む。
どこかでぶつけたようだ。
そういえば、いつの間にかライフルを手にしている。
ライフル。俺のライフ。
そこから先は、歯を磨くのと変わらない。
荒く照準を合わせ、引く手でボルトを引き、ハンマーを起こし、鳥を覗き、引き金を引いた。
鳥が後ろに仰け反って、視界から消えた。
しまった。今日の鳥の顔を見なかった。ストーリーを描けない。
やれやれ…朝から汗びっしょりだ。
最悪の朝だ。
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