スナイパーの夜

市川冬朗

第1夜 壁の鳥

 クリスマスまであと12日。

 壁に鳥の絵を描きこむ。

 小さい指をOKの形にしたくらいの、簡単な絵。

 鳥を書いているつもりだし、鳥に見える。 

 が、チョークで書かれた白い鳥は飛びそうには見えない。

 一羽書いて、チョークを箱にしまう。

 こういうことは、おろそかにしてはならない。 

 チョーク1本無くしても大事だ。

 日曜日の昼下がりに、大通りの商店に買い出しに行くことが出来る、そういう場所にいる訳ではない。

 今日は月夜だ。

 ということは、多少油断しても良い、そういうこと。

 昨日振った雪が、月明りを反射して、塔から見渡す限り、銀色の舞台さながら。

 平野も、川も、だ。

 雪が降るまでは、多い日に二羽、三羽、壁に書き足していたが、ここの所めっきり数が減った。今日の一羽だって、4日ぶりの、その…獲物だ。もちろん、食べはしない、ははは。

 この寒さでは、川を越えるのは難しい。

 自分だったら?

 ブルルッ。

 思わず身震いする。

 外からの視界を避けるように、塔の窓に近づく。

 川から上がったところで、白い獣が2、3頭うごめいているのが見える。

 だろうな。

 それが自然の摂理だ。

 俺もそれを食えればね。

 少なくとも一生食うものに困らんだろうに。

 だが無理だ。

 そこまでは、まだ至っちゃいない。

 そう思いながら、昼間スナイプした鳥を見た。

 40、いや、50過ぎだろう。

 脱走兵か。

 疲れ切った、やる気のない男だった。

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