サマーロンダリング
真賀田デニム
サマー・ロンダリング
助けたネコが実は神様だった人っている?
いないよね、普通。
でも私が助けたネコは神様だったんだ。
助けたと言っても、お腹空かして餓死エンド直行のところに食べかけの
で、神様だったそのネコがダンディな声で私にお礼をしたいと言うものだから、便利な能力ちょうだいとお願いしたらサマーロンダリングっていう能力をくれたんだ。
その能力を使うと夏を何度もやり直せるらしくって、さっそく使ってみるとネコ神様にサンマを与えるところからまた始まったんだ。
本当にびっくり。
でも現実みたいでめっちゃラッキー。いえぃ!
「サマーロンダリングスタート」っていう掛け声がださいけど、こんなに素敵な能力ならそれくらい我慢できるってもんだよね。
只、能力を返す日に最高の夏を手に入れていないと、永遠にこの2020年の夏に閉じ込められるみたい。
でもそんなこと言われるまでもなくて、何度もやり直せるなら最後に最高の夏を手に入れるって当たり前だよね。
うん、最早すでに最高の夏を手に入れちゃったような気になってます。
「おっは、おはよー、
そのちーちゃんが傍まで来た瞬間に「サマーロンダリングスタート」と可愛く言ってみる。
きょとんとしたちーちゃんの映像が途切れる。
するとちーちゃんがもう一回、「おっは、おはよー、愛瑠」と向こうから走ってきた。
なんだかおかしくて笑ってると、「どうしたの?」ってちーちゃんが聞いてくる。
さすがにこれこれこういう能力を私は持っているんだ、いいでしょ?とは言えなくて、昨日見たお笑い番組思い出しちゃってと誤魔化しちゃった。
ごめんね、ちーちゃん。
それはさておき、今日はそのあとスマホ落として傷がついたのでサマーロンダリング使って落とさないように注意して。
パン屋でチャレンジして鮭パン買ったら予想以上にまずかったから、サマーロンダリング使って無難にカレーパンにしておいた。
って、こんなつまんない使い方してる場合じゃない。
ということで、翌日からつまんなくないサマーロンダリングの使い方をたくさん試してみた。
ジュースの自動販売機で当たりが出るまで使ったり。
水上公園のくねくねジェットスライダーを何度も滑るために使ったり。
プールサイドで滑ったおばさんが面白くて何度も笑うために使ったり。
地元のおまつりの射的で全弾当たるまで使ったり。
輪投げの輪が全て入るまで使ったり。
スモークターキーのおいしさを何度も味わったり。
(あ、そうそう、おまつりで全く当たらないクジ屋を発見したよ。百回違うクジ引いたのに四等すら当たらないとか絶対、当たりくじ入ってないよね。ほんとムカつく)
花火大会のときにベストアングルから撮影するために使ったり。
最後の連発仕掛け花火の高揚感を何度も味わうために使ったり。
そして、ショッピングモールの抽選会で金賞(なんと東京オリンピック観戦ペアチケット!)が出るまで使ったり。
ちなみに水上公園もおまつりも花火大会も全て、三人の男性と行ったんだ。
もちろん、サマーロンダリングを使って一人づつ。
私は可愛いので男性に困ったことはないのです。
自慢じゃないよっ。
(ちなみ、ちーちゃんが好きだった斗真君とこっそり付きあってたときもあるんだ。三日で別れたけど)
でね、なんで全部違う男性とだったかっていうと、一番私を満足させてくれた人と一緒にオリンピック観戦しようと思って。
結果発表ー。ジャララララララーン。
私を一番満足させてくれたのは、サマーロンダリングの能力でしたっ。って、男性陣ダメじゃん。
とはいえ、まだたった三人。
この夏に出会える男性は多分、五十人はいるだろうし、これからが本番。
でもそれはサマーロンダリングを使用しなかった場合の話であって、もしも使ったら十倍くらいになっちゃうかも。冗談抜きで。
ところでサマーロンダリングというより恋愛ロンダリングって名前が相応しく思えるけど、どうでもいっか。
でね、実際に冗談抜きで五百人近い男性と出会ったよ。
でもまさかの全員不合格でもうちょっと疲れたなって、本屋でオグ・マンディーノの十二番目の天使を見つけたとき。
マンガかアニメあるいはドラマのように、同時にその本を手に取る私と男性。
あっと思い見上げた彼の身長と顔がまず百点。
次にすいませんと謝った彼の澄んだ声が百点。
どうぞと譲ってくれるときの彼の笑顔が百点。
多分性格も百点だろうし、私はこの日、最高の夏を得るのにふさわしい男性と運命の出会いを果たしたんだ。
十九年の人生で男性にアタック(死語)したことなんてなかったのに、彼には自分から積極的に攻めてみた。
「元気が出るみたいですね、この本。でも一冊しかないし、良かったら一緒に読みませんか?」って。
すると彼は一瞬驚いた表情を見せたあと、「あなたさえ良ければ」と頷いてくれた。
そこから親しくなってお付き合いが始まるまでたいした時間はかからなかった。
え? オリンピック?
もちろん彼、えっと名前は
観戦した競技はウェイトリフティングだけど、暑苦しくてうるさくてはっきり言ってつまんなかった。
でもとなりに彼がいるだけで幸せだったので、オールOK。
「瑛太郎」
「愛瑠」
歩道橋の真ん中で私と瑛太郎は抱き合いキスをする。
それが私と瑛太郎の会ったときの儀式。
幸せオーラ注意報を高らかに響かせながら、私と瑛太郎はその後もデートを重ねた。
ベッドの上でなんども愛を確かめ合っては瑛太郎への想いを強めていって、いつしか私はサマーロンダリングを使わなくなっていた。
十分、一分、いや一秒でも使ってしまうと瑛太郎が消えてしまうような気がして。
そもそも瑛太郎に一切の不満がない。
正に私の求める理想の男性そのもので、そういった意味でもサマーロンダリングを使う理由なんてなかった。
繰り返す必要なんてない。
たった一度きりの時間軸だからこそ、至福の瞬間瞬間が脳裏に鮮明に刻まれる。
八月三十一日、私はネコ神様を呼んでサマーロンダリングの能力を返した。
相変わらずダンディな声のネコ神様は本当にいいのかと聞いてきたけど、私は迷うことなく首肯した。
だって最高の夏を手に入れたのだから、もういらないじゃん?
だから次の日、私は喫茶店で瑛太郎に言ったんだ。
結婚しようって。
瑛太郎を誰にも渡したくない。
彼を完全に私のものにしたかったから。
すると彼は頬をぽりぽりと掻いたあと、めんどくさそうに呟いた。
「うわぁ、結婚とか。ごめん。サマーロンダリングスタート」
突然、視界がぶれてホワイトアウト。
再び眼前の光景が見えたとき、瑛太郎の姿はなくなっていた。
まさか彼もサマーロンダリングの能力を持っていただなんて。
しかもそれを私に対して使うだなんて。
失意のどん底に落ちた私は、こうして最低の夏を手に入れることになった。
そういえば、ネコ神様は私に言ったっけ。
能力を返す日に最高の夏を手に入れていないと、永遠に2020年の夏に閉じ込められるって。
だから終わるはずの2020年の夏は終わらず、九月が来る前にまた2020年の夏が始まるのだと思う。
その夏にも終わりはなく、何度も何度も繰り返される。
最低の夏のまま、永遠に。
だから私は首を吊って死ぬことにしたんだ。
なんか唐突だけど、もう生きていたってしょうがないじゃん?
大大大好きだった人のいない最低の夏を未来永劫、繰り返すんだよ?
君だったら耐えられる?
無理だよね?
だから――
じゃあね、バイバイ、さようなら、夏のばかやろーっ!!
【お・わ・り】
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