第322話 暴露

 義久よしひさは出来るだけ丁寧に言ったつもりだが、サクラはそうは受け取らずに片眉をあげた。


「ふん、手のひらを返したような言い草だな。私たちの事は嫌いなんだろう? それに、篠宮の事は篠宮が決めるべきだ」


 昇降口の数段上から腕組みしたサクラに見下ろされて、義久もさすがにムッとする。


「つかっちゃんは人間だぞ。お前らみたいに強靭な体や能力は持っていない。訳の分からない世界で生きていけるとは思えない」


 それに、と義久は続ける。


「二度と戻って来れないんだぞ」





「……いいんだ、よっくん」


 篠宮はにこっとわらった。


 義久はいつもこの笑顔に負ける。ずるい、と思いつつ悪意のない能天気な明るい笑顔を向けられてつい「仕方ない」と許してしまう。


 だが、今回は違う。


 相手が普通の人間ならそれこそ応援しても構わない。


「つかっちゃん、君は知ってるのかい? その女は死なないんだぞ」





 ——え?


 と、篠宮は振り向く。そこには苦い顔をしたサクラが義久を見ていた。


 義久はサクラを睨み返すと、滔々とうとうと説明を始めた。


「遺伝子デザインの際に使われたゲノムはベニクラゲ——不死の生物といわれるクラゲだ。その遺伝子を取り込んだコイツは死なない。傷をつけてもすぐに修復するし、自己複製して同一の自分を作って永遠に生きて行く」


 篠宮はその説明を耳で聞きながら、驚いた顔のままサクラを見つめ続けた。


 サクラは視線を義久から篠宮に移すと、無表情のまま「すまんな」とだけ言った。


「すまないって、なんですか? なんでサクラさんが謝るんですか!」


「やっぱり……つかっちゃんには言ってなかったんだろ? 自分が化け物だって!」


 義久はここぞとばかりにまくし立てる。その頭をガツンと殴ったこぶしがある。


 浅木充博士の手であった。




 つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る