第302話 カエデさぁん!
「……!」
という事は、やはり
「——行くぞ」
篠宮総一郎が立ち上がる。
「あなたも——立ち会うでしょうね?」
「……」
校長は無言でソファから立ち上がると、総一郎と共に廊下へ出た。
「僕も行くぞ」
ソファから弾けるバネのように立ち上がった浅木博士もついてくる。そして義久の背後からベタっとくっついて来て話しかける。
「なあ、義久君」
「なんです? 急に馴れ馴れしく呼んで」
「サクラを残して、他の子達が『方舟』に乗ると思うかい?」
「……『須王サクラ』は奴らの精神的支柱です。逃亡を諦めるかもしれませんね。それに——『須王サクラ』を残すのは空間転移の研究にもメリットがある」
「ふうん」
浅木博士は口の端を曲げて笑いながら、義久から離れた。
「カーエーデーさぁん♪」
篠宮は普段と変わらないお気楽な声で、購買部の窓を叩いた。しばらくすると、内側のカーテンがサッと開けられる。窓越しに篠宮の姿を見つけて、目を丸くするカエデは、いつになく慌てて窓口の鍵を外す。
ガタガタと音を立てて窓を開けると、カエデはカウンターに身を乗り出した。
「何やってんの⁈ 今は大変な事になってるでしょ⁈」
「いやあ」
篠宮は頭に手をやると、照れたように笑った。その気の抜けた顔を見て、カエデはガクッとこける。
全く、この男は——今がどういう状況か、わかってないの?
「カエデさんも一緒に行きませんか?」
「は?」
カエデは篠宮の言うことが何を指しているのか、わかりすぎるほどわかる。しかしあえて、
チラッと篠宮の後方に目をやると、離れた所にいつもの実験用白衣を着たサクラが立っていた。
自分よりも若い見た目の姉——。
複雑な気持ちを押し込めて、カエデは視線を篠宮に戻した。
「……あたしは行かない」
「一人だけ置いて行けないですよ!」
カエデの胸がズキリと痛む。篠宮の言葉はいつも自分を救ってくれるのだと、今になって実感する。
カエデは篠宮の手を取った。
その細い指で篠宮の手を包む。
「ねえ、篠宮君」
「はっ、はいっ?」
突然の出来事に、篠宮は背筋を伸ばして上擦った声で返事する。その様子を見て、カエデは微笑んだ。最後に伝える言葉は決めてある。
「友達になってくれて、ありがとう」
つづく
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