第280話 この町の終わり
ちょうどその頃、アオバヤマ町の大通りを黒塗りの高級車が通っていた。さらにその前後を護るように、ゴツい外車が走っている。
町の誰もが家屋から出て来てその様子を目にしていた。
「トキワさん! 一体何事なんですか?」
トキワ電気の隣に住む元研究員の男が気色ばんで話しかけてくる。しかしそのトキワも突然の出来事に困惑するばかりだ。
「一日に二度もあんな車が外から来るなんて……それにあの車に乗っていたのは——」
トキワの見間違いでなければ、あれは篠宮会長だ。しかもその隣に座っていたのは——。
トキワはぶるっと体を震わすと、話しかけて来た男に向かって力なく答えた。
「……アオバヤマ町が終わるらしい。私たちはこの町を出て行く準備をした方が良さそうです」
元研究員の男はぽかんと口を開けたままトキワの顔を見つめている。彼だって商店街でスーパーの手伝う『役割』をしていた。
それが突然終わりになるなんて、思ってもいなかったのだろう。
トキワだって、この人工の町が永遠に続くとは思わなかったが、こうも突然に終わりを迎えるのは信じられなかった。
「トキワさん……なんでそんな事を……?」
トキワはズレた眼鏡を指で押し上げると、去りゆく車列を見送りながら答えた。
「あの車に乗っていたのは篠宮会長と——」
「そうだ、サクラさん! やっぱり俺と結婚してください」
篠宮の唐突な提案に、サクラと義久が盛大にコケる。浅木博士だけが冷静にうなずいていた。
「な、な、な、何をいきなり……?」
「いきなりでもないでしょう? もう一度俺との結婚を考えてくれませんか?」
「つかっちゃん! 何を考えてるんだ!?」
「いや、あながち悪い考えではないね」
サクラと義久のツッコミに対して、浅木博士は静かに評した。
「サクラは戸籍を持っているからね。少なくとも彼女一人は救えるわけだ」
そんな事はさせないけどね、という言葉を付け加えるのを忘れずに博士はニヤニヤと笑った。そしてわざとらしく首を傾げる。
「けどそれじゃあ、サクラの心配は無くならないよ。残る
篠宮はうろ覚えの知識を振り絞る。
「む、無戸籍の子どもの為の救済を求めます。そうすれば、俺とサクラさんの養子に出来ます」
え?
その場にいた皆が戸惑う。そして全員で篠宮にツッコミを入れる。
「いや、無理だろ」
つづく
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