第205話 最強VS変態


「だってそうでしょう⁈ サクラさんのキッスを手にするチャンスを、みすみす捨てろと言うんですか!」


「捨てろ」


 サクラに冷たく言われて、篠宮はガクッとこけた。


「そんなのないですよ〜。決勝まで残ったのに!」


「うるさい」


 すがり付く篠宮を振り払うサクラに、鬼丸が取りなすように声をかけた。


「俺が審判をする。時間が無いから一分でカタをつけろ。決着が付かなければ引き分けだ」


 それを聞いた篠宮はガバッと跳ね起きた。


「ありがとう、鬼丸君!」


「鬼丸、お前なんて事を言い出すんだ」


「いいじゃねえか。コイツの言う事ももっともだ。それに」


 ——それにお前が負けるとは思わん。


 そう言われてサクラも引っ込みがつかなくなってしまった。仕方なくレーザーライフルを構えた。


 かたや篠宮はにこにこして銃を持つ。


「では、始め!」


 鬼丸の号令と共にサクラと篠宮は同時に動いた。





 篠宮は身体を低くするとタタタと短く連射してサクラに迫る。別人のような軽やかな動きに、篠宮の本気を見て、サクラは戦慄しつつバックステップで距離を取る。


「くっ!」


 サクラの連射も篠宮を撃ち抜く——と、見えたのは彼の残像である。


「どこにこんな力が⁈」


 まさに変態の底力。


「ふははは!もらったー!」


 篠宮がサクラに向けてレーザーを放つ。白衣を掠めて青い光が拡散する。


 かわしたサクラもそのままの崩れた体勢からレーザーを撃った。


 ——すごい腹筋。


 そんな事を想像した篠宮は——。


 けられなかった。


 胸を射抜かれるような振動を感じ、胸のポインタに目をやると、篠宮のそれは赤く光っている。


「えっ、えっ⁈ 俺、負けた?」




 わずか四十秒で決着はついた。


 膝から崩れ落ちる篠宮に、サクラは呼びかけた。


「さ、帰るぞ」


 しかし返事はない。


 見れば篠宮は真っ白に燃え尽きて、焦点の合わない目をしていた。


「……鬼丸、背負ってやれ」


「俺が?」


 そう言いながらも「仕方ねえなぁ」と鬼丸は篠宮を背に乗せた。


「まあ、順当な優勝者だな」


「私が? お前に手加減されなければ、わからなかったぞ」


 俺は射撃は下手なんだよ、と鬼丸は笑ったので、サクラも篠宮の考えたゲームも意外と弱者にもチャンスがある構成であったな、と感心した。




 つづく

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