第168話 一花ちゃんにお願い


 六花ろっかが言うお願いとは、単独行動をとらせて欲しい、というものであった。


 だが、一花いちかはこの大会で優勝したかった。折に触れて「できそない」と揶揄やゆして来るβのカナエを見返す為に、なんとしても生き残らねばならないのだ。


 ただでさえハンデの戦闘スーツを着て、電波塔まで持ち込んでいるのを気兼ねしないように、「自分達が開発したのを持ってきたのだ」と言い聞かせているのに、何故この末っ子は、二日ばかりの大会さえサボろうとするのだろう。


 いや、何故六花だけが自分の制御を外れるのか?


 苛立ちと怒りで声も出ない一花はうつむいて肩を震わせた。その感情の起伏を感じとった二花が心配そうに一花を見ている。


 そこへ——三花がサクラを連れてやって来た。


「どうした?」


 一花と六花の間に流れる不穏な空気を察して、サクラも自然と眉を寄せた。


 六花はイタズラが見つかった子どものように急におどおどする。サクラには聞かれたくなかったと見える。


「……六花が——」


 一花が説明すると、今度は六花の方が俯いてしまった。


「あー……あれか?」


 何かを察するサクラ。その声に六花が顔を上げる。


「彼氏とデートしたいと?」


 ひっ、と小さい悲鳴をあげて、六花は真っ赤になった。一花はその様子を見てますます怒りが込み上げて来る。


「ちょっと六花!そういうことなの?私たちがβクラスに負けないように頑張っている時に、呑気のんきにデートですって?」


「あう……ごめん……なさい……」


 一花にまくし立てられて、六花は消えそうな声で謝った。


「……!」


 そのびくびくしている姿も一花の苛立ちを増す要因なのだが、六花は気付いてはいない。


「六花!」


「はいっ!」


 ビクッと背筋を伸ばす六花。その六花に、一花は人差し指を突きつけた。


「あなた、優勝賞品は要らないわよね?」


 ちなみに一花が言及しているのは「キッス」の方だ。六花は目丸くして驚いている。


「彼氏がいるんだから、優勝してまで誰かのキ……キッスはいらないでしょ?」


「?」


 確かに六花は勝敗には興味がない。一花は頬を染めながら強く言った。


「だからっ!あんたの彼氏連れてきて私達の味方をするように言ってよ!」





 つづく

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