第142話 おや、君は……


 一瞬、静まり返る教室。


 その場にいた全員の視線を受けながら、イテテと言って立ち上がる篠宮を見て、驚いた人物がいた。


 義久よしひさだ。


 篠宮に顔を見られないようにさりげなさを装いながら、背を向ける。その目は「何だってこんな所にコイツが居るんだ」と語っている。


 明らかに動揺しているが、あいにく他の誰もが騒がしい篠宮に注目していて、義久の様子に気がつくものはいない。


 一花いちかなどは転がって来た篠宮に駆け寄りたそうにみじろぎした。


 義久はスッと静かに移動してサクラの影に入ろうとする。さすがにサクラが気がついた。


 無言でじっと目で追う。


「……?」


 少し遅れて篠宮がサクラの視線に気がついた。彼女の視線を追うと、見慣れぬ人物が居る。


 薄い茶色の髪に色白の肌。隙のない着こなしのスーツ。


 篠宮はその人物の後ろ姿をじっと見つめていたが、突然「あっ!」と声を上げた。


「よっくん⁈」


 は?


 その場にいた全員が篠宮と義久に注目する。


「よっくん、よっくんでしょ?」


『よっくん』と呼ばれた方は肩を小刻みに震わせて振り向かない。ついに篠宮が彼の肩に手をかけた。


「よっくんってば!」


「よっくんと呼ぶな!!」


 振り返った義久は眉を吊り上げて叫んだ。篠宮は動じる事なくニコニコと彼の肩を叩いた。


「なんだー、やっぱりよっくんじゃないか。久しぶり!」


「『久しぶり』じゃないッ!話しかけるな!」


 親しげな篠宮の様子に、義久の運転手を含めみんなが目を丸くする。


「……知り合いか?」


 サクラが怪訝けげんそうな表情で訊ねると、篠宮は義久と無理やり肩を組んで元気よく答えた。


「はい!従兄弟いとこです!」


「違っ……違わないが、違うと言わせてもらう!」


 義久は髪を逆立てるほど怒っている。サクラは先程までの義久とのギャップに驚きながら呟いた。


「親戚なのか……」




 つづく

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