第134話 真上に咲く


 アオバヤマ町の上空に、光の華が開いた。夏の最後を彩るに相応しい、巨大な花火。


 白金色の光の花びらが開き、ゆっくりと尾を引いて流れて行く。



 身体に感じるほどの音の衝撃。


 眩い光景は一瞬にして永遠。


 空から舞い落ちる光は金色の花か。




 歓声があふれる。


 そして盛大な拍手。


 人々は声を上げ、亜人達は声も出ない。ただうっとりと儚い光の華を眺めやる。


 それぞれの瞳に黄金の煌めきが反射して、綺麗だと誰かが思った。





「き、綺麗ですねぇ、サクラさ……ん?」


 花火とサクラ本人が綺麗だとかけて、篠宮がサクラに話しかけると、そこにいたはずのサクラはどこにもいない。


「あれ?」


 キョロキョロと辺りを見回す篠宮の法被を一花がつんつんと引っ張る。


「サクラ先生なら、あっちにいます」


 一花の目線を追うと、打ち上げ場所のある森へ向かうために二メートルはあるフェンスを軽やかに飛び越えたサクラの後ろ姿が見えた。


「ええ?嘘ぉ!」


 渡したいものがあったのに、と篠宮はがっかりした。





「空が、浄化された……」


 カグラとカナエは寄り添いながら、空を見上げる。風で煙が流れた後には、星空が見えた。都市から離れた山あいの施設では目に滲むほど星がまたたいていた。


「真下で見ると、凄かったな」


「鬼丸先生、俺、鼻が効かない」


「火薬の匂いだな。そういえば、さっきもカナエを視認していただろう?」


 少々不満顔でシュトルムは人型に戻る。鬼丸は彼に細い紐のような物を渡した。


「?」


「篠宮から預かって来た。カグラ、カナエも、ほら」


「なんじゃ、これは?」


「花火だそうだ。余った火薬でトキワが作ったとか」


 薄い紙を捩って作ったそれは、線香花火であった。


「ここでして行くか」


 シュトルムと二人きりであれば、しなかったかもしれない。何かわからないが、カナエの役目が一つ終わった祝いのつもりである。


「——私の分もあるか?」


 鬼丸が驚いて振り向くと、少しだけ息を切らせたサクラがそこにいた。


「なんだお前、わざわざ来たのか?」


「わざわざとはなんだ。男二人では寂しかろうと、来てやったのだ」


「ほら」と鬼丸は線香花火を渡す。


 五人は自然と輪になって、地面に設置されたロウソクを囲む。


「前時代的だな」


「こんな事した事ないぞ」


「火薬が詰まっている方に火をつけるのだそうだ」


 面白そうにささやきあいながら、火をつける。ほの明るい優しい光が瞬く。そのかすかな音まで聞こえてくるような気がした。





 つづく

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