第103話 ある企画

「ふう、危ない危ない」


 カエデの元から逃げて来た篠宮はを抱えて旧校舎に入った。そして、その中の一部屋にそっと入ると、大きくため息をついたのだった。


「おう、お前か」


「鬼丸君。どうかな?仕上がりは?」


 鬼丸は目線でシュトルムの方を指した。そこでは室内でバットを振る白狼の人狼・シュトルムがいた。


 風を切るバットの音が、教室内に広がって来る。


「うわ、迫力だなぁ」


「俺はこれも作ってるぞ」


 鬼丸はダンボールを潰した板を篠宮に差し出す。ニヤリと笑いながら篠宮はそれ受け取った。


「いい出来できだよ」


 どうやら素振りの傍ら、鬼丸とシュトルムはダンボールを潰すという工作をしているらしい。


「俺もあっちの作業を見てみたいが……」


「そうだよね……その気持ちはわかるんだけど、鬼丸君は電気を放つ可能性があるから、ダメなんだよ」


「静電気でも危ないらしいな。お前も注意してやれよ」


 うん、とうなずくと、篠宮はダンボール箱とダンボール板を抱えて出て行った。





一花いちかちゃん、進み具合はどうかな?」


 今度は鬼丸の潰したダンボール板を渡しながら、篠宮は六姉妹のいる教室を訪れた。この六人がこちらの校舎にいるのは初めてのことらしく、落ち着きなく作業している。


 机を寄せ集めた作業台を作り、その上に均等に切り分けた和紙が置かれていた。


「材料さえ出来上がれば、いつでも始められます」


「ありがとう、これ外側の部分ね」


篠宮からダンボール板を受け取ると、一花は元気に返事した。


「了解です!」





 次に篠宮が顔を出したのは、家庭科室だった。戸を開けると、甘い香りがただって来る。


「レディちゃん、はかどってる?」


「あら、篠宮先生。まあまあね。こんなので良いのかしら」


 レディの他にカナエと白井ユキが、何かを細かくする作業を行なっていた。


「これ何の香りかなぁ?美味しそうだね」


「んー、余った物で作ったのよ。ケーキとプリン」


「後でもらってもいい?」


「ええ、もちろん。まずはコレね。二人に作ってもらったわよ」


「ありがとう!もらって行くね。じゃあ、また後で来るよ」





 そして最後にかなめの理科室へと篠宮は訪れた。


「サクラさぁ〜ん」


「うるさいッ!静かにしろ!」


「ええー、やっと硫黄いおうを買って来たのに……」


「それはわかっているが、お前……本当にこれで作るのか?」


 理科室には腕力のあるサクラとウォルフ、細かい作業が得意なカグラとユニ、それと何故かリリもいた。


「リリちゃんも来てくれたの?」


「黙れ、変態」


 黒羽リリの冷たい言葉に傷付きそうになる篠宮をカグラがフォローする。


「黒羽はエメロードにやりたいそうだ」


 微笑ましそうに笑うカグラに、リリは大人気なく食ってかかった。


「なんで言うんだよ⁈」


「いいではないか。祭りは皆でやるものだ」


「祭り、ねぇ……」


 リリに代わってウォルフがため息をついた。




 つづく

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