第41話 それぞれの朝
須王サクラは後悔していた。
起床してからずっと頭が痛いのだ。
今日が休みで良かった——。
彼女が勤務する学校も、世間にならって土日祝日は休みである。ちなみに昨日は初めて花見とやらを行った。
なかなかに楽しいものであったが、途中から記憶がない。誰かと何か約束をしたような気がするが、全く思い出せないのだ。
それよりも頭痛だ。
仕方ない。何かあればスタッフィーに連絡が来るだろう。
サクラはもう一眠りする事にした。
徳田六花は浮かれていた。
昨日のお花見というものを体験してからなんだかふわふわした気持ちであるのだ。
一人早く目覚めてしまい、布団の中で昨日の出来事を反芻する。
ユニ君の名前がわかった。
ユニ君にお礼を言えた。
ユニ君に自分の事を知ってもらえた。
ユニ君と食事した。
ユニ君に手作りのパウンドケーキを食べてもらえた。
ユニ君に食べてもらえるなら、もっとドライフルーツをたくさん入れたり、ナッツを入れても良かったかな。
今度作るなら——。
そこまで考えてから、彼の連絡先を聞くのを忘れていたと思い当たる。
思い切ってスタッフィーを送ってみようか?
でもαの私の事、本音では嫌がってたらどうしよう?
昨日は嫌々話を合わせてくれただけだったらどうしよう?
六花は浮き上がった気持ちを無理やり押さえつけた。
鬼丸はすでに起きていた。
彼は自分がβの後輩らを守らねばならぬと決めた時から、生活習慣を守っている。それが一番、自分の能力を使いこなすコツなのだ。
朝食を作りに家庭科室へ向かうと、すでにレディが来ていた。調理も半ば終わっている。
「おはよう。昨日は面白かったわね」
「悪いな、任せちまって」
鬼丸は所在なさげに近くの椅子に座った。鬼丸の重量に椅子が軋んだが、いつものことだ。此処の椅子はよく壊れる。
「楽しくなかったの?あの女の醜態も見れたのに」
レディは手早くボールの中の玉子をかき混ぜる。すぐ横ではフライパンが熱くなっていた。
「……」
「意外と仲良くしてたじゃない。いつから?」
「何も変わらねぇよ」
レディは無言で玉子をフライパンに流し込んだ。
篠宮ツカサは張り切って早起きした。いつもなら遅くまで布団に潜っている土曜日だが、今日は違うのだ。
「ふふふ……」
ニヤケが止まらない。
スキップで旅館の洗面所に行くと身支度を整える。髪に櫛を通して髪型をキメる。悪くないんじゃない?
再びスキップで部屋に戻ると、服を選ぶ。少ないワードローブの中から、いくらか見栄えの良い物を選ぶ。
いつもと違いすぎず、かついつもと違う雰囲気を出さねば印象に残らない。
服を決めると篠宮は鼻歌を歌いながら、一階の食堂へと向かった。
つづく
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