第31話 チャンス到来


 篠宮は両手に一花いちか二花にかを抱えて、更に三花みかの口をふさぐ為に、覚悟を決めた。


 俺の足で女子生徒の口を塞ぐわけにはいかない!


 篠宮は二人の口を押さえたまま、自分の三花の口を塞ごうとした。


「——え?」


 さすがに三花の顔に戸惑いの色が広がる。その隙を好機チャンスと見て更に近づく篠宮——。


「アホかぁ!!」


 どかーん!


 サクラのこぶしがアホ教師に脳天直撃の一打を喰らわす。一花と二花はパッと離れた。


「サ、サクラさぁん……」


 ブルーシートにめり込みながら、篠宮はとにかく三花の暴言を止めたと安堵した。





「まったく、お前は何をしでかすかわからんな……」


 サクラに首根っこを掴まれ、ズルズルと引きずられて、篠宮は元の席に戻された。


「俺はあそこの四人に話しかけただけですよぅ」


「話しかけただけで、なんであんな事になる⁈」


 ……確かに。

 両腕に女子生徒二人を抱えて、更に別な生徒にキスしようとしているのは訳がわからない。


「なんでですかね?」


「私に聞くな!」


 いつにも増してサクラは目をつり上げて怒っている。


 こんな時は、アレだ。


「ま、まま、落ち着いてサクラさん♪」


 篠宮はサクラの機嫌をとる様に彼女のコップに飲み物をついだ。


 ぶつくさ言いながらもサクラはコップに口をつける——。


「俺にもくれよ」


 鬼丸がぬっとゴツい手に空のコップを持って、差し出してきた。篠宮は気前よく飲み物をついでやる。


「どんどんやってよ。……そういや君とレディちゃんは三年生だけど『指導員』も兼ねてるって?」


 白井ユキの言葉を思い出しながら、篠宮は探りを入れる。鬼丸が同じ歳なのか、年上か、気になるのだ。


「ん?ああ、まあな。須王すおうみたいに頭が良ければ、教師になる事もできたんだろうけどな」


「スオウ?」


「なんだ今更。須王すおうサクラ、そいつの名前だ」


 鬼丸が顎でサクラを示す。サクラはコップをぐいっとあおって中身を飲み干したところだった。その顎から喉のラインの美しいことこの上ない。


 白い喉が動くさまを目にして、篠宮はドキドキした。


「きれいだなぁ」


「あ?」


「いや、きれいな名前だよね、うん」


 生返事をしながら、篠宮はと気がつく。


「須王みたいに——って、もしかしてサクラさんもこの学校に在籍してた?」




 つづく

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