第25話 お花見とは


 お花見。

 一般的には桜の木の下で、花を愛でながら食べたり飲んだりして過ごすものだ。


 しかもこの田舎町ではまだ桜が咲いている。


「まずは俺の自己紹介も含めて、どうですかね?」


 篠宮はまだ見ぬ生徒達がいる事を忘れてはいない。それに白井ユキのような愛らしい生徒もいるに違いない。


 半ば反対されるかな、と篠宮は曖昧に笑いながら提案してみたのだが……。


 ……。

 …………。


「あれ?」


 サクラと他の二人は顔を見合わせて首を傾げている。サクラは左耳に手をやって、生態端末カリギュラを操作し始めた。


「少し待て。今『おはなみ』を調べる」


 ちょっと待って!

 お花見知らないの?


 篠宮が引いている少しの間に、サクラは検索したらしく、ふむふむとうなずいて他の二人に説明し始めた。




「今画像を送る」


「……宴会か」


「面白そうね」


 鬼丸とレディは興味が湧いてきたらしい。一方でサクラはわずかに眉を寄せた。教師として『宴会』を勧めて良いものか躊躇ちゅうちょしたのだろう。


「確かに、篠宮先生を知らないβクラスの子はいるものね。紹介するのに良い機会じゃない?」


 レディは俄然がぜん乗り気だ。サクラがためらったのを見て、余計にやる気になっている。


「……俺も賛成だ。二つの校舎の間にある桜の木なら、外部からも見えないだろう」


 鬼丸も乗った。


「サクラさんっ?」


 篠宮がニコニコしながら促すと、サクラは眉を吊り上げつつ、


「うぬぬ……仕方あるまい。ただし、飲酒は禁止だ」


「ええー?」


「当たり前だ!校内で酒を飲むつもりか⁈」


 篠宮は至極残念そうな顔をした。


 大方、サクラやレディを酔わせるつもりだったのだろう。


 サクラはそう考え、ふんっと勢いよく職員室の戸を開けた。


「わわっ!サクラ先生……」


 そこにはこっそり立ち聞きしていた白井ユキがいた。


「白井まで……」


 サクラは呆れたが、仕方なさそうにユキに向かって改めて説明した。


「『お花見』というものを行う。βクラスの一年生から三年生まで、通達を頼む。日時は追って知らせる」


「やったー!篠宮先生、エライっ!」


 はしゃぐユキにVサインを送る篠宮。しかしサクラの雪女より冷たい視線に、凍りつきそうになったのだった。


 その目はこう言っていた。


「また、女子生徒をたぶらかしたのか?」と。





 つづく

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