第14話 知らないままでいたかった


 そうやって軽い気持ちで映像ガイドを見た篠宮は、ものすごく後悔した。


 映像の終了を告げる機械音が軽く鳴り、辺りが明るくなる。風防キャノピーが少し動き、搭乗者に端末から降りるよう促していた。


 しかし——。


 篠宮は外したヘッドセットを両手で抱いたまま、身じろぎもしない。


「知りたくなかったとは言わせんぞ」


 篠宮を直視しないよう気遣いながら、サクラはそう言った。


「……知りたくなかった、です」


 ぐすん、と鼻をすすりながら、篠宮はつぶやいた。


 涙目の篠宮を横目で見て、サクラは少し安堵あんどしていた。このガイドを見て眉の一つも動かさない者もいる事を思えば、彼の反応は実に人間らしかったのだ。


「——繰り返しになるが、つまりはそう言う事だ。当時、研究所では——」




 研究所では、電波と光の中間にあるテラヘルツ光の研究を行っていた。


 そもそもテラヘルツ光の研究目的は多岐にわたる。物質判別、情報通信、セキュリティ、そして医療。


 異変が起きたのはタンパク質の構造変化実験だった。


 始めは強いテラヘルツ光の照射実験でしかなかったが、それによってある変化が認められた。特定の遺伝子に異常イレギュラーが発現したのである。


 そしてラットを使った研究部門が設立される。もちろん遺伝子変異を目的としたものだ。


 そのうち、普通のテラヘルツ光ではなく、テラヘルツ光に宇宙放射線が影響したテラヘルツn光が発見される。初めに見つかった現象も、このn光が起因していたと思われた。


 そこからの研究の進捗しんちょく目覚めざましかった。


 異種間の遺伝子結合を行えるようになったのだ。


 ——通称『キメラ計画』。

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