第154話 ショトカ入れ替え。
「ノノンさん、何してるんです?」
ジリィちゃんと冒険した翌日。私はウルと一緒にお仕事をこなしながら、合間に作業をしていた。
「これは呪文を紙に書いてるだけですよ」
「…………おぉ、これ呪文なんですね。凄い長いですけど」
「八十から九十節くらいの呪文ですからね」
色々と武器も作って、防具にアクセサリーも用意して、後は呪文とアイテムかなって事で、今日はショートカットリストの総編集に時間を使う。
レベルカンストでも四十個しか枠が無いからね。上手いこと使わないとカツカツになってしまう。
「最近ね、私は気付いたんだよ。偉いでしょ? 褒めて?」
「……えと、いや、あの、何に気が付いたのか分からないので、褒められません」
「ぷうっ、ウルのケチ!」
何も分からなくても褒めたって良いんだぞ! て言うか多分、ウルは説明しても分からないと思うし。
でもまぁ、一応説明して上げようか。
「あのね、私は気が付いたんだよ。【屍山血河】が無制限バフなんだから、絶望の庭を範囲絞って自分だけに調整した魔法を作れば、他のステータス強化系のバフ魔法が全部要らなくなるんじゃね? って言う事実に」
「…………そう、なんですか」
「ほらぁ! 説明しても分からないじゃーん!」
「ご、ごめんなさいっ」
私は四十個あるショートカット枠の内、実に半分もの枠に自己バフを突っ込んでるバフ戦士な訳だけど、【屍山血河】で無限にバフ積めるんだから、ぶっちゃけショトカ枠勿体なくね? って気が付いちゃったんだよ。
いやぁ、私もジワルドで長いこと遊んでたのに、今頃気が付いたの? っていうね。マジでばーか。
…………いや違うんだよ。ジワルド時代だとイベントで【屍山血河】使えなかったりもしたから、仕方ない面はあるんだよ。
でもまぁ、うん。リワルドにはネームド禁止のイベントとか今のところ無いしね。
そんな訳でね、絶望の庭の自滅版を開発して、強化系バフを軒並み削除して、純魔構成に近いショトカにしようかなって。
なんかね、昨日ジリィちゃんと一緒にダンジョン行ってさ、ちゃんとコツコツと魔法剣士やってるの見たら、私もやりたくなっちゃったよ。
なので、十五個くらい枠空けて、大量に新しい魔法を突っ込もうかなって思ってる。
「うん。自分だけを出血のデバフで呪うから、別に状態異常とか使わなくて良いし、その分別の構成突っ込んで構築出来るから良いねぇ。風と氷も突っ込んで、呪いと別枠で自傷ダメージで出血稼いで、空いた容量使って回復も強化して、でも本当に無限強化だと萎えるかな? 二十秒くらいで効果が終了して、終わった頃にはルルちゃんのフルスペックと同じ強化倍率になってる感じで良いかな。ガチで無限強化したかったら改めて絶望の庭使えばいいし」
独り言をまたブツブツと口にしながら、紙に欠片を書き書きして呪文に仕上げていく。流石に九十節の新規魔法を即席で完全に組むとか無理っすよ。ショトカに入れるレベルの魔法だったらちゃんと紙に書いて精査して、粗がないか調べるよ。
そこそこの適当な効果で良いなら即席でも出来るけどさ。
「…………ん、よし。こんなもんかな? ショートカットの始動キーは【屍山血河】の詠唱に被せようか。これでネームドの詠唱が終わると同時に自己バフが勝手にスタートして、二十秒後にはステータスが四倍だよ」
良いぞ良いぞ。【屍山血河】はバフ積まれると回復も発動するから、新呪文に内臓された医療魔法と合わせて凄まじい回復量を叩き出せる。
これで、変身中に攻撃しても超回復して変身を続ける魔法少女になれるぞ。私と契約して自己出血少女になってよ!
「あ、これだけ枠空いたんだから、絶望の庭もショトカ入れとこうかな。流石に九十節のフル詠唱はダルいし。……どうせその内使うし」
名前何にしよう。絶望の庭だから、なんか、こう、ダークな感じでオシャレな名前が欲しい。何か無いかな?
絶望、絶望……、シェイクスピア? ハムレットとか?
「うん、良いや。
オシャレ度優先。名前に深い意味は無い。なんか、こう、シェイクスピアってだけでダークなオシャレ感あるじゃん?
うっひゃぁ、絶望の庭なんて無駄呪文入れたのにまだまだ枠が空いてるぞぉ☆
枠節約の為に一個の呪文に纏めてた《ヘヴンライト・ヘルライト》も解体して、医療魔法と解呪を別々にしようかな? 纏めたうえで即応性と性能を確保するのに代償式突っ込んだせいで普段使い出来ないからなぁ。
まぁ普段使い出来るようにしても、癖で軽いの詠唱して使いそうだけど。
「よし。回復は治癒とリジェネも入れて、念願の副作用無しで八十五節。死にたてホヤホヤくらいなら蘇生すら出来ちゃうぞ☆」
多分死んで五秒くらいなら蘇生出来るはず。部位欠損もにょきにょき生えるぞ。このレベルなら、医療魔法で治せない病気とかあっても、患部の周辺丸ごと一回消し飛ばせしてから回復すれば、治せるんじゃね?
いや、どうかな。それで治せるならジワルドで既に誰かやってる……? んー、分からん。
まぁ良いや。次は解呪で、こっちも副作用なーし。八十八節。何でも解呪出来ちゃうぞ! その代わり使用魔力がクッソ重いけど。
回復と解呪でそれぞれ一割くらい持って行かれる。重すぎるでしょ。私紙耐久だからリジェネ多めにしたのがダメだったかな? リジェネは総回復量が多いから重くなる傾向にあるし。
「…………よし、後で光属性補助特化の
決戦用装備だからね。やれる事は全部やろうね。
さーて、始動キーは普通に《ヘヴンライト》と《ヘルライト》で良いかな? いや、せっかくだから変えようか。
何にしようかな。回復が《ハートアップ》、解呪が《プルートキス》でどうだろう。冥王の口付けとか、解呪どころか即死呪詛喰らいそうだけど。
「パイロンレイとかカースファイアは続投で良いかなぁ。バフもリジェネと耐性アップは崩して、耐性系もりもりにして置こうかな。ダンジョン事変で糞犬の即死攻撃が若干怖かったし」
どんどんショトカを編集して行く。
絶望の庭は普段使いしちゃダメって意識があったから、改造するって発想が生まれなかった。超広範囲拷問用魔法だからね。適当に使ったら迷惑過ぎたもん。ぺぺちゃんに使った時だって、魔法を制御して範囲を限界まで絞っても広い闘技場ギリギリだったからね。
それに、ジワルドだとネームド禁止のイベントやPvPランキングマッチとか、【屍山血河】を前提としたショトカ構成だと組み直しが面倒だったのもある。
でもこっちにはネームド禁止のイベントとか、PvPマッチとか無いし。もしかしたらこの先出て来るかも知れないけど、ネームドスキルをユニークとレアに分けたんだから、多分イベントでもネームド使えるんでしょうよ。文句があるなら自分も取得しろってスタンスでさ。
「よし、こんなんかな? これで魔法戦士も純魔も出来るはず。やっぱ魔法を全力で使うならチャージ系とディレイは必須だよねぇ」
「おお、凄い。ノノンさんが何言ってるのか全然分からない」
「……ウルも、鍛えてみる? プレイヤーになると色々便利だよ?」
「あ、いや、遠慮します。僕には無理です」
ダメか。最近ちょっと逞しくなってるから、いけるかなって思ったけど。
鍛えてあげるのになぁ。リアル武術の理論とかも教えてあげるのに。
「一応、僕もアルジェ先生に色々と習っては居ますよ? その辺のチンピラくらいでしたら、何とかなるくらいには」
「え、まじ?」
何それ聞いてない。
「ちょ、ちょっと何教わったのか教えて? 型とかある? やってみて?」
今はキッチンの一角で仕込みをして、その休憩時間だったのだけど。
とりあえず適当なスペースで物にぶつからないように、ウルが簡単な型を見せてくれた。
「た、太極拳じゃん……」
そして披露された武術の型は、リアル武術でも筆頭と言って良いくらいに有名過ぎる中国拳法の一つ、太極拳だった。
空手の回し受けみたいな動作が連綿と続く、円運動を極意とした武術だ。有名な技で言えば
「あ、これってそんな名前なんですね」
「いやいや待って欲しい。アルジェはどこで太極拳なんて習ったの?」
「いや、知りませんけど」
そりゃそうだ。
少なくとも、太極拳を教えられる程の人はリワルドに居ないだろう。つまりアルジェはそれをジワルドで覚えた事になる。
私も徒手空拳の師匠が何人か居て、拳法を教えてくれた人はもちろん太極拳も使えるんだけど、私の知る限りではアルジェが教わってた場面とか見た事ないんだけど。
「も、もしかして他にも拳法覚えてるのかな」
「……さぁ? あ、でもアルジェ先生が自分で鍛錬してる時は、地面をゴロゴロ転がったり、腕を鳥の嘴みたいにして丸太をつついてたり、色々見ましたよ」
か、カポエイラかな? いや
簡単に言うと、カポエイラは逆立ちしながら足で殴る武術で、地趟拳は地面をゴロゴロ転がりながら下から殴る武術で、蟷螂拳はカマキリの動きを取り入れた殺意の高い武術だ。形意拳って言うのは動物とかの動きを取り入れた拳法の総称だね。
いや、待って、マジでどこで習ったのアルジェ…………。
無手を、徒手空拳を習った頃って、まだアルジェは契約して無かった筈なんだけどなぁ……。
「あと、こんな動きも…………」
ウルがゆっくりと、両腕を上段のガードに構えて肩を竦めて、それから肘と膝を振りかぶってから打ち付ける様な動作をする。
む、ムエタイ? それムエタイだよね? タン・ガード・ムエイからの、…………ティー・ソーク・カウかな? 肘打ちと膝の合わせ技ならティー・ソークとカウで合ってるよね?
「あ、アルジェは一体なんなんだ…………」
自己流の熊武術を作ってるのは知ってたけど、ベースにリアル武術があるのは流石に知らなかった。
「守りの技も教わりましたよ。こんな格好で、こう…………」
「さ、
「見ただけですぐに分かるノノンさんも、やっぱり流石ですよね。そっか、これはサンチンって言うんですね。初めて知った……」
三戦って言うのは、えっと、端的に言うと上段のガードポジションに内股で構えて筋肉をギュッて締めて、体を鉄みたいに硬くして打撃を跳ね返す防御技術だね。
極めると砂を詰めたサンドバッグみたいになれる。流石にウルはまだ見様見真似っぽいけど。
「もしかして、こう言う構えも習ってない?」
「あ、習いました!」
「あとこれ」
「それも!」
私は試しにササッと構えて見せると、習ってるらしい。
あ、アルジェ……。いや、この場合はもうアルジェが武術家になってるのはもういいけど、これを全部ウルに教えて、アルジェはウルをどうしたいんだ……?
ちなみに、構えたのは腕を顔の上に、左腕を臍の上辺りに構えた『無双構え』って言う空手の物と、同じく空手の
「もしかしてアルジェは、ウルを『史上最強の弟子ウルリオ』にしたいのか…………」
昔あったよね。こう、よわよわ虐めれっ子が達人が集う道場に通ってバケモノ地味て強くなってく漫画。名作だったし、私もVR筐体で電子書籍を読んだよ。て言うか私が徒手空拳に興味を持った切っ掛けだし。
ジワルドでリアル武術家見付けて技を教わる時も、「あ、これ漫画で見た奴!」ってテンションアゲアゲで修行出来た。「あ、ここ進研○ミでやった!」みたいなテンションだった。
拳法にハマってた時は一人称が「おいちゃん」になるロールプレイするくらいには楽しかった。
その繋がりで『天上○下』も読んで、「……水に出来ることは人にも出来る。なるほど」とか言ってた。我ながら頭おかしかった。
「ウルって、走り込みとか普通の特訓はかなり初期からやってたもんね
。実は成長値の育ちも悪くないでしょ?」
「どうなんでしょうね? ステータスでしたっけ、僕それ見れないので」
むぅ、NPCのステータス見る方法無いのかな。育成には必須だと思うんだけど。
「んー、ウルの育成はまた今度かな」
「あれ、どこか行くんです?」
「うん。ちょっとダンジョンに。残りの仕事任せて良い?」
「もちろんです」
そんなこんな、私はウルの育成計画を妄想しながら、またダンジョンへ。
「アクセサリー類の装備品作るのにも素材集めたいし、黒猫流の完成も急ぎたいし、やることいっぱいだなぁ」
最近ほんとに独り言が激しい。
「…………あぁ、なるほど。こうすれば良いのか」
あえて声に出さず武術スキルを使う。威力をわざと下げて、長く敵を殴れるようにして練習する。
-黒猫流初伝、
新しく組み上がった技で中型の竜を斬る。
初伝
-初伝、
さらに、一旦納刀してから初伝
黒猫流の技は、納刀状態からの抜刀攻撃と、抜刀状態からの攻撃で挙動が変わる。そう言う術理で仕上げてある。初伝
初伝
「素材集めながら黒猫流の開発…………、それにダンジョン購入資金に財産突っ込んだ分も、稼ぎ直さないといけないし」
うん。このダンジョン買うのに億単位でぶち込んだからなぁ。
それに、経験値を優先してドロップが渋いし。お金稼ぎたいなら黒猫ダンジョンよりヘリオルートダンジョンの方が儲かる。けど、あっちだと転送機能が無いから、深く潜るなら泊まり込みになる。
「流石に、ダンジョンでお泊まりしてお嫁さんとイチャイチャ出来ないのは辛い……」
『こいぬも、だんじょんでふたりきりで、ぎゃくにつらい』
「わかる。浮気になっちゃうからね。お互い我慢するしか無いもんね」
「手甲も作ろうかな。そのまま盾術が使えるのはデカいし。スマートなデザインが良いなぁ」
本当に、やる事が多い。
黒猫ダンジョンは千四百以降にも階層があるけど、一応は千四百を『最下層』と呼ぶ。そしてドロップが渋い黒猫ダンジョンの最下層で、ドロップ目当てに周回する予定もある。
決戦用の新装備品開発と、黒猫流の開発と、金策と装備用の素材集めと、ドロップアイテム周回。ふむ、忙しいな?
「…………急がないとなぁ。間に合わなくなる」
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