第151話 結刀【淼銀鏡】



 ルルちゃんの要望で、お嫁さんに高ケモリティの私を披露した次の日。

 私は黒猫亭地下にある自分の工房に篭っている。

 黒猫亭別棟の解放された方の工房じゃなくて、私専用の地下工房だ。

 そして赤く熱した鉄を槌で叩きながら、新しい武器を制作中である。


「………………チッ、甘い」


 そして密かにキレていた。


「形は整うんだけどなぁ。中身が伴ってない……」


 何をしているのかと言えば、私の新武器の制作だ。

 リワルドの基準で言えば、【おおとり】も【おおとり】も【鳳凰ほうおう】も、まだまだオーバーキル気味の性能を有してる。

 だけど、私自身の能力に追い付けなくなって来てるのも、また事実。ネームドスキルを手に入れ過ぎた。

 それと、恋濡こいぬの事もある。


「……構想には近付けてる。でも、あと一歩、何か足りないんだよなぁ」


 高レアリティの素材も使ってる。ダンジョン事変で手に入れてポーチに入れっぱなしだった素材を使ってる。

 だけど、何か、ちょっと足りない。


「メインが付与効果だから、ぶっちゃけると素材とか何でも良いはずなんだけど…………」


 何が足りないのか。いや、足りない気がするのか。

 正直なところ、欲しい効果もパラメーターも、もう試作の時点で出来てるんだ。けど、打ち終わった試作品を見て、私は何か、大事な物が足りてない気がしてもやもやするのだ。


「なんだろう。何が足りない?」


 独り言が止まらない。


「素材は何でも良いって前提が違うのかな。うーん、もうちょっと練ろうかな」


 結局、私は何も思い付かず、後片付けをしてから工房を出た。

 コレクションルームで名刀でも眺めてれば、何か思い付くか。そう考えて行けば、そこには恋濡こいぬが居た。


恋濡こいぬ? こんな所で珍しいね?」

『あ、あるじたま……』


 見れば、恋濡こいぬは少し寂しそうな顔で名刀を見てた。

 ふむ。やっぱりまだ、自分が刀になれないことを気にしてるみたいだ。それで、名刀に憧憬の視線を向けていたのかな?


「……恋濡こいぬ、キスしていい?」

『ふぇぁ? え、まっ--』


 返事は聞かずに、私は恋濡こいぬに抱き着いて強引にキスした。小さなお口の中を蹂躙する。うへへ、恋濡こいぬの唾液美味しいぜ!

 気が済むまで恋濡こいぬのお口を味わったら、ちゅぴって音を立てて口を離した。


『あ、あるじたま……?』

恋濡こいぬ。気にするなって言っても恋濡こいぬは気にするだろうから、私は恋濡こいぬがそうやって寂しそうな顔をする度にキスするからね。なので、もっとキスしたいからもっと寂しそうにして良いよ?」


 恋濡こいぬの性格だと、それっぽい理由で幼杖である事を褒めても、多分改善しない。

 だから、むしろもっと困っていいよって言う。そうしたら私がお口の中を味わうからねって。

 これで気にしなくなれば御の字だし、気にしても、気にする度に私が強引にお口の中をくちゅくちゅ出来るので、どっちに転んでもプラスである。私ってば頭良い。


「寂しかったらちゅっちゅするからね」

『…………じゃぁ、もっとしてほしぃ』


 よっしゃ任せろバリバリー!

 ルルちゃんにはキスまではセーフと言われてるので、思いっ切りちゅっちゅする。コレクションルームは基本的に人が居ないので、二人っきりだ。

 そうして大量に恋濡こいぬの水分を飲んでいると、ふと、私に天啓が降りた。


 そうだ、そうだよ。恋濡こいぬの為の刀を作ってるんだから、恋濡こいぬの体の一部とか使った方が良いんじゃ無いの?


恋濡こいぬ!」

『はひゃ、ぇと、なぁに?』


 思い付いた私は、恋濡こいぬのお口を味わう作業をやめて、恋濡こいぬにお願いする。


「私に恋濡こいぬのおしっこちょうだい?」

『………………? え? …………えッッ!?』


 あ、間違った。

 私がとんでもない事を言うから、恋濡こいぬもボンって赤くなっちゃった。


『ひぁ、なっ、なんでぇッ?』

「あ、えと、いや違うんだよ? ただ、恋濡こいぬのおしっこが必要で……」

『だからなんでッ!? なににつかうのッ!? のむのっ!?』

「いやいや、飲まないよ? いやちょっと喉乾いたら飲むかも知れないけど、基本的には飲まないよ?」

『きほんじゃなかったらのむのッ!?』


 あ、ダメだこれ。会話する度に深みにハマるやつだ。


「だから違うんだって。冷静になって恋濡こいぬ? 私たちはそういう時、基本直飲みじゃん?」

『……あ、ぅんっ』


 急に落ち着く恋濡こいぬ。この子も直飲みならセーフだと思ってるらしい。

 やっぱり私たちまだどっかオカシイよ。


「と言うか、恋濡こいぬのお口が美味しすぎて液体が欲しいって思っちゃっただけで、別に髪の毛とか切った爪とかでも良いんだよ。恋濡こいぬの素材を使って刀が打ちたくてさ」

『え、あっ…………、こ、こいぬのため?』

「いや、どっちかって言うと私のため。恋濡こいぬが刀に成りたいのと同じくらい、私も恋濡こいぬを刀として振るってみたいんだよ」


 恋濡こいぬも悩んでるけど、私も悩んでるんだよ。同じ内容で。


『えと、じゃぁ、こいぬをかたなに、うちなおすの?』

「まさかまさか。そんな物騒な事しないよ。なにそれ、武器モードの恋濡こいぬをドロドロに鋳溶かしてから打ち直すの? それ恋濡こいぬ死なない?」

『……たぶん、しぬ』

「じゃぁダメに決まってるでしょ莫迦だなぁ」


 仮に死ななくても、溶かされたら普通に痛そうじゃんね。そんな事する訳無いでしょ。


『じゃぁ、どうするの……?』

「それは出来てからのお楽しみで。……とりあえず、手伝って?」

『……うん』


 ◇


 そんなこんな、目的の物が出来ました。

 作業時間は通算で三日。恋濡こいぬに協力を頼んでからの時間だ。


「ほい、これが恋濡こいぬと私を繋ぐ新しいメイン装備。結刀ゆいがたな淼銀鏡ひろいぎんかがみ】だよ」

『…………ふわぁぁ』


 黒い鞘に納められた、眩い銀に光る打刀だ。

 装飾はほぼゼロ。ただ鞘に少しだけ細工がされてて、後は黒と銀しか見えない意匠になってる。彫りも無く、つばこじり柄頭つかがしらにだけ鎖と狼の意匠が浮いてる。至極シンプルな仕上がりの刀である。

 恋濡こいぬの素材を使うって決めてからは、早かった。他の素材も『何でも良い』がやっぱり間違いだったみたいで、きっちりと目的を持って仕上げられた。


淼銀鏡ひろいぎんかがみはね、鞘についてるこのちょっとしたら突起に、スタンバイモードの恋濡こいぬを巻き付けた状態で完成するの」


 使った素材は銀侵竜ぎんしんりゅうをメインに、闇属性と水属性で纏めてある。

 銀侵竜の鱗を精錬した金属質に素材を混ぜて合金化した後、部材に分けてから恋濡こいぬの髪と爪を焼いた恋濡こいぬ由来の炭素を練り込み、炭素含有量別に部材を折り返し鍛錬。

 更に恋濡こいぬの唾液もヌルヌルもおしっこも、全部ちゃんと使った。具体的には焼入れに使う船とか粘土に混ぜたり、鞘に使う特殊な漆に混ぜたり、色々やった。


「はぁ、製作中に興奮し過ぎて死ぬかと思った」

『もぅ、あるじたまのばかっ!』


 もうね、素材の採取がヤバかった。

 私の許可が無いと入れない、お嫁さんですら基本的に不可侵である私の工房で、二人っきりで恋濡こいぬの体液を採取するのだ。最高に興奮した。

 もう、もうね、恥ずかしがってる恋濡こいぬが、目の前で真っ赤になって涙を流しながら桶にチョロチョロする時なんか、鼻血が出そうだった。

 まぁ、プレイとしても質が高かった訳でけど、別に変態プレイがしたくてそんな事してた訳じゃないんだよ。ホントだよ? いやホントだよ?

 むしろ、こんなに興奮してるのに手を出せないって拷問だったからね? まぁ良いや。やり遂げたし、今晩は恋濡こいぬで直飲みするんだ。


「これで、スタンバイモードで鎖のアクセサリーになった恋濡こいぬを鞘に絡めれば、刀と鞘に使われた恋濡こいぬの素材と闇属性素材が反応して、恋濡こいぬと刀がリンク出来る」


 そう、これが私のやりたかった事。

 恋濡こいぬ由来の魔力が詰まった素材を注ぎ込んで、闇属性経由で恋濡こいぬと刀の感覚を繋げる。これで、恋濡こいぬは実質刀になれる。


恋濡こいぬが刀になれないなら、私が恋濡こいぬの体を新しく作れば良いのだよ。刀としての体をね?」

『……あるじたまっ♡』


 もちろん、それだけじゃない。

 この武器には性能度外視の特殊な付与を付けてて、その効果は『接触している武器のパラメータをコピーする』。

 つまり、恋濡こいぬが触っている限りこの刀の性能は恋濡こいぬと同じになる。

 本来ならクソ付与だ。武器に触れてないと能力がコピー出来ないので、太刀打ちしてる相手の武器の効果をパクるって使い方をする為の付与なのに、離れた瞬間に効果が切れてナマクラになるんだから。

 でも、恋濡こいぬは人型でも犬型でも鎖型でも、どの状態でもそもそも『代償装』って言う武器なのだ。鎖型の恋濡こいぬを鞘に巻き付ければ、常に淼銀鏡ひろいぎんかがみ恋濡こいぬが接触している事になる。


「本当は能力のコピーだけで完成の予定だったんだけど、何か足りないと思ってさぁ。いやぁ、気が付いて良かったよ。そうだよね、恋濡こいぬの能力を刀に移すだけじゃダメだよね。感覚まで繋げないと、恋濡こいぬは自分を使われてるって気持ちになれないもんね」


 抱いた違和感を信じてよかった。


『これで、こいぬ、あるじたまのかたなになれる?』

「もちろん。て言うか、刀にもなれるし、じょうにもなれる。つまり恋濡こいぬは、全身が余すとこ無く完全に、私のためだけの武器だよ」

『……ぅ、うれしぃ♡』


 はぁかわよ。


『でも、あるじたま? うちがたなだけで、いいの?』

「ん? 良いのって言われても、打刀が一番良く使うし?」

『ぇと、こいぬ、くさりでまきつくなら、うちがたなと、たちと、おおたち、あっても、いいきがする……』

「…………どゆこと?」

『ゎぅ、えっとね? さんぼん、こしにさして、こいぬまけば、ぜんぶこいぬ……』


 あ、そうか。

 打刀も太刀も大太刀も、なんなら脇差も、全部腰に挿して鎖になった恋濡こいぬを巻けば、鞘に恋濡こいぬが触れてる刀は全部恋濡こいぬと同じ能力になるのか。

 おお、マジか。強くない?

 そっか、そうだよね。ルルちゃんの兎丸が羨ましいって言ってたけど、だったら打刀から大太刀まで、全部作っちゃえば良いのか。


「おほぉ、恋濡こいぬ天才ぃ……」

『えへへ……♡』

「でも、良いの? 追加で新しく別の刀を打つなら、恋濡こいぬもまた、私の前でチョロチョロするんだよ?」

『……あっ』


 ぐへ、ぐへへへ♪︎

 また恋濡こいぬが目の前で恥ずかしがりながらチョロチョロするシーンが見れるんですね。これが日頃の行いなのか。

 べ、別にやましい気持ちなんて、大量にしか有りませんよ? 必要だから採取するんですよ? ついでに興奮してるだけですよ?

 恋濡こいぬ由来の魔力がたっぷり詰まった液体と個体が沢山必要なだけだから。変態プレイでドキドキしたくてチョロチョロさせてる訳じゃないから。


「…………また桶にたくさん出してね♡」

『……はっ、はずかしぃっ』


 はい。追加で五日かかりました。


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