第150話 最強のお話し。
「あ、ムグリさん。ちょっといい?」
「ん? ああシルル殿。逆に、今は大丈夫なのか?」
「うん。ノンちゃんは今、ぺぺくんと遊んでるから」
「そうか」
黒猫亭の一階。共同で使う空間の一角。リビングの隅っこで本を読んでいたムグリさんに、あたしは声をかけた。
今はリビングにも人が居なくて、話しを聞くには丁度いいから。
「計画は?」
「順調だ。作戦はオブラートがメインで決まったから、バックアップも含めて全員が徐々に、ノノンに気付かれないペースで目的の国までトラベルポイントを更新中で、ご両親とも連絡は取れている」
あたしの思惑と、日本に居るらしい金色のワールドエレメント、ルドルフさんの思惑がガッチリとハマって加速したこの計画。
ノンちゃんに気付かれる前に、ノンちゃんが怖がって身を引いちゃう前に、ノンちゃんの意志とは関係無くお母さんとお父さんに再会させる。
発案者の癖に何も出来ないあたしは、ムグリさん達に頼るしかない。それが凄くもどかしいけど、あたしはそれすらも飲み込むべきなんだと思う。
本当はあたしも敵国討伐に参加したいけど、あたしが行けばノンちゃんもついてくる。そしたらバレちゃう。
まぁ正直、今ならバレちゃっても再会はもう確実なんだけど、それはそれとして亡国って罪がノンちゃんにのしかかる。
そんなのは誰も望んでないから、ささっと主要部分だけ殺して、『被害の少ない亡国』を為さないとダメなんだ。じゃないとノンちゃんが『完全な亡国』をやらかしちゃうから。
「……あたしも、ノンちゃんのお母さんとお父さんに、会いたかったなぁ」
「なに、後は待っているだけでここに招けるのだ。すぐに会えるだろう」
「うゅ、そだね。…………ねぇムグリさん、ノンちゃんのお母さんとお父さんは、どんな人だったの?」
あたしは発案しただけ。だから、計画の詳細については殆ど関わらない。正確な計画は実行の人達だけが把握してればそれでいいから。
だから、あたしはそれより、ノンちゃんの事が聞きたかった。
「優しい人達だったよ。ノノンも含めて、『ああ、家族なのだな』と納得出来る人達だったとも」
「そっか…………」
ノンちゃんが愛して止まないご両親は、ムグリさんから見ても納得の人達らしい。
あたしも、早く会いたいなぁ。ちゃんと、「ノンちゃんをください」って言いたい。
とは言え、ムグリさんの言う通り、後はもう待ってるだけで会えるんだろう。だから、いま声をかけたのはただの確認。
そして、それはそれとして別に気になる事もある。
「ところでムグリさん。あたし、もひとつ聞きたい事があるんだぁ」
「ん? 拙者で答えられるならば答えるが……」
「うん、あのさ、みんな、ノンちゃんの事をジワルド最強って言うでしょ? でも、ノンちゃん自身の意識とは大分違うみたいだから、何でなのかなって」
「ああ、それか」
ノンちゃんは強い。ノンちゃん自身もそう認識しているし、周りもそう。
だけど、ノンちゃんが自覚してる強さと周りが感じた強さには、乖離がある。
いくらなんでも、その差が大き過ぎる気がして、何でかなって思っちゃう。
「簡単な話しだ。シルル殿、ノノンにはな、二つの顔があるのだ」
ムグリさんが言うには、ノンちゃんはバトルスタイルが四つあるそうだ。
そして二つの顔があり、バトルスタイルをそれぞれ二つずつ使う。
ちょっとよく分からないから、詳しく聞きたい。
「ノノンにはまず、戦士としての顔がある。これは武を尊ぶ顔だな。戦いには勝ち負けがあり、そこに至るまでの過程を含めて『武』であると心に決めて居る。そんなノノンの一面だ」
それは分かる。
ノンちゃんは、一度戦いに身を投じると決めた人には、妥協を許さない。
けど、努力を重ねた上での失敗なら、ノンちゃんは慈しんでくれる。そんなノンちゃんがあたしは大好き。
「そして、ノノンにはもう一つ。狩人としての顔がある」
かりうど。
獲物を狩る人。
ムグリさんに言われても、ちょっと思い浮かばない。
ノンちゃんは気が付くと民宿のお仕事か修行か、あとはあたし達とえっちなことしてるか、その三つしか頭に無いから。どちらかと言えば「狩り」より「武」の方が強く印象に刻まれてる。
「狩人としてのノノンはな、手強いぞ。あの顔が出て来る事は滅多にないが、あの時のノノンは本当に強い。拙者は『戦い』ならノノンに五割勝てるが、ノノンが拙者を『獲物』と認識したならば、九割九分九厘は拙者が負ける」
…………え?
いや、え? 嘘でしょ?
「戦士のノノンは拙者に近いが、狩人のノノンはオブラートに近い。それも完成系と言うか、もはや『戦い』をさせて貰えないんだ」
「…………どゆこと?」
「シルル殿なら世界がひっくり返っても『獲物』になる事はないだろうが、もしなったら、その時に分かるさ」
戦いを愛してるノンちゃんが、戦いをしない。そう言われても、ピンと来ない。
「二つの顔に、四つのバトルスタイル。まず武術を一つだけ使って戦うノノンが、一番よく見る基本のバトルスタイルだな。刀なら刀。杖なら杖」
「うゅ。あたしも、そのノンちゃんが一番しっくりくるよ」
「そうだろうな。それで、次に武術やスキルの制限をとっぱらったノノンだ。これに拙者は五割負ける」
「九重流もこっち?」
「そうなる。要するに、戦士としての手札を増やして制限を無くしたノノンだな。ただ、肉体や召喚獣を使った制限を無くしただけで、まだこの時点では制限自体は残ってるのだ」
えと、つまり? ノンちゃんは段階的に開放される制限があるって事?
「次に狩人モードだが、こうなったノノンは道具も使う」
「えと、それは回復薬とか?」
「違う。それは戦士の時でも普通に使うからな。狩人になったノノンが使うのは、『武』では無く『罠』だ」
それは、例えば毒だったり、例えば詳細の分からない武器だったり、色々だと言う。
「オブラートは毒を使うが、本気になったノノンは毒だけじゃなく、ありとあらゆる罠を使う。言葉や経験なんて言う、目に見えない物すら罠に使う」
「………………ピンと来ないなぁ」
「だろうな。あれは、殺られた事がないと恐ろしさが分からない」
恐ろしいと言いながらも、ムグリさんは嬉しそうに語る。
「でも、それだとバトルスタイル三つじゃない?」
「そうだ。ここまでなら三つだ。一番恐ろしい四つ目は、ジワルドだと『
うろのかみ……?
「ジワルドでは二回、ノノンは
「…………その、うろのかみ? になると、ノンちゃんはどうなるの?」
「簡単に言うと、まずノノンの記憶が吹っ飛ぶ」
…………は?
「え、はっ?」
「ああいや、記憶を喪うって意味じゃないのだぞ。文字通り、
え、何それ怖い。
ただ目の前で起きた事を記憶する。そんな事さえ出来なくなる程に、頭を別の事に使っちゃうの?
その全部を戦いに? 敵を倒すためだけに使うの?
「
「気絶してるってこと?」
「どうだろうな。知りたくても、あの時のノノンを前にして、詳細を知れるほどに生き残れる者が皆無だからな。
ふぁっ!? え、待ってホントに?
ムグリさんが十秒って、それもう『戦い』とか『狩り』じゃなくない?
「
「ちょっと何ゆってるか分からない」
「まぁ、分からんだろう。…………あれは、本当に恐ろしいぞ? 自分は呼吸すらしない方が良いんじゃ無いかと疑いながら戦う事の恐ろしさよ。自分の瞬き一つすら、ノノンの罠が起動するトリガーになるんじゃ無いかと怯えながら戦うのだ」
相変わらず意味が分からなくて、ただ首を傾げるあたし。
そんな様子を見たムグリさんは苦笑しながら教えてくれる。
「ただの狩人モードでも恐ろしいのだがな、あれは本当に『狩人』になってくれるから、まだ優しいのだ。だが、
「余計分かんない」
「ふむ。……シルル殿もノノンにある程度の武術は教わっているだろう? ならば、武において呼吸が持つ意味は分かるな?」
それは分かる。
ノンちゃんに教わるまでは、意識した事も無かった。だけど、教わってから良く良く意識すると、あたし達は物凄く『呼吸』に左右されて生きていると分かるんだ。
人は力を入れる時、踏ん張る時、必ず息を吸う。
息を吐きながら全力を出せる人は居ない。仮に出せても、それは刹那の間だけ。
陰と陽だっけ? 息を吸う時、吐く時、その拍子を操り、相手の呼吸を読む。それは武においては基本であり奥義となる。
物凄く簡単に言えば、相手が息を吐き切った時に攻めれば、相手は力を出し切れない。
とても小さな事だけど、誰もが必ず、頻繁に必要とする『呼吸』を読まれたのならば、それはあっという間に積み重なって、無視出来ない差になる。
「呼吸だけじゃない。瞬きもそうだし、意識の空白もそうだ。
つまり、ノンちゃんはその時、相手の状態だけじゃなくて、場も読み切ってるってこと?
「…………ああ、ノノンが何故『最強』なのか、だったか? 簡単だ。ノノンはジワルドにおける攻撃方法のほぼ全てを学んでいるから、相手を読めてしまうのだ。それの最終進化系が
ああ、そっか。
ノンちゃんはジワルドの全ての流派を修めてるし、魔法も長文詠唱をその場で組める程の魔法使いで、更にポチくん達も居る。
オブさんから薬や魔道具、暗殺術も学んで、鍛冶や縫製も学んで、道具にも精通してる。
だから、戦う相手の戦術は基本的に全部、ノンちゃんの『既知』なんだ。
「…………あたしのお嫁さん、強すぎない?」
いや、良く考えると、そんなノンちゃん相手に刀術縛りなら必勝、縛らなくても戦士モードなら五割も勝てるムグリさんも普通にバケモノだね?
「と言うか、他にもノノンが『最強』と呼ばれる所以はあるのだぞ?」
「え、まだあるの?」
「ああ。ジワルドはPvPも楽しいが、なんと言ってもVRMMORPGだからな。モンスターを相手にするのが主流なのだ。そしてノノンは、
あー、そっか。なんか、人と人が戦うって意識ばっかり持ってたけど、確かにモンスターの相手も大事だよね。
ぺぺくんとか普通に千三百より下のモンスターとかバンバン殺してたから、到達者にとってモンスターなんか初めから相手にならないのかと思ってた。
「あとは、そうだな。召喚獣もプレイヤーの強さに含めると、やはりノノンが最強だろうな。拙者もノノンとサシなら戦えるが、流石に召喚獣も出されたら普通に勝てん。三竜を相手取りながらノノンも同時に捌くなど悪夢でしか無いし、ツァルの火力など御免こうむる。ホルンの狙撃を気にしながらノノンと戦うのも厳しい。ポチとウィニーが手を組んで襲って来たら、流石の拙者も物量に飲み込まれるだろうな」
ああ、うん。みんな強いもんね。
あたしもリジルくんと全力で戦ってもらった事あるけど、普通にボコられたもん。めっちゃ強かったよ。
「シルル殿はやはり、三竜がヤバいと思うだろう? だが、ノノンの手勢で本当にヤバいのは三竜等では無いぞ?」
「ふぇ、そうなの? やっぱり、伝説の魔物ってくらいだし、ドラゴンが一番強いんじゃないの?」
「性能って意味でなら、その通りなのだろうな。だが、『ノノンと共に戦う』召喚獣って意味ならば、三竜はむしろ一番与しやすい相手だ」
ムグリさんは言う。一番ヤバイの、ポチくんだと。
「ポチはな、本当にノノンの相棒なのだ。ノノンがジワルドを初めてから、本当にずっとずっと一緒に居る、無二の相棒なのだ。ノノンはジワルドで一番初めに手を出したのが調教スキルで、そこで出会ったのがポチだからな。つまり、ポチはジワルドで過ごしたノノンのほぼ全てを余すとこなく知っているし、この世で最もノノンの動きに合わせて戦える最高峰の召喚獣なのだ。下手したらノノンのご両親よりもノノンの事を知っている」
え、何それ嫉妬しちゃう。待って待って本当にメラメラと嫉妬の炎が…………。
あたし、一番の敵ってもしかしてポチくんだったの? まーじ?
「まぁ、羨む気持ちは拙者も分かる。が、シルル殿? ポチは言うなれば、ノノンの兄であり、弟である存在だ。恋敵と言うよりは、むしろ味方につけるべき相手と言えよう」
「…………つまり、ポチくんは、ノンちゃんのお兄様?」
はっ!? お、お魚を献上しなくちゃッ!?
「ノノンの召喚獣で、次にヤバいのはツァルとベガだろうな」
「ツァルちゃんと、ベガくん?」
「ああ。ツァルはノノンの二番目の仲間であるし、何より完全なる魔法特化だ。単体火力も笑えんし、ノノンとの連携も乾いた笑いが出る程だぞ。参考までに、ツァルが最大火力で魔法を放つと、この王都は一撃で消え去るし、恐らく周辺の町や村も幾つか一緒に消し飛ぶレベルだ。そして、グラムは無理だがリジルとロッティくらいならば一撃で殺せる程の火力である」
ヤバくない? え、ヤバくない?
まってビックリするんだけど。ツァルくんってそんなに凄いの?
「そう言えば、あたし、ツァルくんがマトモに戦ってるところを見た事ないかも……」
「だろうな。ツァルが戦って本気になったら、夥しい結界に守られた黒猫亭でも簡単に滅びるぞ? だからむしろ、『戦わない』というより『戦えない』のだ」
そ、そんなに?
「ちなみに、拙者がノノンの召喚獣で一番戦いたくないのは間違い無くツァルだ。【剣閃領域】を使えれば魔法も禁止出来るから勝てるが、使う前に空から範囲攻撃の雨が降って来て拙者は死ぬだろう。拙者は一刀斎ゆえ、範囲攻撃は苦手なのだ。モンスターの使う魔法は基本的に無詠唱だから、詠唱潰しが役に立たんし、空はツァルの領域なのでな。スキルでいくらか空を走れると言っても、流石に鳥には勝てんよ」
ほ、ほぇえ……、ツァルちゃんしゅごい……。
「あとベガだが、ベガはノノンの召喚獣の中でも特殊な生い立ちでな? ノノンに対する気持ちが『好意』ではなく『信仰』なのだ。ノノンに仇なす者には狂信者の如く襲い掛かるぞ。それに人馬一体と呼ばれるスキルがあってな? それを使ってる間は、ベガは『馬型のノノン』になる」
……あ、うん。ちょっと意味が分からなかったけど、少し考えると恐ろしい事が分かった。
人馬一体って、多分ノンちゃんとベガくんが一心同体みたいになれるスキルなんじゃないかな。それはつまり、ノンちゃんがベガくんの体を動かせるし、ベガくんがノンちゃんの体を動かせるって事だ。
ベガくんは光の翼と角を自由に変形出来るから、武器の形にも出来る。そんなベガくんが、空を自由に駆け巡りながら、ノンちゃんの技術で武器を振るって、下手したら武術も使ってくる。
うん。悪夢だね。
ベガくんの角の突進だけでも、あたし一撃で殺されるかも知れないのに、それが縮地込みで使われる。ああ無理絶対避けられない。
「ベガはノノンの為なら、本当に何でもする。ノノンの身代わりにデータ消去なんて事になっても、それがノノンの為ならニコニコ笑って快諾する。あの狂気は見習いたい物だ」
普通は見習っちゃダメなんだろうけどね。でも、あたしもムグリさんも、ノンちゃんしゅきしゅき大好き同盟だから、その気持ちは凄い分かる。
「まぁ、だが一番異色なのはアルジェだろうな。そして逆にロッサとリフは驚くほど普通だ」
「どゆこと?」
「アルジェは、実は言うほどノノンが好きじゃないのだ。いや、普通の召喚獣としてはかなり強い好意を持ってるが、他の召喚獣と比べると、好き好き具合が普通なのだ。あれは、どちらかと言えばノノンの技術に惚れ込んでる類だから、拙者やオブにも敬意を持って接してくれる」
「お師匠様だから?」
「そうだ。そして、ロッサとリフは、やはり驚くほど普通だな。普通にノノンヘ懐いて、普通に契約して、普通に強い。ただそれだけの召喚獣だ。進化経路はかなり珍しいが、やはり普通だな」
多分、ムグリさんが言う『普通』の強さは、あたし達からすると既に破格だと思うんだけど。
まぁ、言いたい事は分かった。他の子に比べて特殊な強さが無いって事なんだろう。でも、逆に言うとそれはそれで凄い事だ。
だって、ノンちゃんの戦いに『普通に強い』だけで加わってるんだから。その『普通に強い』のレベルが凄まじい事は分かる。
「ロッサなら瞬殺出来るが、リフは少し手間取るな。やはり制空権を取られると、人の身では厳しいものがある」
しかし、『普通』を殺す事に長けてるムグリさんが相手だと、ロッサちゃんとリフくんは物足りない相手らしい。
やっぱりムグリさんも化け物だよね。
「ウィニーちゃんは?」
「…………ウィニーか。うむ、ウィニーは、なんと言うか、言葉では言い表せないな」
ノンちゃんの召喚獣で唯一、戦闘員枠じゃない召喚獣。それがウィニーちゃん。
でも、いやだからこそと言うか、黒猫亭で一番貢献してるのは誰かと言えば、間違い無くウィニーちゃんだ。
システムメニューが使えるようになって、メールの存在がウィニーちゃんの重要度を下げてしまった感はあるけど、それでもやっぱりウィニーちゃんの重要度には陰りがない。
システムメニューが使えない人が相手でもウィニーチャットで即座に連絡が取れるし、ウィニーポーチを利用したお食事配送システムは、いまや黒猫亭に無くてはならない最重要システムの一つだ。
「あれも、強さという概念の外に居る召喚獣なのだろうな。ジワルドではまだ制限があったが、コチラでは実質的な不死であるし」
「……あー、そっか。ウィニーちゃん、分身残しておけば死なないもんね」
「全てが本体扱いだからな。拙者はどうやっても奴を殺せん。いや、殺すだけなら分身を殺してるから、勝てるって意味ならば殺せている。しかし、デスポーンさせてデスペナを付けられるかと言うと、無理だ。デスポーンさせて初めて『殺した』と言えるなら、拙者にはウィニーを殺す術が無い」
言われてみれば、ウィニーちゃんも確かに相当ヤバい存在だよね。
「…………ああ、そう言えばシルル殿。シルル殿は武術スキル以外の絶招を知っているか?」
「……ふぇ? え、なにそれ知らない」
「ふむ。ならノノンはまだ見せたことが無いのか」
え、マジで知らない。何それ。
絶招って、武術スキルだけの奥義じゃないの?
「絶招とはそもそも、武術では無く、悟りを啓いて至る境地の事を言うのだ。まぁジワルドがゲームであり、ゲームが娯楽である以上、悟りもクソも無いのだがな。で、武術スキル以外にも、練度を最大まで上げると使えるようになる絶招があるのだ」
「……ほぇ、じゃぁえっと、あたしが最近手に入れた、『房中術』ってスキルも、絶招あるの?」
「待て待て待てなんだそのスキルは。ジワルドでは『術』と付くスキルは相当特別な物なのだぞ。ぬしらはどれだけ肌を重ねているのだ」
あ、そうなんだ。ほへぇ。
武術スキルは基本的に『術』だけど、他には殆ど無くて、でも召喚術は『術』だったから少し気になってたんだよね。
「ぐぬぅ、拙者も房中術なんてスキルが生えるほどノノンを責め倒したい……!」
「何回も言うけど、あたしはムグリさんも歓迎するよ? だから、頑張ってノンちゃん口説いてね?」
「それが一番難易度が高いと言うにッ……!」
「で、絶招は?」
「ん? ああ、あるはずだ。ただ、スキルの練度は基本的にマスクデータで、成長が認識しづらい。そして、最大値が相当に遠いのだ。拙者やノノンでさえ、武術スキル以外の絶招など、十個もない」
「うわぁ、凄い大変なのは分かった……」
「まぁそれで、ノノンは調教スキルのその上位スキルの絶招を持っているんだがな? これがまた……、いいものなのだ」
ムグリさんが言うには、調教スキルの上位スキル、『共生』ってスキルの絶招をノンちゃんが使うと、ノンちゃんが召喚獣と融合出来るらしい。
「…………え? つ、つまり、ノンちゃんがポチくんと融合すると、狼ノンちゃんに?」
「……ああ。しかも専用衣装と言うか、ケモセーフ…………、は分からないか。獣の毛皮で大事な所が隠れてる、かなり扇情的な見た目になってだなぁ」
「待って待って見たい見たい! 何それ知らない! ノンちゃんなんでそんな素敵な情報をあたしに黙ってたのッ!?」
こ、これは許されないんじゃないかなッ!? 明確な裏切りではッ!?
「ベガと融合した時のノノンなど、凄いぞ? 野性的な装いなのに、光の翼と光輪を浮かべた天使の如き見た目で……」
「見たいぃぃいッッ!!」
「アルジェと融合すると、銀髪の熊耳幼女に……」
「尊過ぎないッ!?」
「ポチと融合すると、ミニノノンを召喚出来るし……」
「天国なのッッッ!?」
「ウィニーと融合すると三歳児くらいに縮むが、完全に同位体として分裂して増えてくれるし……」
「理想郷が過ぎるッッ……!」
「…………ああそうだ、ロッサと融合した時なんか、凄いぞ? こう、絶妙に見えそうで見えない、ツタと葉っぱと毛並みが神がかった配置で、見てるだけで鼻血が出てしまう」
ちょ、これは事件だよ!
みんなに相談して裁判だよ! ノンちゃんは今夜、ケモケモノンちゃんであたし達に食べられるべきだと思う!
……………………あれ? そう言えば、あたしってプライマルラビットになった時、ケモケモだったよね? 忘れてたけど、もしかして戻れる?
あれあれ? ノンちゃんは普通だったけど、もしかしてノンちゃんも…………?
「まったく、なーに変なこと話してるの。やらないからね」
「あ、ノンちゃん」
あたしが悶々してたら、ノンちゃんが帰って来てた。でもぺぺくんは居ない。ノンちゃんが一人でリビングに入って来た。
ふぁ、可愛い。え、可愛い死にそう。
今日のノンちゃんは、いつもの和装じゃなくて、地球風のオシャレな洋服だった。めちゃくちゃ可愛い。え、待って本当に死にそう。
地球の服の種類とかよくわからないけど、なんか、こう、ふわふわしてて可愛いの。食べたい。
「ノノン、【双鎌妖精】はどうしたのだ?」
「お部屋に戻ったよ。ログアウトするんだって」
「なるほど」
「で、ルルちゃん? 顔みたら分かるけど、融合した状態ではしないからね? 共生絶招は、本当に融合しちゃうの。だからその時に融合してる子とも、交尾してる事になるからね。いくらみんな大事な家族でも、ポチのアレをルルちゃんの中に入れたりとか嫌だもん」
あ、なるほど。
ポチくんと融合してるノンちゃんとパコパコしたら、あたし、ポチくんとも交尾したことになるのか。そっか。うん、それは、ダメだね。
…………え、て言うか融合してると、生えるの? ノンちゃんにポチくんのアレが生えるの? それはそれで気になるんだけど?
「ルルちゃん、私の赤ちゃんが産みたいの? それともポチたちの赤ちゃんが欲しいの?」
「あ、ごめんなさい。あたしはノンちゃんの赤ちゃんが産みたいでしゅ」
「よろしい」
「羨ましくて死にそうなのだが?」
「師匠はダーメ♪︎」
「くそぅっ」
でも、それはそれとして、ノンちゃんの融合した姿が見たい。
あたしはノンちゃんの全部をコレクションしたいから、全部みたい。
「見たい!」
「いや、なら変身呪文で…………」
「それはそれ! これはこれ!」
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