第130話 抱擁の聖母。



 なんか、変な事になった。


「よしよし、よしよし…………」


 セザーリア入り四日目のお昼。私は未だに、ヨシヨシしてる。

 何故だろうか? とても難しい問題だ。

 たぶん、きっと著名な学者がここに集ったとて、この難問に答えを出す事なんて出来はしないだろう。それくらいに難しく、先の見えない問題だ。


「おがっ、おがあさっ……」

「はい、お母さんですよ。ヨシヨシしたげますからねぇ」


 四日目。そう、もう四日目なのだ。

 当然、私がヨシヨシしている相手は初日の二人目、コナッシュさんでは無い。彼が四日も泣き続けてる訳じゃぁないんだ。


「お手々はあかぎれ、ガサガサしてきて、だけど皆がそれを当たり前だと言う。辛いのに、辛いと言えない。それがとっても、辛いですよね。よしよし、よしよし……」


 代わる代わる、人が来る。

 もう私は、何人ヨシヨシしたのか、覚えてない。

 今私が胸に抱いてヨシヨシしてる人は、このお城で働くメイドさんの偉い人だ。侍女長? って感じの人だっただろうか。


「ぅぅああっ、ぁぁあ…………!」

「頑張りましたね。いい子ですよ。ミコアさん。そのあかぎれた手は、どんな宝石よりも綺麗ですよ。隠すことなんてありません。見せてあげましょう? これがミコアさんの毎日だって。ミコアさんの努力と涙の人生を全部詰め込んだ、赤くて綺麗な宝物なんだって」


 私はヨシヨシする。たくさんヨシヨシする。

 そろそろ腱鞘炎が心配だ。でも怪我の類は魔法で治るからなぁ……。


「おがあざんっ、わだじぃ、がんばっだょぉッ…………」

「はい。頑張りましたよ。ミコアさんは頑張りましたよ。若さを捨てて、滅私奉公。冷たい水で磨き続けたその宝石は、この先もずっとミコアさんと一緒です。その手は荒れたんじゃありません。磨いたんです。綺麗に光るために磨かれたんです。どんな綺麗な宝石も、磨いて傷付けないと、光らないんです。だから誇ってくださいミコアさん。その輝きは、あなたの人生その物です。よしよし、よしよし…………」


 皺が見え始め、手はボロボロ。婚期なんてとうに消え、その手に残ったのは痛みを伴う割れた皮膚。

 そんな侍女長ミコア・エーデリアートさんを、私はヨシヨシする。

 総数はホントにもう覚えてないが、今日だけのカウントなら確か、この人で三十六人目だったかな。

 さて、人によっては、どれだけ言葉を重ねたとて、そのボロボロの手を褒めたところでコンプレックスが消えたりはしない。

 だけど、話せば分かるから、私はその手を褒め続ける。

 この人は実の所、婚期も年齢も、荒れた手だって気にしちゃいない。

 ミコアさんの心の根っこは、仕事に誇りを持ってること。

 この歳まで城に仕えた。文字通りの滅私奉公。荒れる手を厭わず水仕事。

 そんなミコアさんが怖いのは、本当に怖がっていた事は、自分の誇りを疑うことだ。

 周りは言う。口を揃えて指まで向けて。

 荒れた肌に行き遅れた歳。それは誰もが指さし笑うだけのマイナスだと。

 誰もが言い、誰もが笑う。陰口を叩かれ、後ろ指をさされる。

 そんな毎日を送れば、本当に自分の誇りに価値はあるのか、この荒れた手は、刻んだ皺には、自分が信じて誇る程の価値なんて、本当は無いんじゃないか。

 そう疑ってしまう事。そしてそれを信じて、真実にしてしまう未来が怖いんだ。


「その宝石の価値が分からない者には、あえて見せつけて上げましょう。お前にこの輝きが作れるのかと。この赤い煌めきを生み出す人生を、ひたすら信じて歩き続ける覚悟があるのかと」

「ぅぁ、ぁぁぁあああああああ゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛ッッ…………!」

「光を宿さぬ石なんて、磨かれた事の無い石ころなんて、気にしないでください。ミコアさんの宝石は、ミコアさんと言う職人が毎日毎日磨き続け、ミコアさんの手に残ったミコアさんだけの輝きですよ。ああ綺麗です。本当に綺麗ですよ。こんなに輝けるなんて、ミコアさんは凄い人ですね。よしよし、よしよし…………」


 そろそろ、時間だろうか。

 今日はあと、何人だ? …………いや、あの、そろそろマジで、ちょっと意味が分からないんだけど誰か私を助けてくれない?


「…………聖母様、お時間です」

「ああっ、まっで、もうずごじッ……!」

「侍女長ミコア。気持ちは分かる。とても、とても良く分かる。…………が、後ろを見てみると良い」


 まるでアイドルの握手会で、マナー悪くファンて進行する為の、スタッフの人みたいな。

 彼の名前はナギアさん。役職は『抱擁の聖母親衛騎士団近衛隊総長』。


 ……………………意味わからないよね? 大丈夫、私も分からない。


 私のヨシヨシを初めて食らった初日の一人目、ナギアさんが示す方向。泣き崩れるミコアさんの後ろには、数えて丁度、十五人の列が並んでいた。

 私が今居る場所は、なんかこのお城のよく分からない大きな広間の一番奥であり、そこで私は、なんか良い感じに瀟洒で品の良いふかふかソファーに座ってる。

 そんな私の目の前で、後ろの列を見てとてもお手軽な絶望に見舞われたミコアさん。彼女は最後に一つだけ、私を見て願いを口にする。


「ひっ、ひぐっ、せ、せぃぼ、ざまッ……」

「はい。どうしましたか?」

「あの、ざぃごに…………」


 ミコアさんのお願いは、自分を、嘗ての母がそうしたように幼き日の名前を呼んで、もう一回だけ抱き締めて欲しい。そう言った。

 ハガシであるナギアさんは少し眉根を寄せたが、正直この程度のお願いは十人中十一回頼まれるので、今更だろう。一人だけどさくさで二回頼んで来た奴はペチッとおでこを叩いて置いた。……嬉しそうだった。

 いやマジで何でだよ。今これ何がどうなってるの。


「良いですよ、ミコ、いらっしゃい」

「あ、あっ……」


 私はもう、「もしかして今、マジで私の中には『聖母』人格が発生してるんじゃね?」って思いながらも、ミコアさんをギュッと抱き締めた。


「多くは言わない。ミコ、元気でね」

「…………ぁあ、ぁぁあ、おがあざぁぁあんッッ!」

「私よりも、長生きするのよ?」

「おがぁぁざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」


 抱き締めて、抱擁して、なんとなーく、ミコアさんのお母さんならこう言う人じゃないかなって予想で、少しキャラを作って抱き締めた。

 そうして嗚咽を漏らして顔をグシャグシャに濡らしながらハガシに除去されたミコアさんは、待機していたスタッフ…………、という名の抱擁の聖母親衛騎士団近衛隊行動部隊長、コナッシューツ・アルレイトさんに支えられ、この謎の大広間から出て行った。


 …………もう、私には何も分からないよパトラッシュ。


 これさ、今は十五人並んでるけどさ、凄い怖いことにさ、

 この、なに? 抱擁の聖母に抱擁される企画で、一人に許された時間が十分。それでミコアさんで三十六人目。

 六人で一時間の計算だから、今のでちょうど六時間になるのか。ただ、さっきのミコアさんみたいに、皆がみんな、ちょっとしたロスタイムを作るので、実際は六時間半から、最悪七時間は拘束されてるはすだ。


 ……………………これは、新手の拷問か?


 私はあと何人、ヨシヨシすれば良いんだ? というかヨシヨシってなんだ? 抱擁とは? 宇宙とはなんだろう。分からない。私には何も分からない。

 この、なに? セザーリアって国は、私に何をさせたいんだ?

 なんかさ、本気でわっけ分からない事にさ、初日なんて、最後にはこの国の王様もヨシヨシしてんだよね、私。

 なに、なんで? なんで皆そんな、私にヨシヨシされたがるの?

 こうやって悩んでる内にも、三十七人目、三十八人目と、一人一人ヨシヨシしていく。

 もうヨシヨシし過ぎてヨシヨシって概念に対してゲシュタルト崩壊しそう。

 本当になんで? 誰か私に教えてよ。良いじゃん、なんでさ。私じゃなくてもいいじゃんさぁ!

 家族でヨシヨシしあえよ! なんでこの国のお城は、こんなに皆、ヨシヨシに飢えてんのっ!?

 飢饉なの!? ヨシヨシ飢饉なのッ!? 畑はどこじゃぁ! ヨシヨシ畑はどこにあるんじゃぁッッ! 私の全財産投資するから今すぐヨシヨシを増産しろぉぉぉおおいいいッッッッ…………!


 ◇


「………………終わりました?」

「はい、本日のご予定は全て完了致しました」


 結局、本日のヨシヨシ達成人数は五十四人で、ロスタイムを除けば九時間か。ロスタイムを入れると十時間超える? ブラックか?

 いや、この程度の残業ならホワイトなのか? 食事は食べれたし、休憩も入るし、扱いは良いし、ホワイトなのか?

 もう、分からんよ。私には本当に何も分からん。

 ……あ、ちなみに一人ヨシヨシする毎に、換装システムで着替えてるよ。確実に一人毎、毎回必ず胸元がぐしょぐしょになるから。

 それで、汚れた私の予備の和服の洗濯は、超最優先でお城の人がやってくれてる。助かるねぇ。


「疲れましたぁ…………」

「本当にお疲れ様です。今日もまた、多くの幼き迷子が聖母様の抱擁によって導かれました」


 宗教か? いや宗教か。

 聖女とか聖母って明らかに宗教色強いワードだもんね。今更か。


「ナギアさん、オブさん達はどこに居ますか?」

「薬聖様ならば、今は書庫かと存じます。剣聖様でしたら練兵場にございます」

「奥様方でしたら、お部屋にて聖母様のお帰りをお待ちしておりますよ」

「あ、コナッシュさんも、ありがとうございます。……うーん、どうしましょうか。ルルちゃん達は全員一緒でお部屋ですか?」

「先程確認しましたら、その様でした。この五分の間に移動されていらっしゃれば分かりませんが。確認させますか?」

「いえ、良いです。お部屋に行きます」

「畏まりました。お供致します」


 もう、一次が万事、こんな扱いを受けて四日間過ごしてる。

 まぁ良いんだけどさ。うん。ミハくんにメール飛ばしてウルに確認してもらったら、「バカンスくらい楽しんで来て下さい。こっちは何とか回してみせます。あ、でもまた一年半も留守にするのは勘弁して下さいね」って冗談を交えた返事を貰ったから、黒猫亭は問題無いし。最悪はファストトラベルで直ぐに往復が出来るしね?

 ただ、これは決してバカンスでは無いとだけ言っておく。完全に一種のアイドル業だよ。


「あの、前からずっと言ってるんですけど、ナギアさんもコナッシュさんも、前みたいな態度で大丈夫ですよ? 呼び方もお弟子様で構いませんし」

「はい。では私も四度目になりますが、お答えします。聖母様がお嫌でなければ、このままでお願い致します。元々騎士ですので、こういった態度でも決して無理をしている訳ではありません」

「右に同じでございます。加えて、正直な気持ちを申し上げますと、このような役割に憧れていた面もあるのです。なのでむしろ、今は楽しんでおりますよ」

「……あー、楽しんでるんでしたら、まぁ」


 正直マジかよって思うけど、ロールプレイって思えば、まぁ?

 騎士ロールとか蛮族ロールとか、成り切れる人は凄く楽しそうにしてるし、実際に楽しいんだろうし。

 私もロールプレイはちょいちょいやった。山賊ロールとかメチャクチャ楽しかったよ。「へっへっへ、お頭、やっちまって良いんですかい?」とか言うの超楽しかった。

 まぁすぐに、周囲からガチで止めてくれって苦情が入ったのでダメになったけど。

 なんか、【屍山血河】がゲリラ戦仕掛けてくる山とか怖過ぎて素材取りに行けなくなるって言われた。山賊プレイヤーにも獲物が居なくなるから帰ってって言われた。お頭、最初はノリノリだった癖に酷いよまったく。

 それ以降も、懲りずに色んなロールプレイにも手を出して、それぞれが結構楽しかった記憶がある。

 なので今も、私は「聖母ロール」で遊んでるくらいのつもりだ。

 ぶっちゃけるとちょっと楽しいしね?


「お部屋にございます」

「ありがとうございます」

「いえ、何かありましたらお呼びください」

「あはは、ダメですよ? お二人は騎士であって、執事では無いんですから」

「いえいえ。正直なところ、半分以上は執事や家令くらいの気持ちで居ますので」

「我々は、親衛騎士や近衛隊とは名乗ってても、強さで言えば聖母様の足元にも及びませんから。せめて身の回りのお世話くらいはと、そう思っております」

「もちろん、有事の際にはこの身を使う覚悟は済ませて有りますが……」


 まぁ、そんな事言っても、私の答えは分かってるよね?


「その時は、何よりも私がまず、全てを薙ぎ払って見せますので。お二人は盾では無く、壁でもなく、人で居てください。…………ふふふ、今のはちょっと、本当に聖母っぽかったですかね?」

「聖母様は最初から、本当の聖母様でいらっしゃいますが」

「ええ、その通りです。……では聖母様、ごゆるりとお寛ぎくださいませ」

「はい、お二人もお疲れ様でした」


 そんな会話で別れ、私はめっちゃ豪華な作りのお部屋に入った。

 森をイメージしたらしい繊細で流麗なレリーフが散りばめられた白塗りの扉を開けて中に入ると、石造りの城とは思えない程に温かみが溢れた広い室内がある。


「あ、ノンちゃんおかえりなさい。今日もいっぱいヨシヨシしたの?」

「したぜぇ~、超したぜぇ~……!」


 四日間使わせて貰ってるこのお部屋は、日本風に言えば5LDKに相当する、いわゆるこの城のスイートルームに相当し、本当ならこの城でこの部屋を使っていいのは、他国の王族か、この国の王族が招いた特別で高貴なお客か、抱擁の聖母のみらしい。


 …………いや最後はおかしいやろ。個人狙い撃ちすんのやめーや。


「ノンちゃん疲れてるねぇ? おっぱい揉むー?」

「揉むぅー♡」

「あんっ……♡」


 疲れた私を癒すために幸せマシュマロを二つも差し出してくれるお嫁さんは、今日まで重ねた日々のお陰で感度バッチリであり、私がふにって揉めば可愛く鳴いてくれて癒し度満点なのだ。

 ふっふー! 疲れた体と心には、やっぱロリの幸せマシュマロだよね!


「そう言えば、一人? 代償は大丈夫なの?」

「ん。恋無離こいなりに言って一時間だけタユ先生に肩代わりして貰ってる」


 代償の肩代わり。ぶっちゃけ一回の使用で一時間ちょいの効果時間が限界なので、私達の間では交尾する時のスパイス以上は意味を持たなくなって来た、幼神おさながみの能力である。

 特にルルちゃんは、一時間だけ単独行動が出来たからなんなのかって話だよね。

 一人でポツンと孤立してる時に肩代わりの限界時間を迎えたら、自殺級の悲壮感に襲われて心が砕けるし。むしろ危険な行為ですらある。


「ふむふむ。で、そのみんなは? 肩代わりしてても傍には居るんでしょ?」


 居ないと危ないからね。ルルちゃんの肩代わりはマジで。下手な場所とタイミングで使うと、本当に死にかねないし。


「にゅ。あっちの交尾用のお部屋で、タユ先生ドリンクバー大会中」

「私が居ない間になんて素敵な大会開いてくれてんのさ。大会運営に抗議するー!」


 なるほど。ルルちゃんは私が居ないと混ざれないから、肩代わりで逃げて来たのか。近くに居るとムラムラしちゃうもんね。

 ルルちゃんが居ない時に私が誰かとヤるのはルルちゃん怒るけど、当然反対も同じなのだ。ルルちゃんが私抜きでタユちゃんと交尾してたら、私は寂しくて泣く。わんわん泣く。

 さてさて、ではでは、もう皆出来上がってるらしいし、早速混ざりに…………。


「…………ノンちゃん、いいの? 今なら、久しぶりに二人きりだよ? お部屋、四つ残ってるよ?」


 あ、これ違うや。タユちゃんに肩代わりして貰って一人でいたのは、私を狙い撃ちにしてたのか。

 マジかよ。ごめん一人を狙い撃ちやめーやって言ったけど、前言撤回します!

 狙い撃ち嬉しぃぃぃぃいいルルちゃんしゅきぃいいいい♡


「…………………………えへ、行こっか?♡」

「うんっ♡ 久しぶりに、ノンちゃん独り占め…………♡」


 もう疲れて頭がパッパラパーになってる私は、容易くルルちゃんの誘惑にのって、交尾用と定めた一つの寝室を避けて、別のお部屋に入るのだった。


 ………………まぁ一時間後にバレて結局みんなでお団子になったんだけど。


 ◇


「ただいまぁ。お、ヨシヨシ聖母ノノンちゃんも、ちゃんと帰って来てるねぇ」

「ただいまですっ」

『妾、帰った』

「オブさん、サユさん、恋児魅こにびちゃん。おかえりなさい。……で、オブさん? 当たり前ですよ。今何時だと思ってるんですか? この時間までヨシヨシしてたら、今日のカウント何人になるんですか。まったくぅ」


 ルルちゃんを一時間独り占めして、その後、みんなにバレたら交尾部屋に移動して、それからまた二時間くらい気持ち良いことしてた私。

 で、満足して後処理して、軽く身支度をして三十分くらいしたらオブさんが帰ってきた。

 一緒に帰って来たのはオブさんのお嫁さんであるサユさんと恋児魅こにびちゃん。

 元々、恋児魅こにびちゃんは最初から着いてきてたんだけど、こっちで長期滞在するってなったら、恋児魅こにびちゃんが『サユが一人で待つのはダメ! それなら妾も帰る!』と言うので、私がロッティにお願いして疾風竜運送が創業。そしてお嫁さんをデリバリーした。

 それと同じで、このままだと仲間はずれになるアルペちゃんペアもデリバリー済みだ。


「まぁそうだよね。で? あのクレイジーサイコクソレズ鬼ポニテロリコン開き直り侍のモノムグリちゃんはどこに?」

「長い長い長い。オブさん、罵倒が長いですよ。で、師匠は練兵場から帰って来ません」

「………………よっぽど悔しかったんだろうねぇ」

「ですねぇ」


 さて、やっと私がこんな状況になってる理由を詳らかにしようか。

 大きな原因は三つ。

 まず一つ、言わずがな私だ。何故か聖母と祭り上げられてしまった私のヨシヨシを求めて、この城はなんか、意味の分からないレベルで盛り上がってる。

 ただ、まぁコレは言うほどの問題じゃない。

 そもそも私はケルガラの所属だし、フリーで旅をしていたオブさん達ならまだしも、ケルガラで税金を払って(生涯免税だが)生きてる立派な国民である私を、特に正当な理由も無く拘束は出来ない。だから私は、帰ろうと思えば帰れるのだ。

 なので本当に重要な原因は残り二つ。

 その内の一つ、先の通り、フリーの旅人だったオブさんと師匠がこの国で獲得してしまった「剣聖」と「薬聖」なる称号。これが足枷となって師匠とオブさんはケルガラに移住しずらいのだ。

 ただまぁ、何故かこの国の国王様が、私が一時間くらいヨシヨシしたら大体何でも言う事を聞いてくれる四十八歳児に変身してしまったので、これもぶっちゃけ、解決済みと言えば解決済みだ。

 流石に右から左にホイホイと許可は出ないが、今のところ時間さえあれば、二人の移住の手続きは正式に終わる。

 何やら予想以上に剣聖と薬聖の権限が強過ぎて処理に時間がかかってるらしいが、このお仕事を頑張ってくれたら、頑張った分だけ長ーく、個人で、特別に、頑張ってくれた人を頑張った分の三倍はヨシヨシしてあげるねって言ったら、むしろ仕事の奪い合いをしながら迅速に処理される形になったらしい。

 ヨシヨシが欲しい人達の争いで、若干の足の引っ張り合いが発生し、そのせいで作業の遅延もあるらしいが、「悪い子はヨシヨシしませんよ?」と叱ったら、皆素直になった。


 ………………もう私さ、完全にこれ一本で世界を支配出来る気がしてきたわ。


 まぁいいや。とにかく、昨日会ったら国王陛下さんも目の下に隈を作りながらもいい笑顔だったので、予定通りであるならあと六日で処理が終わる。つまりセザーリア入りしてから数えて十日目だね。

 ならば、あとは何が問題かと言えば、師匠本人だ。師匠が拗ねた。


「…………まぁ、僕もまさか、モノムグリちゃんがガチンコのPvPで、シルルちゃんに負けるとは思ってなかったからねぇ」

「私もです。…………ルルちゃんつっよ」


 そう、ルルちゃんが、師匠に勝っちゃったんだ。ガチンコの真剣勝負で。

 マジでビックリした。

 しかも三本勝負の二本先取で、プライドをベッキベキにへし折ってストレート勝ち。大勝。圧勝。

 いや、本当に、ビックリしたよ。

 ルルちゃん本人は「…………これ、あたし本当に勝ったって言えるの? ただのズルじゃない? あたし、この勝ち方嫌だなぁ」って納得してない様子だったけど、私とオブさんから見れば間違いなく完全勝利だった。もちろん師匠も認めてる。

 なのに、いや、だからこそか。その勝った上で勝ちに納得してないルルちゃんの姿を見て、ベッキベキにプライドをへし折られていた師匠は更にプライドをメッキョメキョにされ、「……………………こんな、こんなに武人として情けない結果を引っ提げては、ノノンの元に往けぬ」と言い始め、なんか話しがややこしくなってしまった。


「…………でも、あれモノムグリちゃんの自業自得だよね?」

「……ノーコメントで」

「いや、擁護出来ないでしょ。ノノンちゃんのお嫁さんにあーだこーだイチャモンつけて、てい良く果たし状を叩き付けたのにさ、終わってみれば完膚無きまでにボッコボコにされたストレート負け。無様過ぎて飯が美味ーいっ♪︎」


 そう、そもそもの話しだ。

 なんでルルちゃんと師匠が戦う事になったのかと言えば、師匠が「ノノンの嫁を名乗るに相応しい腕を持っているんだろうなぁ?」とか絡み始めたのが発端なのだ。

 私も流石に呆れて止めようとしたけど、逆にルルちゃんから制止の制止をくらい、「…………たとえそれが冗談でも、ノンちゃんに相応しいかどうかを聞かれたら、あたしは逃げられないよ。それだけは何があってもダメ。あたしは、いつだって誰にだって、ノンちゃんの一番だって胸を張りたいもん」と言って、師匠の果たし状を受け取った。


 あの時のルルちゃんカッコ良過ぎて、死ぬかと思った。本気で心臓が止まるかと思った。


 で、師匠も相手がプレイヤーだから手加減をする必要が無く、最初っから最強装備を持ち出した上に【剣閃領域】まで発動して、この時点で私はルルちゃんが負けると思った。

 だってルルちゃん、武術スキルに重きを置いてる普通の戦闘スタイルなんだから、スキルを封じられたら何も出来ないと思ってた。

 だけど、ルルちゃんはそれでも勝った。それも余裕の余裕で。


「しっかし、シルルちゃんのネームドスキル強過ぎ無い?」

「私も効果までは把握してなかったんですけどね。あそこまで強いとは……」

「まぁ、使用する度に取り返しの付かない代償を支払い続けるんだから、むしろ納得って感じでもあるけどさ」


 そう、ルルちゃんが師匠に勝った理由。それは単純に、師匠の【剣閃領域】をルルちゃんのネームドスキルが上回ったからだ。

 しかも、【誓銀兎想せいぎんとそう】と【初恋銀兎はつこいぎんうさぎ】の同時使用。

 当然と言えば、当然だっんだろう。

 師匠のネームドスキルはジワルドで得た物だ。つまりゲームをゲームとして遊ぶ為の調整がされており、そもそもジワルド産のネームドスキルには代償なんて殆ど無く、もし発動に代償があったとしても、それはゲームの中で完結する物だ。

 対してルルちゃんのネームドスキルは、どちらもリワルドで得たものであり、リワルドはゲームでありながら現実でもある。

 更にルルちゃんのスキルは発動すると「二度と元に戻らない」と明記された、自分のその後の人生や在り方を捻じ曲げるようなクソやば代償を要求される。


 ゲームのお遊び能力で戦った師匠。

 その後の人生の一部を支払って戦ったルルちゃん。


 その結果は、オブさんが言う通りに「むしろ納得」であった。

 ネームドスキル以外のスキルを全て封印する師匠の【剣閃領域】に対し、ルルちゃんの【誓銀兎想】は、ルルちゃんが私を想う限り効果が持続する『AGI倍加』。

 もうこの時点で、私はルルちゃんのネームドスキルの効果が信じられなかった。

 だって、ジワルドにはなんてバフは、絶対に存在しないから。

 ジワルドで、そしてリワルドにおいても、バフ系の能力ってのは効果が大きくても二割増が限界。それを何個も何個も、効果の重複が可能で多種多様なバフを積みまくれば、二倍は行ける。物凄く頑張れば三倍も見えてくる。だけど四倍は無理だ。

 そもそも、『ステータスを何割増やす』みたいな効果じゃないのだ。ジワルド式のバフシステムってのは。

 正規のバフシステムなら、プレイヤーのに働き掛けるのが正道。

 例えば『STR成長値に五十加算』なんて方式が最もポピュラーで、つまり増加した成長値×レベルがバフによって上がるステータスとなる。

 他にも『VIT成長値を五パーセント増加』なんて割合系もあるが、こっちは結構なレア物になり、成長値を直接割合で増やすって事は、増えた分×レベルでステータスが盛られるので、これが実質的にステータスその物を割合で盛ってる形になるんだろう。働きかけてる参照数値が違うだけで、結果はどちらも同じだから。

 なので、例えば私がルルちゃんにプレゼントしたクリスタルブローチの『全能一割増』って効果で言うなら、あれの正確な表記は『STR、INT、AGI、VIT、MIN、DEX成長値を全て十パーセント増加』となる。

 実はあれ、マジでめっちゃ良い物だからね?


「凄いよねぇ。一発でドドんと倍」

「まさに神速。脱兎の如くとはルルちゃんの事でした」

「何も『脱』じゃなかったけどね」

「己を縛る理から『脱』したのでは?」

「なるほど」


 それで、ステータス増加系のバフって重ねがけに色々と制限があって、例えば『AGI成長値を五パーセント増加』と『AGI成長値を十パーセント増加』のバフがあったとして、これは重ねがけ不可だ。

 一番わかりやすい制限の一つして、増加数値の如何いかんに関わらず、効果の対象指定の形が被ってると効果が発動しない。

 これは使われた魔法やスキルを参照するのではなく、キャラクターに対して既に影響してる効果をそれぞれ独自で判断しているので、ちょっとずつ効果を増やした色んな魔法を重ねがけとかは無理なんだ。完全に別の魔法でバフをかけても、効果対象が被ってると効果が消える。

 それではどうやって重ねがけをするのかと言えば、『AGI成長値を十パーセント増加』と『STR成長値の十パーセントをAGI成長値に加算』だったり、『AGI成長値を十パーセント増加』と『VIT成長値の十パーセントをAGI成長値に移動する』なんて形で、効果その物の形を少しずつズラすのだ。

 この他にも色々と制限があるが、とにかく、バフを積み上げるのはとても大変で、その代わりに沢山積めば相応の力を発揮出来る。

 しかし、【剣閃領域】ではスキルが使えないので、ネームドスキル以外ではバフを積めない。積めたとしても普通はネームドスキルで一つだけ。

 それはルルちゃんだけじゃなくて、師匠にも伸し掛る効果なのだ。


 …………で、ルルちゃんはそんな効果を受けたまま、一つのネームドだけで数十個分のバフを積める。


 いや、反則だよ。マジで。ヤバすぎる。

 まぁでも、それだけなら、【誓銀兎想】だけならまだギリギリ勝負になった。

 カンスト成長値【SSS◆】のAGIを倍にした敏捷性でも、師匠ならば経験と技だけで何とか対抗は出来た。

 だけど、なのに、ルルちゃんは更にもう一つ、ネームドスキルを重ねがけ。

 効果は『全能倍加』。


 いや、もう、乾いた笑いが出たわ。

 しかも乗算だからね。元の数値をもう十割増やして三倍って形じゃなくて、AGIだけは二倍の二倍で四倍だったからね。

 もうそうなったら、いくら師匠でもルルちゃんの姿なんて追えないよ。【剣閃領域】は自分のスキルも封じるから、視覚系や反応系のスキルも軒並み使えないもん。人の限界で戦わせる領域で、ルルちゃんだけが人の限界を超えた動きが出来るとか、いくら師匠が正真正銘のバケモンだとて、人間である以上は限界があるんだ。

 それで、気が付いたら師匠の首がスポーンって飛んで一戦目が終了。


「まぁでも、あの鬼クソAGIオバケになったシルルちゃんを相手に、勘と技だけで二本目は三分持たせたモノムグリちゃんも、やっぱり相当にバケモノだと思うけどねぇ?」

「ですよね」


 二本先取の勝負だったので、二本目の勝負が始まって後が無い師匠はもう、本当に死に物狂いで戦ってた。

 思わず「もしかして未来予知してる?」って聞きたくなるような、重ねた経験と勘と、あとは磨き上げた技だけで、神速のルルちゃんを三分間、師匠は防ぎ続けた。

 オブさんが言う通り、やっぱり師匠も充分にバケモノだと思う。


「まぁ、良い余興ではあったよね。見応えはあったし」

「手に汗握りましたもんね」

「ちなみにノノンちゃんなら、あのシルルちゃん相手にどう戦う?」


 オブさんが面白い事を聞いて来た。

 あの師匠を相手にして。

 私が全力の全力をぶつけてやっと五割勝てる師匠を相手にして。

 二本先取のストレート勝ちでボッコボコにしたルルちゃんを相手にして?

 そのボコボコにされた師匠の弟子である私が?

 どう戦うかってー?


 はっはっはっは、そんなの決まってるじゃんオブさん。面白い事を聞くなぁ。そんな初手土下座が一番良さそうな相手に、私がどう戦うかって?






 師匠を片手間でボコボコに出来る相手なんて、そんなのマトモに戦えないからやっぱり初手で--……






「--やっぱり初手でルルちゃんがネームドスキルを切る前にショトカ禁呪シネで吹っ飛ばして、ダウンした所をスペリオル・チェインで詠唱封印したあと、通常詠唱禁呪『絶望の庭』を悠々と詠唱してから【屍山血河】を切りますよ? 私のネームドスキルは、ルルちゃんのネームドと違って即効性が無いものの、それ以外はルルちゃんのネームドスキルと同じく規格外のバフを積むタイプですかね。ゆっくりとバフが積まれるのを待てば、理論上は十倍でも百倍でも積めます。だからスペリオル・チェインの詠唱封印が切れる頃には、AGI四倍程度なら何とかなるバフは積めてるんじゃ無いですか?」


 うん。初手でネームドスキル発動を潰すよね。潰さない理由がない。


「あ、やっぱり? だよねぇ、開幕に詠唱潰すよねぇ?」


 そりゃ潰しますともさ。当たり前じゃん。それで私のネームドがルルちゃんに追い付くまで待つよ。可能ならそのまま詠唱封じたまま一方的に殴るともさ。お嫁さんが相手でもPvPなら妥協しません。

 うん。私の【屍山血河】って、ルルちゃんのスキルと同じくバフタイプのネームドスキルなんだよね。


 そう、でも、でも、極々一部に例外があるのだ。私のネームドスキルとか。


 私のネームドスキル【屍山血河】、その効果は私のキルスコアと、『私と敵の出血』に応じて無制限にバフを積み続け、そしてバフを積む毎に回復効果が発生。あとは攻撃に出血効果も乗る。本当なら一人で一軍を相手にする為のスキルなんだけど、単体相手にも使える。


 そして、あえてショートカットに登録してない私の「禁呪シリーズ」の一つ『絶望の庭』は、相手と私に無限の出血を強いる感じの効果があるので、シナジーを狙う。

 ちなみに、私の言う「禁呪シリーズ」ってのは、強過ぎるので普段は封印してる魔法の事だ。確かに重めのリスクはあるが、別に何か禁忌が有る訳じゃない。相手が強かったらリスクを許容して普通に使う。その辺はジワルドでも公言してた。

 て言うか、ジワルドのPvPランクマッチでは、「【屍山血河】に禁呪切らせたら誇って良い」みたいな風潮がちょっと有ったくらいだ。私が禁呪を切る時ってつまり、禁呪を使わなきゃ勝てないからリスクを許容するって事だからね。別に普段が舐めプな訳じゃない。

 そして絶望の庭がショートカットに入ってない理由は、メチャクチャ使い所が少な過ぎる魔法なので、ショートカット枠潰したくないから。余程の事が無いと絶望の庭はマジで使わない。

 本当ならクソほど怨んでる相手にブチ込む魔法なので、ルルちゃんが規格外のネームドスキルとか持ってなかったら絶対にルルちゃん相手には使わないタイプの魔法だ。

 まぁ、この後も対ルルちゃん戦術は考察するから、絶望の庭を使わなくて良い戦術を思い付いたらそっちを使うだろう。

 前にぺぺちゃんにも使ったけどさ、アレは本当にテンションが爆上がりしてぺぺちゃんをグチャグチャにしたくなっちゃっただけなのだ。つまりアレは愛の形。


「ちなみにオブさんなら?」

「んぇ? 僕? そんなの開幕で無響薬の煙玉投げて詠唱潰したら、煙に紛れてバックスタブで殺すに決まってるじゃん」

「音が響かなくなる薬でしたっけ? クソ高い詠唱潰しアイテムとか贅沢ですねぇ。でも、ルルちゃんは素で足速いですよ? すぐに煙から逃げられたらどうします?」

「それなら煙玉に最初から麻痺薬混ぜれば良いじゃん。……いや、面倒だし最初から即効性の致死薬入れた煙玉で良いかな?」

「人、それをスーサイドアタック自爆攻撃と呼ぶんですよ」

「僕が自分の毒で死ぬようなヘマをすると思うかい?」

「思いませんねぇ」

「でっしょ? まぁ、自分巻き込みの自爆技がPvPの邪道だって言うなら、致死毒入れたダーツを投げても良いしね? 僕の投擲スキルの練度から逃げられるなら逃げてみなって。どうしても詠唱が潰せないなら、詠唱が完成する前に腐乱薬を地面にバラ撒いて足潰せばいいよ。これも巻き込んで僕ごと足が溶けるかもだけど、投擲で一方的に攻撃出来るなら自爆技じゃなくて立派な戦略でしょ。もちろん普通に自分が溶けない対策はしてるし、シルルちゃんだけ溶けてくれれば、足が死んだAGI四倍とか何も怖くないさ」


 うん。まぁ、要するにね、師匠とルルちゃんって、相性最悪だったんだよ。

 師匠って一刀斎だから、魔法もアイテムも一切使わないし。

 詠唱を潰すなら開幕で即死させるか喉を斬るしかない。と言うか喉を斬れたら首も斬れるだろうし、つまるところやっぱり即死させるって条件には変わりないんだよ。

 いくらスキル無しのルルちゃんが師匠の腕に及ばなくても、詠唱終わるまで逃げと守りに徹したAGI【SSS◆】とか十秒ちょっとで仕留めるのは無理だよ。

 師匠のステータスは一刀斎ビルドだからSTRとAGIとDEXが全部【SSS◆】だけど、同じAGI数値なら永遠に追い付けないしね。

 スキル無しの縮地を使っても、来るって分かってれば詠唱終わるまで逃げるくらいなら出来る。ルルちゃんだってそこまでは弱くない。伊達に到達者になってない。


「対モノムグリ最終兵器みたいなお嫁さんを手に入れたね、ノノンちゃん」

「ですねぇ。まさか師匠があんなにあっさりと…………」


 私とオブさん、その後も色々なパターンを考えながら、AGIオバケになったルルちゃんの効力法を談笑しながら考察するのだった。


 アッハッハッハッハッ、PvPたのすぃー!


 ◇


「さ、サユちゃんさん、どうしよう。あ、あたしの可愛いお嫁さんが、サユちゃんさんの旦那様と一緒に、あたしの殺し方をあたしの目の前で、楽しそうに笑いながら羅列してるんだけど………」

「えと、恐ろしい光景ですね…………」

「こ、怖すぎるよ…………」

「サユから見たら、モノムグリ様を圧倒したシルルさんは、ふたつと並び立つ者の無い、まさに無双といった感じだったのですが……」

「あ、あたしって、あんなにッ、あんなに沢山殺し方あるのっ!? ジワルドの到達者が怖すぎるよッ!」

「………………まさに、修羅ですねぇ」

「地面に毒を撒いて足を溶かすって何っ!? そ、それって本当に、人が人にやる戦い方なのっ!? 自分も溶けたら投擲があるって、そう言う問題なのっ!? ジワルドって修羅の国なのッ!?」

「サユの旦那様って、もしかして凄く危ない人なんでしょうか?」

「ノンちゃんも、なにっ、『あ、STR勝ってるんだし普通に捕まえて逃がさず絞め殺せばAGI関係ないのでは?』って!? 嫌だよ逃げるよ!」

「あ、ルルちゃん。その時はルルちゃん、ネームドの詠唱で忙しいだろうし、その間にこっちは普通にショートカットでAGIにバフを積めば追いつけると思うよ? 私のショトカ構成って半分もバフを詰め込んでるバフ戦士だからね。ネームド詠唱時間の半分も貰ったらAGI【SSS◆】を超えるくらいには積めちゃうよ。ルルちゃんがそれに対抗してAGIに普通のバフを積むなら、結局はバフの詠唱やショトカの宣言でネームドの詠唱は潰せてるわけだからね。追い付いて掴めば手を離さない限りAGIは殺せてネームドは怖くなくなる。そしてルルちゃんが逃げに入ったらネームド詠唱が殺せる。良い戦術じゃない?」

「やっぱりPvPは駆け引きだよねぇ。良いよねぇ、楽しいよねぇ」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあああッッ!? じっ、ジワルドの修羅二人がコッチに来たよサユちゃんさぁんッ!? あたし怖いよぉッッ……!」


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