第115話 一人目はダッシュで帰った。
「
イベント開始から一ヶ月経ち、ケルガラはやっとイベントボスを一体仕留めるに至った。
まずは徘徊してるボスの捜索から始まる今回のイベントは、もう兎に角探して探して探しまくるイベントだ。
もちろん暴れる為に分かり易く人を襲うボスも居るのだけど、ケルガラに沸いたソイツは人見知りだったらしく、森の奥に隠れてた。
そして探索者、傭兵、軍人も騎士もこぞって集まり、寄って集ってフルボッコにした。
「
その後、ボス討伐によって解放された
と言うのも、せっかくボスを倒して解放した
だからもう、使用者は
今日はその第一回目であり、主賓で主役の
思ったより殺伐として無いので、私は正直ビックリした。
まぁそんな訳で、ケルガラの記念すべき
で、代償が発動した。
契約したのは、パーティ中にずっと
そのまま周りが羨む中で男性と
「
で、代償だ。…………え、これ暴走じゃないよね?
あの様子だと、代償は強烈な家族愛? いや、「帰る」と言ってるから郷愁? 分からん。
とにかく、良い歳した男性がガチ泣きしながら、契約した
やっべぇ。私契約しなくて良かった。
あの子、あの人にベッタリ抱き着きながらチラチラと私も見てたんだよね。代償が家族愛でも郷愁でも、私との相性も悪くなかったんだろう。でも多分そうしたら代償の回収が不可能になるはずだ。だって家族も故郷もこの世界に無いんだもん。
「なるほど、相性が良くても相性が最悪ってパターンも有るのか。勉強になる」
ふむ、家族愛なら誰にも負けない自信があるし、それでもあの男性が選ばれたのだから、代償はやっぱり郷愁の方かな? あくまで予想だけど、恐らくそう間違ってないと思う。
「まわり、大騒ぎだね?」
「そりゃぁね。契約は自由って言っても、契約したあとは国で抱えるつもりだったんじゃない? いきなり走って逃げ出した契約者に、あっちにいる良い服来た奴らが泡食ってるよ」
他にも、パーティに参加してた人間は大体が唖然とするか慌ててる。
そりゃぁねぇ、ビックリもするでしょ。
笑ってる人も居るけど、その事実をちゃんと理解してる人は青い顔をしてる。うん、代償重いでしょ? ちゃんと理解したね?
下手したら人格や人間性を捻じ曲げられる程の代償を、今の騒動でしっかりと認識した人達に、私は会場から移動しつつもエールを送る。
みんな頑張れー。代償さえ何とかすれば、
「さて、
「可愛かったね?
「チャイナドレス良かったなぁ。……今晩誰か着てくれる? あ、
まぁ良い。
さて、流石に予定時間が余り過ぎた。
本当ならこの後、契約者の人に話しを聞いたりする予定だったんだ。教えてくれるなら代償の詳細も聞いて、
なのに、契約者が猛ダッシュで里帰りしちゃった。予定全キャンセルである。
「なにしよっか」
「うーん、ノンちゃんはフィルたん達とジリィちゃんに教えるのも、今日は大丈夫でしょ?」
「じゃぁノノちゃん、もうお部屋に帰ろっ? タユは喉乾いちゃったなぁ♡」
「お嫁さんが欲望に忠実だ…………」
「あ、じゃあノンちゃん、ヘリオルートダンジョンの中とか見てみない? 行ったこと無いよね?」
ほう、ダンジョン。
そう言えば私、ヘリオルートの巣窟に潜る為の資格が欲しくて学園行ってたよね。まぁルルちゃんと学園デートしたかった理由の方が大きいけど。
巣窟がダンジョンになったけど、名前の呼び方変わっただけだけど、それでも当時はそこに行きたかったはずだ。
今では資格も有る。だけどまだ行ったことない。専ら黒猫亭保有のダンジョンにしか入ってない。
「いいねぇ」
「むぅ、お部屋でノノちゃん飲みたかったなぁ……」
「今晩好きなだけ飲んでいいから、タユちゃんも行こ?」
「……ほんとにっ? 本当に好きなだけ飲んでいいのっ?」
どれだけ飲むつもりなんだ……。脱水で死なないように気を付けよう。
「じゃぁ、まぁ、今日もいつもの日常を、ゆっくり始めますかねぇ」
◇
「
「ん。ぺぺくんがね、ノンちゃんは素手でも鬼強いってゆってた」
「まぁ、そう言うなら……」
私はルルちゃんとタユちゃん、それと各々が契約してる
私たちは見た通りに幼いので、入口で入場を管理してる人員に止められかけたけど、探索証を見せると通してくれた。ていうかビシィッと敬礼して送り出しくれた。
ルルちゃんの事は話しで聞いて知ってたけど、見た事はなかったそうだ。
「……あのゴブリンで良いかな」
それで、私はお嫁さんから無手の武術をオネダリされたので披露する。
第一階層に居るモンスター、鱗が生えた灰色の小鬼であるスケイルゴブリンを見付けて、テクテクと近付いていく。
「グギィィィイヤァァァアッ……!」
「制転流初伝、
幼く弱そうに見える私の接近を喜んだ
右脚を下げて半身になり、足から伝わる地面からの反発をしっかりと感じながら、ゴブリンが振るう拳に左手を添えた。
拳から伝わる力を抜き去り、しっかりした地面の反動も利用して「力」を体の中で捏ね回し、そして指向性を持たせたソレをゴブリンに返す。
これが柔剛制転流の初伝、
これを食らうとどうなるか、答えは目の前のゴブリンくんが教えてくれる。
彼は私に殴りかかった拳を起点に、まるで竜巻の化身にでもなったようにギュリギュリブチブチと捻れていき、最後は悲惨なボロ雑巾になった。
まぁ、防御ステータス足りな過ぎるとこうなるよね。私レベルカンストだし、レベル五のスケイルゴブリンじゃどうにもならない。
手加減しまくった初伝技を掠る程度に使ってこれだ。
「うわぁ、ノンちゃん今なにしたの?」
「くちゃって、くちゃってしたよっ……!?」
「柔剛制転流の初伝、
周りで見ていた駆け出し探索者がド肝を抜かれた顔をしてる。
そしてビックリしてる駆け出しの間をすり抜け、私が今殺したばかりのゴブリンを食べたくなったらしい
「制転流初伝、
地を踏み締めて腰を回し、腕を捻って全ての力を拳に移す。
ここで大事なのは「力を乗せる」じゃなくて「力を移す」な事だ。文字通りに、私が行う一連の動作から発生したエネルギーを全て残らず抜いて、拳の中にガッチリ詰め込んである。
その拳打を真っ直ぐに、素直に、正拳突きの要領で走り来るゴブリンに突き出す。
-バチャッ……。
そしてゴブリンは四散した。ただその勢いは見ていた人が予想するよりずっと小さかった。
ただでさえ有り余るステータスで殴ったのだから、スキルなんて無くても爆散したはずなのに、だけど実際は小さく「くちゃッ……!」って感じで弾けた。
イメージで言うと、ゴム風船が弾けた感じではなく、豆腐を強く握り潰して指の間からバビュッて出る感じ。
「相手に打ち込んだ力を収斂させて、内側から壊す拳打。これが制転流の初伝、
これがフィルたんにも教えてる技である。まだ
「……え、こわっ」
「ノノちゃん、こんな事も出来たんだねっ?」
「まぁ、二つ名持ちの到達者だからねぇ」
というか、スキル有りの攻撃は何をどう考えても過剰なので、それからスキル無しの単純な武術を披露して行く。
ごめんねゴブリンくん。私、君たちが相手だとね、ほんの少しも憐憫とか湧いてこなくて…………。
「…………え、勉強になり過ぎるんだけど」
「体の動かし方、凄いねぇ……?」
みんなで気楽にテクテク歩いて二十匹くらい殺してみせると、特にルルちゃんが興奮して目を皿にした。うん、武術の理論が詰まった動きは舞いに転化できるし、他の技にも使えるからね。
ルルちゃんも最近は千刃無刀流にも手を出し始めてて、初伝なら三つとも使えるようになってる。
タユちゃんは魔法主体の抜刀術スタイル、通称『抜刀斎』を練習中で、流派は瞬刀雷鳴流だ。流石に無念夢想流は無理だった。
ちなみに、武術スキルで刀術をメインにしてるスタイルの総称が『サムライ』になる。その中でも細分化するとタユちゃんの『抜刀斎』とかになる。
私がやってる刀術主体で魔法を補助に使うスタイルは『
分かる? ルビが私と師匠なんだよ。
まぁ流石に発音まで本当にコレな訳じゃないけど、それでもウィキとかだとシッカリと書かれてるんだ。マジ誰だよあれ編集した人。
「せっかくだから、タユちゃんも抜刀術の練習する?」
「う、うんっ! ノノちゃん、見ててねっ?」
私はヘリオルートダンジョンの二階層を目指しながら、タユちゃんに先頭を譲った。見ると後ろにはゾロゾロと見物人が居た。有名人なルルちゃん効果かな?
「え、えと……、雷鳴流初伝、
タユちゃんが、見付けたゴブリンを誘ってから抜刀で迎え撃つ。うーん、良い抜きだねぇ。頑張ってるのが良く分かる。
ジワルドに存在する抜刀術は三流派。そしてその全部が初伝、口伝、秘伝、奥義、絶招がそれぞれ一つずつ、計五つしか技が無い。
瞬刀雷鳴流はその中でも、『速さ』と『広さ』を求める流派で、とにかく速い技と、とにかく広い技がある。
基本技は初伝『
これを極めると「斬らないのか?」「……もう斬った」をリアルにやれる抜刀と納刀が可能。どんな状況でも柄に手がかかってるなら、速く抜いて速く斬って速く戻るを是としてる。
ちなみに電の方は広さを至上とする技の系統で、しっかりと構えてどっしりと打つ抜刀術だけど、その代わり射程が広い。極めると数メートル先とか当たり前に斬れるし、頑張れば十メートルとかも行けるね。
「…………ど、どうかなっ?」
「うん、綺麗に出来てたと思うよ。納刀が少しまだ拙いかなって印象はあったけど、タユちゃんが習い始めた時期を考えたら破格の練度じゃないかな?」
タユちゃんは雷を得意としてて、電はまだちょっと苦手である。
このままだと、秘伝の
最後の絶招たる
「むぅ、タユ先生だけ褒められてずるい。あたしもノンちゃんに褒められたいもん」
「ふふ、じゃぁ私の可愛い可愛いお嫁様、素敵な舞いを見せてくださいますか?」
「……にへへぇ♡ しょうが無いお嫁さんだなぁ♡ ちゃんと見ててね?」
対抗心を燃やすルルちゃんが超可愛い。今晩は覚悟してね? ルルちゃんのお股をドロドロにしちゃうからね♪︎
「……超越奥義」
ん? いや待って何それ知らない。
「
あ、あー! 八重桜に双閃を足したのッ?
しかもこれ、十重って言うくせに発生してる斬撃が十六条じゃん。八重を双閃で重ねたんだな? なるほど、いやコレ良いじゃん。
手軽に使える銀世界みたいな感じで使いやすそう。ふぇー、いいなこれぇ。
「どう?」
「私のお嫁さん最高だなって思った。……真似していい?」
「もちろんっ! あたしの全部はノンちゃんの物だもん!」
しかし、いまの超越奥義って言うか、接続奥義の一種だね。
私が九重流の時にだけ使える秘技、無念夢想流の絶招『水鏡』と瞬刀雷鳴流の絶招『静寂鳴神』の術理を同時に使いつつ、千刃無刀流の絶招『銀世界』を放つ超必殺技、『
あっちは気軽に使えないけど、こっちは使いやすそうで良いなぁ。
「うーん、ジワルドだと新技とかオリジナル技の開発って、システムに許された方法を探す分だけ難しかったけど、ある程度リアル扱いのリワルドなら、もう少しファジーでいけるのか」
たぶん、この散華十重桜はジワルドだと使えない。発動出来ないはず。システム的に無理だ。
私の水静寂鳴神鏡だってコレ、特殊な隠し流派である九重流が持つ特有のバグみたいな技なんだ。普通に刀持ってる時に出来たら私だってバンバン使ってるわ。
「あれ? え、もしかして鳴神鏡ってリワルドなら普通に使えるの?」
試してみる。
「出来た、だと…………」
あ、出したのはルルちゃんからプレゼントされた鳴狐だ。ふへへへへメチャ嬉しいこれにゅふふふふ。
「…………ノンちゃん、今何したの? これ、ぺぺくんを刻み殺してたあれ?」
「あ、うん。絶招の三連接続技なんだ。杖術の九重流じゃないと今まで出来なかったんだけど、リワルドなら普通に出来ちゃうみたいだね」
「…………ぐすんっ、超越奥義とか調子にのっててごめんにゃさい。あたしなんてノンちゃんの性奴隷だもん」
あ、あ、あ、ルルちゃんが涙目だ可愛い可愛い好き好き♡
待って違う、いやたしかにルルちゃんは私の性奴隷だし私もルルちゃんの性奴隷だけどさ? お互いにえっちぃことを死ぬまでする幸せな関係だけどさ? 別に奥義の接続見せられたから絶招の接続見せて『おうコラ、その程度で調子乗んじゃねぇぞダボが』って言いたい訳じゃないんだよ。ね? 泣かないで?
「…………ぁぁぁあでも泣いてぐしゅぐしゅしてるお嫁さん可愛いいいっ♡ ごめんやっぱり今日は帰ろ? お部屋に篭ってみんなでえっちぃ事しよ?」
「さんせぇー♡ ほらシルちゃん、早く帰ろっ? みんなで幸せになろっ?」
そんな訳で、私たちは二階層目前でトンボ帰りした。見学ほとんど出来てない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます