第113話 深夜の狐とホットミルク。
システムを見ればもう零時は過ぎてるので、日付的にはイベントの当日である。
私は六人全員で寝てる巨大なベットで、こんな時間に目が覚めてしまった。普通に寝直しても良いんだけど、何となく私は起き上がって、皆を起こさないように気を付けて、そろそろと忍び足で部屋を出た。
「……んー、さすがにこの時間は誰も居ないねぇ」
広い屋敷を歩いてダイニングへ。そしてキッチンへ行き、何か飲み物でも用意しようと冷蔵庫に手をかけた。
簡単に手早く出来そうなラインナップは色々あるけど、沸かすだけで済むホットミルクが一番楽かな。
私は何となく、ほんとーに何となく、一杯で終わるくらいの時間で寝直す気にもなれなかったから、そこそこの容量のポットに沸かした牛乳と砂糖を入れて掻き混ぜたら、ソレを持ってダイニングへ戻る。
いやー、有るよねこう言うの。一人でホットミルクとかココアとかを用意してさ、一人でダイニングとかバルコニーで黄昏れるシーン。
ヒロインが黄昏てたら主人公や恋敵が、主人公が黄昏てたらヒロインかライバルか『多くは語らず匂わせて終わる系』の意味深キャラが来て、なんか良い感じに語る回、あるよねー?
「-----ッ」
そんなアニメで言えば、私がこうやって黄昏てたらアレだよ。ルルちゃんが「どしたの? 寝れないの?」って来るか、タユちゃんが「どうしたのノノちゃんっ、何か悩み事っ?」って来そうじゃない?
ホントに来たらマジでアニメだよね。ちょうどイベントの前夜って言うか、当日の深夜だし、「緊張してるのか?」とか言ってライバルキャラとか来そうなシュチュエーションではあるよ。
「---ッ…………」
もしかしてホントに来るんじゃね?
そう思ってダイニングの入口を見れば、……ホントにそこに人影がっ!?
「----………………!」
「いや
私が砂粒程度の期待で見たダイニングの入口、そこには何故か、足をプルプルと震えさせて、ボロッボロに涙を流してる
いやマジで何してるの君っ!?
「いやいやいや、
そんな中で、みんなが寝てる場所から一人で離れれば、一歩進む毎に凄まじい悲壮感に襲われて辛かったはずだ。
ある意味で、三人の中で一番代償の辛さが重いのがこの子かも知れない。だって、たった五時間で暴走するんだからね。
暴走までのリミットが二日もある
ただ近くに居るだけ。ただそれだけで、他には一切特別な事を求めない
「どうしたの
「---♡♡♡」
私がスグに駆け寄って、力いっぱい抱き締めてあげる。
触れて分かる、
寝室を一人で出て、一歩進ごとに代償がこれだけ重くなる中、ここまで一人で来るのは尋常じゃない理由が必要だと思う。
「ホントにどうしたの? もしかして寝室で、誰かに何かあった?」
もしかしたら、マジで何かとんでもない事が起きたのかと思って焦る。
だけどそんな私に、
とりあえず、緊急性が無いなら様子を見ようか。一人でここまで来たなら、向こうに戻りたくない理由が有るのかも知れないし。
それに、こんなにもフルフルと震えてるんだ。ちょうど淹れたホットミルクでも飲んで、ちょっと温まって安心させるくらいはした方が良い。
私は
「本当に、怖い事も辛い事も無かったの? それなら、なんで辛い思いをしてまでコッチに来たの?」
頭を優しく撫でながら諭すように聞く。金色の毛並みを蓄えた狐の耳がピコピコと動いて可愛い。
質問に
どうやら交尾の最中以外にも筆談してくれるらしい。
『ののたんと、お話ししたかった』
……………………え? え、マジで?
本当にそれだけの理由で、声も無くギャン泣きする程辛い代償を我慢してまで、ここに来たの?
はぁ? 可愛すぎかよ愛おしいわ!
今すぐこの場でブチ犯しちゃうぞっ!?
『……いいよ? ののたんなら、良いよ?』
「え、待って私そんなに顔に出てる? そんなに卑猥な顔してる?」
て言うか許可出たね? いや待て私、ルルちゃんが居ないこの場で
『えへへ、ないしょに、したーげゆよ?』
「だーめ。するならキスくらいだよ?」
『じゃぁ、ちゅーしよ?』
「マジかよどうしたの
とりあえずキスはルルちゃんに許されてるので容赦なくする。
はーいその可愛い唇を私にちょうだいね?
上から被さるように
わはーい幼女の口の中美味しいなぁー!
『えへへ、たのしい。うれしい。もっとしよ?』
「私も嬉しいし、もっとしたいけど、本当に今日は積極的だね? どしたの?」
『いいから、もっとしよー?』
オネダリされたので、じゃぁ腰が抜けるまでキスしてあげよっか。
振り向かせた
寂しさと悲しさじゃなくて、幸福と快感で震え始めた
「満足した?」
『まだー。でもおしゃべりも、したいなー?』
「じゃぁ程よくちゅっちゅしながら、お喋りしようか? テーブル無いと筆談できないしね。さっきもベッドの上は書き難かったでしょ?」
『それでも、ののたんとお喋りしたかったのー。あとお礼もね、したかったー』
めっちゃ可愛いんだけど。
何この可愛い生き物。私が背負ってる代償って恋愛関係と婚姻関係と肉体関係を結んだ相手と、性欲の対象に出来る相手に対しての発情だ。
そしてこの代償、実は若干だけ、対象の条件が重なってると代償が重くなる性質がある。これは仕様書にも書いてなかったマスクデータの裏仕様だ。
つまり、私はロリコンなので
何が言いたいかって、マジでブチ犯したい。はぁ何この可愛い生き物マジでマジでマジでぇ……!
『だから、いいよ?』
「だめなんだってぇ……」
て言うかマジで口に出して無いのに伝わりすぎじゃないですかね?
私そんなに卑猥な顔してる? いいよって言われるくらい「犯したい!」ってツラしてるの?
『ぷう。していいのに』
「ぷうとか可愛いな。わざわざ文字で書くあざとさも含めて、めっちゃ可愛い」
『だって、ののたんに、かわいいって、思われたいもん』
へぇぁっ、まってホントにどうしたの? 凄い攻めて来るじゃん?
『ちがーよ? ののたん、すてきだから、すきなのよー?』
「うはぁっ可愛いっ、私も
『イナリもね、ののたん、だいすきー♡ だから、しても、いいんだよー? こうび、しよー? はやく、しよー?』
「…………えと、やけに推してくるけど、もしかして
『…………バレたかー』
このバレたかーっての可愛い。
でも何、
『ちがーよ? せーよくうすい、
「え、マジで? 実は
『…………イナリ、かたるにおちたかー』
「んふっ、ふふっ、待って、そのノリ凄い好きなんだけど。
この「○○かー」って
『だから、してー?』
「それはだーめ」
『やー。してほしいなー? イナリと、うわきしよ?』
「ダメだよー。もしするなら、お部屋に戻ってからね?」
『それで、主のるるたん、寝たままするー?』
「…………それNTRの定番ネタでは?」
いや、もう恋人には違いないんだし、NTRでは無いか。うん。
あと寝ててもルルちゃんはそこに居るんだし、条件はクリアしてる?
分からん。まぁルルちゃんも起きたら参加するでしょ。
「でも、なぜわざわざ私?」
『なにがー?』
「いや、そもそも
そこまで口にした私は、
見れば、ほっぺがプクーっと膨らんでて、いかにも「イナリ、怒ってます!」って感じだった。
とりあえず指で押してほっぺたはプシューっと萎ませた。可愛い
『いちばん! すきなひとに! 甘えたい! だけだもん!』
「おお凄い力強い走り書きだ。……ぅえ、
『そうだよ!』
「うわメチャおこだ。でも可愛い」
『ぷー! ばつとして、もーいっかい、さんじゅっぷん、ちゅーして!』
あいあい。私は言われた通りにキスをした。
三十分どころか一時間くらいキスしてたんじゃないかな?
「これで良い? 許してくれる?」
『…………ゆぅしちゃぅ』
「文字だから音崩れる訳ないのに、『ゆー』とか『ぅ』って使うのクソ可愛い。私ちょろくない?」
『ちょろくていーの。もっとイナリ、すきになって?』
「いやもう大好きなんだけど? すでにここで二時間二人っきりだし、一時間半以上キスしてるんだよ?」
『じゃぁ、こーびもしよ?』
「めっちゃ推して来るじゃん。え、なに、元々したかった感じ? 実は凄い我慢してた?」
『…………えとね、まじめにね? 恥ずかしかった。ののたんも、みんなも、すごくない? あれふつう? あたまおかしいこーびしてない?』
「あ、うん。ごめん私たちが悪いわ。あれは絶対に普通じゃ無いわ」
そりゃそうだよ。普通に性欲強かったとしても、良く考えたらアレは尻込みもするわ。
色狂いに堕ちた私が『桃色の地獄』って表現するのは伊達じゃ無いんだよ。マジであれは一種の地獄なんだよ。
むしろ
『なかまはずれ、さみしーよ?』
「そりゃそうだよゴメンねマジで、無理してたの? ……あ、だから今したいのか。一人相手ならそこまで酷いことにもならないし、優しくしてねってこと?」
『…………バレたかー』
「んふっ、それ好き。可愛い」
しかし、浮気する訳には行かないんだよなぁ。
私は私の異常性を、まぁまぁ自分で理解してる。
両親からの愛を何より欲して、信じて、拠り所とした。その『愛』に背く行いは、自己否定その物とすら言える。
「--だから、浮気はしないよ。どうしてもって言うなら、ルルちゃん説得してね? 私は皆愛してるけど、それはこのルールが前提だから」
『むぅ、てごわいなぁ……』
まぁ、うん。
だって、二人きりって言うのは凄く幸せだから。
「……ふむ、しかし本当に性欲が強かったんだね?」
『うん。
「そうなのか。あれ別に
『あっ、えとね? それも、ごかいがあるよ。コイヌも、イナバも、元はふつうだったよ? 今のふたりは、ののたんのせい』
「うぇえっ、私のせいなの?」
『あのね、ののたん、たぶんなにか、変な力もってる。イナリも、じぶんでおかしーな? っておもうくらい、ののたん好きだもん。そのせいで、コイヌすごい、くるった。イナバもいっしょ』
え、私ってなに、幼女狂わせる快電波とか出してるの?
『えとね、良いにおいがしてね、大好きになるの。たぶん、ののたんのしょーかんじゅーも、いっしょ』
「…………えっ!? ジワルド歴十年近いのに初めて知る驚愕の事実なんだけどっ!? 私ってそんな能力持ってるのッ!?」
『しょーかんじゅーは、まし。でもイナリたち、
「マジかよ私、歩く媚薬みたいな存在なのか……」
『あ、それ。まさに、それ』
「まさかの肯定っ!?」
『でもね、いやなかんじ、しないの。だからいいの。くるわせて?』
こう、結構な殺し文句だね? 「私を狂わせて?」って、中々に胸が疼く発言だ。
『ののたん』
「はいはい。どしたの?」
『すき。イナリとけっこんして?』
「…………いつも私が言ってたり思ってるこのセリフ、まさか私が言われる日が来ようとはっ。て言うか急だね?」
『ののたん』
「はいはい。どしたの
『イナリのこと、二人っきりのときは、イナリって呼んで? あとけっこんして? こうびもして?』
「強い強い圧が強い。ガチ恋かな? えーと、イナリちゃんって呼べばいいの?」
『んーん、よびすてが良いなー?』
「そっか。んー、でもイナリ? ルルちゃんの事は好きじゃないの? ルルちゃんにはイナリって呼ばせないの?」
『もちろん、すきよー? でも、主のるるたん、みんな見てるけど、見てない。ののたんばっかり見てる。イナリさみしー』
「えっ、私も結構そうじゃない? ルルちゃんが一番だよ?」
『ちがーよ? ののたん、みんな見てる。見たうえで、主のるるたんがいちばんすーき。だから、イナリも見てくれるし、良いにおいするし、すーき』
可愛いかよ。
でも、うーん。そうなのかな?
私ばっかり見てくれるって聞いたら嬉しくなっちゃうけど、それでイナリが寂しいなら私も少し悲しくなっちゃうな。
でもやっぱりルルちゃんが私だけを見てて嬉しい気持ちの方が強いから、私も結構ダメな感じに吹っ切れてると思う。
「いろいろ、ごめんね?」
『んーん、いいの。そのぶんね、イナリをかまって?』
「もちろん構うけどさ」
『いっぱいおしゃべり、しよっ♪︎』
こんな深夜にいたいけな幼女を相手にイチャイチャしてると、凄い悪い事をしてる気になるけど、ぶっちゃけ今更だしなぁ。
既に手を出してるし…………。
「そうだなぁ。じゃぁ、良い機会だし、仕様書に書いてない幼神の事とか、イナリ達の事を私に色々教えてくれる?」
『いいよー!』
素直可愛いイナリである。わたしゃ狐っ子推しなのでキュンキュンする。
「そもそもさ、なんでイナリ達は、筆談あんまりしないの? 嫌いなの?」
『えとね…………、たんじゅんに、めんどーなの。今は、ののたんとイチャイチャしたくて、がんばってるよ?』
「マジかよ。そして頑張ってくれる理由が可愛過ぎる。…………あれ? てことは、
『ちがーよ? コイヌとイナバは、こうね、おしゃべりしたいなーってときは、きもちがつよいとき。だからはつじょーする。はつじょーすると、おしゃべりより、だいしょーをとるから……』
「あー、代償が邪魔をしてるのか。なるほど、筆談する暇あるなら、そんな事より激しいアレコレがしたいと…………」
そいつァ微妙に大きな問題だなぁ。その内、代償を一時的にでも緩くする方法とか見付けないと。呪いとか代償って地味に私の得意分野だし、時間を掛ければ何とかなるでしょ。
「…………ふむ。ところでイナリは、他のシリーズの幼神とか知ってる?」
『しってるー。えとね、まってね。グリアごで書くより、にほんごで書くほうが、つたわるから。…………あぅぅ、かんじ、めんどーだけど、がんばるね』
「あー、名前の文字が代償も表してるもんね。ぶっちゃけ言語がどんな仕組みなのか分からないけど、母国語が通じるなら助かるよ。て言うかひらがな多くて緩い文字なのは、書くのが面倒だったからなのか」
『えへへ……。えっと、あのね? イナリが知ってるのは、
ふむ。全部最初の読みが「こ」になるね。「酷」だけは「こく」だろうけど、これは「恋」が「こい」と読んでるのと同じ使われ方をするんだろう。
でも「恋」は「こ」とも読めるので、汎用性は高そうだな。たぶん幼神は全員「仔」って意味で「こ」が頭文字なんでしょ?
『たぶん、そう!』
「名前と詳細が分かる幼神は居る?」
『酷神なら、
「あー、先に作られた幼神とは面識が有るけど、わざわざ自己紹介とかはしなかった感じなのかな。だから後から作られて命名とかされた幼神しか名前を知らないと」
『…………これが、一をきいて、十をしるかー』
「んふふっ、新しいパターンきた」
そうやって、私はイナリから中々に有意義な情報を貰いながら、夜を過ごした。
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