第50話 たびだち。



 お友達が増えた私は、諸々の仕事を全て終えて今日、都外修学に向けてヘリオルートを旅立ち、同じケルガラ王国内にある港町レイフログまで十日程の道程を旅する。


「「ノノ姉様ぁ、早く行こぉ〜!」」

「ふふふしょうが無いなぁ二人はもう可愛いんなぁもう」


 五人で野営の練習とは名ばかりのキャンプで遊んだあの日から、私はアルペちゃんとクルリちゃんを全力全開全身全霊で可愛がって甘やかした結果、物凄い懐かれて同い歳なのに姉様と呼ばれてる。


 か、かわいっ……!


 こんなに可愛い双子ケモ耳幼女シスターが出来ちゃって良いんですか? こんなに可愛い妹とかもう逆に犯罪なのでは?

 両脇に可愛い妹狐ちゃんを侍らせて、前にはルルちゃんをセットして、背中にネネちゃんを装備すれば完璧!

 これぞ幼女四方詰め……! 刀鍛冶の頂きが見える……!


「おう、お嬢の留守は任せとけ」

「楽しんでこいなぁ〜。あと出来れば土産もよろしくなぁ〜」

「あら、私には何も無いの?」

「テメェはお嬢に着いてくからお嬢の料理食えて良いよなコンチクショウ」

「ほんとな。羨ましいよな」


 場所はここ、黒猫荘の玄関前。

 注文していた新ベガ馬車はもう改造まで終わっていて、中で煮炊きが出来るように煙突まで増設されている。

 ポチとその配下が繋がれた犬車も準備万端。大量の食料と荷物が積み込まれている。

 今は黒猫荘のメンバーと挨拶を交わしてるところで、今回私たちの護衛として雇われたレーニャさんは留守番のビッカさんとザムラさんにチクチクと嫌味を言われている。


「それじゃぁ、そろそろ行きますね」

「おう! 楽しんでこいよ!」

「気を付けてなぁ〜。……つっても嬢ちゃんには無用な心配だろうが」

「ばっかザムラお前、お嬢以外は普通のお子様なんだぞ。要らんことは言わなくて良いんだよ」

「ふふっ、じゃあ行ってきます」


 ベガ馬車は私たち旅行組が、ポチ荷車はレーニャさんが乗って黒猫荘から出発する。

 合流予定の二年生とはヘリオルートの正門前で落ち合う予定だ。


「レーニャさん、道中よろしくお願いしますね」

「ええ、任せてちょうだい。今回の護衛は都外修学のためだから、護衛の仕事以外は基本的に居ないものとして扱ってちょうだい。…………あ、でも食事は--」

「ふふふっ、もちろん食事でレーニャさんだけ除け者にするつもりは無いですよ」

「--良かったぁ……」


 そんなこんなで出発。


 ポチ荷車を牽くポチ達がめちゃくちゃ目立つが、明らかに荷車を大人しく牽いてる様子のお陰で騒ぎにはならなかった。

 ポチも限界まで普通の狼を装うために気配を殺してくれたのも大きいだろう。ありがとね、ポチ。


 朝から賑わいを見せる王都の中を移動して正門前へ。そして目的の一団と合流を果たす。


「…………えぇ、ほんとに筋肉さんまで居るのなんなの」

「ふっ、大先生。生徒じゃなくても護衛なら着いてこれるんだぜ」

「その手があったかぁ」


 合流して早速近付いてきた筋肉さんとやり取りして、筋肉さんは挨拶も程々にベガの所まで行ってしまった。ベガのこと好きすぎるでしょあの人。


「殿下、この者たちが?」

「ああ、そうだよ。今回僕達が見守る班だね」

「…………半獣が多すぎるのでは?」

「ゼクト、間違っても僕の言いつけを破ることはしないでくれよ?」

「もちろんですとも!」


 何やら豪華すぎる馬車の周りでハル何とかが、取り巻きのちびっこ貴族と話している中、そんな人達をほっといてミナちゃんもこっちに来た。


「ノノン様。今日からしばらくの間、よろしくお願いします」

「うん。よろしくね。……でも、これはあくまでも私たちの都外修学だから、基本的に私はそっちを居ないものとして扱うからね?」

「はい、ノノン様。もちろんですわ」

「つまり、食事もソッチとコッチで別々だからね?」

「…………………………そうでしたわ。そんなっ、でも--」

「別々だからね?」

「……………………はいぃ」


 ちなみに、突然現れた王族三人プラスちびっこ貴族三人という『THE・権力』一団を見て、ネネちゃん、アルペちゃん、クルリちゃんはビビりにビビり倒してマトモに対応出来ない。なので相手をするのは自動的に私になる。

 ルルちゃんは相手が王族でも気にしない大物なんだけど、難しい話しが苦手なので、やっぱり王侯貴族の相手は私の仕事となる。


「……おいそこの平民--グギィッ!?」

「バカなのかお前はッ……!?」

「ゼクトぉぉおッッ!?」


 やっと最後の一団、ハル何とかのグループが挨拶しに来たんだけど、ハル何とかが口を開く前に偉そうなちびっこが口を開いて、速攻で戻って来た筋肉さんにぶん殴られてた。 


「ハルお前連れて来る奴は選べって言ったよな? な?」

「も、もちろん人員は選別したんですよ!」

「ゼィ、ゼイルギア殿下、なにゆえ私は殴られたのでしょうか……」

「よしお前、ゼクトつったか? ちょっとお前黙ってろ。間違ってもお前はもう大先生に声をかけるな」

「……ねぇ筋肉さん。その茶番が続くなら、私たち先に行ってて良い?」


 私が筋肉さんを筋肉さんと呼んだ瞬間、ゼクトと呼ばれたちびっこ貴族を初めとした貴族三人が凄い顔で私を睨むが、その倍くらい怖い顔で筋肉さんに睨まれて黙っていた。


「おう大先生、勝手に追い付くから好きに過ごしてくれや。そもそも、俺たちゃ一年生の都外修学が無事に終わるように見守る以上の仕事はねぇからな」

「では、コッチはコッチで好きに振る舞うので、なるべくお互い関わらない方向で行きましょう。……ベガが許せば、時間がある時に乗っても良いですから」

「任せとけ馬鹿は俺が責任をもって全力で阻止するから大先生は出来るだけ俺の事をいい感じでベガくんに伝えてくれたりとかしてくれると凄い嬉しかったりするんだがどうだろうか?」

「早口が過ぎる」


 私はチラッとベガを見ると、私の意を汲んだベガは一つ頷いて見せた。

 それを見た筋肉さんは見るからに喜び、きっとハル何とかと煩そうな貴族キッズの防波堤として役に立ってくれるだろう。


「では、改めて出発」


 豪華すぎる馬車の横を通り過ぎて、王都の門を出る人々の列に並ぶ。

 チラッと王族組の馬車に繋がれた馬を見たが、なかなか立派で美しい軍馬だった。

 多分あれ、筋肉さんが用意したんじゃないかな? 馬が好きみたいだし、秘蔵のお馬さん連れて来たんじゃない?


「筋肉さんがベガに乗ってる間、私も向こうの子に乗せてもらおうかな?」


 列は進み、順番が来る。

 都外修学でレイフログに向う胸を伝えて、後ろのポチ荷車もしっかりとチェックしてもらう。

 私たちが見るからに子供だから、疑われるような事は微塵もなかったけど、それでも積荷のチェックまできっちりされた後に都市の外へと出れた。


「よーし。じゃぁベガ、予定通りの進行でよろしくね。ルルちゃんたち、誰かしら馭者台に座っててくれる?」

「「「はーい!」」」「なの!」


 私は馭者台から直接馬車の中に戻って、みんなに声を掛けた後にキッチンへ移動した。

 そう、キッチン。馬車の中はさながらキャンピングカーみたいになっていて、幼女五人なら余裕で寝泊まり出来るだけの仕様に改造し尽くしていた。

 私はお昼に向けて今から料理を初めて、お昼に辿り着く予定の休憩ポイントでは即座に食事をして、ゆっくりと休んでからまた移動をするつもりだ。

 そのくらいゆったりした旅程で進まないと、子供の体力なんてあっという間に無くなってしまう。十日も旅に耐えられない。


「なーに作ろっかなぁ〜。物凄い手間暇掛けた甘口のカレーでも作ろうかな?」


 お昼の品目を決めた私はキッチンの棚から食材を取り出して、調理を始めた。


 まずは挽肉を作る。生憎とミンサーは持ち込まなかったので、手作業でブロック肉を挽肉にする。

 なんでアレだけ準備して、一発目の料理で持ち込まなかったミンサーが必要な挽肉なのか。自分でも意味不明だ。

 旅の始め、二日くらいは生鮮が使えるだろうと馬車に乗せておいたお肉を包丁で叩きまくる私は、これから作るカレーにどれだけ手を加えるかじっくり勘案し始めた。


「さすがに果実もチョコも持ち込んで無いから、せいぜい蜂蜜か……」


 ブロック肉を粗挽き(手動)し終わったら、塩と胡椒を肉にまぶしてから休ませ、その間に今度は玉ねぎを大量に切り始める。

 一度作れば二、三日は常温でも傷みにくい上に、基本的にお代わりが続出する類の料理であるので、私はかなりの量を作るつもりで玉ねぎを六玉ほど切る。

 三玉を微塵切りにして、三玉はクシ切りにした。

 微塵切りにした方の玉ねぎを大型のクッカーに少量の植物油と共に入れて、弱火で炒め始める。アメタマ色の玉ねぎはジャパニーズカレーの基本にして奥義である。私はそう信じてやまない。

 カレーから肉を抜いても、人参を抜いても、ジャガイモを抜いても、玉ねぎだけは抜くな。それがノノン流。それが明智式。


「…………そう言えば、スパイスはあるけどルゥは持ち込んで無いな。…………なんで私はほんと、コレだけ準備したのに、こうなの……?」


 まぁいいや。スパイスから作ろう。

 私は別のクッカーも火にかけ、小麦粉を炒め始めた。

 日本の家庭で簡単にスパイスからカレーを作りたいなら、小麦粉を炒めてからターメリックやガラムマサラなんかの基本スパイスを四種類ほどぶち込んで、油でしっかりと炒めた後に水を加えるて煮込むとカレーになる。

 スパイスの分量でもちろん味も変わるし、小麦粉の量でカレーのとろみも代わるから、配分はみんなが独自に研究すれば良いけど、スパイスは基本を抑えておけば何十種類も使う必要は無い。

 スパイスの種類なんて四から六種類くらいあれば、ちゃんと立派なカレーになってくれるのだ。


「…………いい匂いだよぉ」

「お腹すいちゃうよぉ……」

「あはは、ごめんね? 昼餉はとびっきりの料理だから、楽しみにしてて」

「「お昼まで待てないよぉ〜」」


 馭者台にはルルちゃんとネネちゃんが座っているんだろう。馬車の中に居た双子が炒めたスパイスと玉ねぎの匂いで唸っている。


「あーでも、二人もルルちゃんも半獣で良かったかもね。獣人だと香辛料の匂いが強すぎて辛かったかもしれないし」

「んー、そうかもぉ?」

「でもでも、クルリたちも技人さんよりお鼻はいいのぉ〜」

「美味しそうって思える程度なら、むしろ丁度いいんじゃないかな?」


 私は特製のカレーを作りながら可愛い双子とお喋りをする。

 馬車の上部に設けた煙突からはこの匂いがばら撒かれてるはずだけど、王族組は大丈夫かねぇ?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る