第48話 縛りプレイ?



「準備ー!」

「じゅんびー!」

「じゅんびなのー!」


 筋肉二号店王都ヘリオルート支部さんが口にした通り、ヘリオルート学園ではひと月程ののちに都外修学なるイベントがあり、そして当日までに私たちはコツコツと準備をしなければならない。

 私の場合など特に、都外修学の間も変わらず黒猫荘の仕事があるので、下手したらイベントに不参加も有り得る自体だ。

 しかしながら、これまでに民宿といった形の宿を説明する時に「私が住んでいるお屋敷にお金を払って一緒に住む形式」と説明して来たおかげで、「同居人のために家主がやりたい事を我慢すんのはおかしいんじゃねぇか?」と言われ、都外修学には行けることになった。ビッカさん大好き!

 そんな訳で、ウルリオに黒猫荘を任せて旅に出る代わりに、皆さんのお宿代は今月分まるっとタダに。

 むしろビッカさんとザムラさんには、ウルリオのお手伝いをしながらお留守番をお願いする形になったので、逆に報酬を払うことになる。


「まずは…………、なにするの?」

「なの?」

「とりあえず馬車の手配かな。さすがに長距離旅行でコーチ型のベガ馬車は使えないし、別の馬車を用意しないと」


 子供の長距離旅行の計画には、学園が安心して送り出せる護衛の存在も重要。なので、今回レーニャさんには護衛の依頼を出して受けてもらった。

 ビッカさんとザムラさんも来たがったけど、旅の人員に女の子の割合が多過ぎるし、やっと学園で遭遇出来て都外修学にも一緒に行こうと約束したネネちゃんなんかビッカさんと一緒に旅したら興奮で死んじゃう。

 なので今回のお話しはレーニャさんだけ。それを聞いたレーニャさんは渾身のドヤ顔を二人に披露して喧嘩になってた。


「結局、ネネちゃんのお友達二人もこっちに合流するんだっけ?」

「なの! アルペちゃんとクルリちゃんなの!」


 そうして、何やかんやあって今日、私が何をせているかと言えば、都外修学のための準備と計画を進めているところだ。

 筋肉さん二号から齎された情報によると王族もくっ付いてるらしいのだけど、奴らは奴らで別途の旅行計画になる。というかコッチの補佐役的な意味があって着いてくるのに、旅行計画にのっけから顔を突っ込んじゃ意味が無い。

 そんな訳で、向こうの事は考えなくていい。あっちはコッチの計画に合わせて勝手に色々と準備する。


「…………ねぇノンちゃん、ほんとうにソレ使わないの?」

「うん。なんて言うか、無粋な気がするし」


 私たち幼女組の旅行メンバーは、ルルちゃんとネネちゃん、そしてネネちゃんのクラスメイトであるアルペちゃんとクルリちゃんなる女の子の二人に、私を足した計五人が今のところのフルメンバーである。

 アルペちゃんとクルリちゃんなる幼女にはまだ会ったことは無いけど、ネネちゃんがそのうち顔合わせをセッティングしてくれるらしいので楽しみだ。


「さて、じゃぁまずはあのお店からだね」

「「はーい!」」


 ◇


 今回の旅行計画で一番大事なこと。それは私の手加減と自重だ。

 何故なら、私が本気でポーチの中身や私の能力、そして財力なんかをフル活用したなら、都外修学とはなんぞやって哲学が始まりそうな程に快適極まりない旅路になる。それは間違いない。

 しかしそれでは都外修学の意味が無いし、そもそも異世界での旅行をしっかりと味わえない。それはとてもつまらない。

 なので私は今回の都外修学で、まず緊急時以外はポーチの使用を縛る。

 そして常識的な魔法以外の魔法も縛る。よくライトノベルなんかでありそうな「土魔法で小屋を作ってテント要らず」とか「火魔法持続して薪要らず」とか、その手のチートを禁止して旅行を楽しむのだ。常識かどうかのバロメーターはレーニャさんがしてくれる。私はこの世界の常識的な魔法の下限上限なんて知らないし、なんたってレーニャさんさ万魔の麗人だからね。

 とは言え、何でもかんでも縛る訳では無い。私の目的は旅行らしさを楽しむことであって、苦行に臨んで辛い思いをすることじゃない。


「…………買わないの?」

「うん、今はまだね。都外修学はまだ先でしょ? 今日買ってもその日まで保存しなきゃダメになるでしょ?」

「あっ、ほんとなの。その日が近付いてから買えばいいの」

「そゆこと」


 ルルちゃんとネネちゃんを連れた私は、まずコーチ型のベガ馬車を注文した工房まで行って新しい馬車を注文した。

 内容としては、二頭立て以上で使うような、でもベガ一頭で牽く設計の大型馬車だ。

 王族達は向こうで勝手に準備するだろうから、私は自分を含めた五人の人員と、それに見合う荷物と食料を詰める馬車を用意すれば良い。

 旅行計画は基本的に町から町に移動しながらの旅路を設定するけど、野営の可能性が全く無いわけじゃない。なので、馬車には多少の野営機能とそれに見合う剛性を付けてもらう。

 注文した工房はもうベガ馬車で信用も腕も十分だと分かってるので、しっかりと要望を伝えたならあとはお任せで大丈夫。


「……えっ、じゃぁ、あたしたち、何しにきたの?」

「順次、旅路でも買い足すつもりで居ても、食料の相場を見ておくのは大事な事だよ。それに、馬車に積んでおく天幕テントとか、その手の道具は今買っちゃっても大丈夫だし」

「あぁ、食べ物じゃなければ腐らないの!」


 まぁそんな訳で、色々と準備なのである。

 今は三人でイチャイチャしながら旅に持って行けそうな食料の確認。

 遠征をするシーカーとか行商人なら、脳死して干し肉と乾パン黒パンだけ選ぶんだろうけど、私だって能力を縛るとは言っても美味しいものは食べたいのだ。

 だから旅で食べる物の質をできる限り上げるため、私は燻製肉や干し野菜、生鮮でも日持ちする野菜、そのままでも痛みにくい豆類などを王都の市場で吟味してる。


「……うん。都外修学の移動中も、ちゃんと美味しいものを食べれそうだね」

「ほんとっ?」

「あわわ、ノノンさんのお料理は美味しいから、ネネは食べすぎ無いか心配なの……、心配なんだよ?」


 うんうん、大丈夫そうだ。

 質の高い燻製肉を出してるお店を見付けたので、旅の途中もお肉不足で泣くことは無いだろう。アレなら味も良さそうだし、相当日持ちする。

 燻製肉は基本的に味と保存性がトレードオフなので、美味しい燻製肉を食べようと思えば痛むのが早い。逆に保存性を優先すれば、干し肉とそう変わらない品質の燻製肉となる。

 だが見付けたお店の燻製肉は味と保存性のバランスがとても良さそうで、常温で二週間は持ちそうなのに味も期待出来る。そんな品質だった。


「あとは小麦と、干し野菜と、…………芋と豆」


 小麦と塩があればウドンや素麺がその場で作れるし、別に酵母なんて無くても天然発酵サワードウで普通にパンも作れる。無発酵パンでも良いしね。


「…………うーん、馬車が完成しないと詳しい積載量が分からないな」


 牽くのがベガなので、重量度外視で頑丈かつ大きな馬車を注文してある。

 箱馬車なので屋根の上にも荷物が積めるから、そうそう過積載なんて起こらないと思うけど。

 でも詳細が分からないと積み荷の総量がキッチリ決められないなぁ。


 ………………もう、いっそもう一台馬車作る? ベガ以外の誰かが牽く用に作る?


 私は血迷う。

 いや血迷ってると自覚出来てる時点で血迷っては無いのか? 分からん。

 ただ、ベガ以外の召喚獣が荷車を牽くと騒ぎになりそうな事くらいは分かる。いくら私でも分かる。


「…………いや、ポチならワンチャン?」


 ワンちゃんポチだけにワンチャンある? 犬ゾリとか立派な文化の一つだしね? 少し変形して馬車化しても良いよね?

 たしか召喚師は伝説級だけど調教師自体は存在するらしいもんね?


「……うん。考えとこ」


 市場で色々な品物を見てはしゃぐ幼女を見ながら考える。

 荷物専用の車も使えるなら、今注文してる分は完全に居住スペースに出来る。食料を積むべき場所に簡易な寝床や調理の為の窯などを置ける。

 そのための機材なんかを鍛冶師に依頼するには、馬車が完成して詳細な寸法が分からないとダメだ。なので間に合わない可能性が高い。

 なら自分で作る? 私ぶっちゃけ鍛治で装備品以外作った事ないけど、行ける?


「…………練習しとこ。あったら便利なキャンプガジェットとか、知識だけはあるもんね」


 ああそうだ、食材ばかり気にしてたけど、旅先で使う調理器具も準備しなきゃだよ。クッカー作らなきゃ。旅に普通の鍋とか持ってくの嵩張りすぎるもんね。


「……むぅ、思ったよりやること多いな」

「…………ノンちゃんごめんね? あたし、あんまり役にたてなくて」

「……ネネも」


 私がうにうにと悩んでいると、その様子を見た二人が申し訳なさそうにしょんぼりしている。は?


「はっ? え、二人とも何言ってるの? それ冗談でも私怒るよ?」

「うぇ、のの、ののノンちゃん怒るのっ!?」

「……シルルさんが震えてるっ」


 怒った時の私がトラウマなのか、ルルちゃんがガクブルし始めるけど気にせず二人の肩をガっと掴んだ。


「あのね? 私はルルちゃんもネネちゃんも大好きなの。二人と一緒に都外修学に行けるのが楽しみで、色々考えるのも楽しいの。……役に立てない? そこに存在するだけで私のヤル気と元気と猪木を補充してくれる超存在のどこが役に立たないの?」

「……いのき?」

「…………いのき?」


 ……やる気、元気の次に続くのはイノキじゃなくてイワキだっけ?

 まぁいいや。


「全員が同じことする必要なんて無いんだよ。みんながそれぞれ、違う事を頑張れば良いの。……例えば、ルルちゃんが私を癒す。ネネちゃんが私に抱き着く。そして喜んだ私がめっちゃ頑張る。…………ほら、綺麗な役割分担でしょ?」

「……いや、あたしソレちがうと思う」

「い、いくらネネたちが頭よくなくても、その説明では流されないんだよ?」


 私は内心舌打ちした。騙されてくれないか。


「なんでよっ! 二人が私を可愛がって、私が二人を可愛がれば、私は何百倍でも仕事出来るのにっ!」


 なので私は逆ギレした。理論とかどうでも良いんだよっ!

 ルルちゃんもネネちゃんも私に抱き着いて幼女肌でぷにぷにと私を癒してよ!

 一人が一人分働くより、二人が二人分の癒しを私に与えて私が百人分働く方が効率的じゃん!


「……ノンちゃんがぎゅってされたいなら、あたしいつでもぎゅってするよ?」

「えっ、あ、ほんと? えへへールルちゃんだいすきぃ〜」

「ね、ネネもなの!」

「ネネちゃんもしゅき〜」


 音速で絆された私は、結局みんなでちゃんと計画を立てることに同意させられた。

 ……まぁ、確かに一人で突っ走ってた感はあるよね。

 みんなで行く都外修学なんだから、みんなでちゃんと思い出に残る旅行になるよう、ちゃんとみんなで計画立てないとね。

 私は冷静になった。前世でも楽しめなかったイベントを前に、自分でも気付かないうちに舞い上がってたらしい。


「それじゃぁ、今日は物の相場だけしっかり調べて、そこからみんなで計画立てよっか」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る