第13話 シルルちゃん来訪。



「ノンちゃぁーん! 来たよー!」

「はぁーい、ルルちゃんいらっしゃーい」


 ビッカさんさんが迷宮へ探索へ行って二日目。

 今日は朝からシルルちゃんが黒猫荘へ遊びに来ている。

 へリオルート学園へ入学願書を出した昨日。帰りに寄った夕暮れ兎で今日こちらへ遊びに来ると約束していたのだ。


「ノンちゃん、すっごいねぇ! うちよりひろーい!」

「ふふ、探検する?」

「するー!」


 てっきりシェノッテさん同伴で来ると思って居たのだが、今回なんとシルルちゃんが単身でやって来た。

 正門から元気よくバビューンと玄関までやって来たシルルちゃんは、これまた元気良く扉をバンバン叩いて来訪を教えてくれた。呼び鈴あるけど、手が届かなかったのか。

 そんなシルルちゃんをビッカさんにも案内した通りに黒猫荘を紹介する。

 今日はお泊まりらしいので、まずシルルちゃんが泊まるお部屋へ案内しようと思ったら。


「え、ノンちゃんと一緒がいいなー?」

「うんそうしよう是非そうしよう」


 可愛くそんなおねだりをされて、一秒も持たず私は陥落した。

 そんな訳で、まず私のプライベートスペースへシルルちゃんをご案内。

 エントランスホールの中央階段を避けて一階奥の扉を開ける。

 一階で一番どこが場所を取っているかと聞かれたら、間違いなく私のプライベートスペースである。コの字型の屋敷が、コというよりそこの浅いお椀である。

 扉を開けるとまずコレクションルームがあり、ここにはポーチに二本ずつ入っていた実在の名刀コレクションが並べられている。

 所狭しと並べた展示ケースに鎮座する名刀達は、データが残っている物は実物を忠実に再現してあり、データが遺失している物も可能な限り実物に沿った再現がなされている。


「ふわぁ、これノンちゃんの剣?」

「うん。刀って言うんだよ。………サムライブレードとも言ったかな?」

「カタナー! あたしもほしい!」

「ふふ、へリオルート学園で剣が必要らしいから、その時一緒に準備してあげるね?」

「ほんとっ!? わーいやったぁー!」


 素直可愛いシルルちゃんと物騒な約束をした私は、シルルちゃんが満足するまでコレクションルームを見学した後、ここを起点として別れているそれぞれの部屋も紹介する。

 まず私の部屋。戦いが好きで刀コレクションが趣味の私だが実はファンシーな物も好きで、部屋はぬいぐるみとかで溢れてたりする。

 ピンク色が蔓延るザ・女の子の部屋にシルルちゃんの荷物を置くと、次はコレクションルームに一旦戻って鍛治工房。

 私は召喚師で魔導師で侍だが、鍛冶スキルも持っている。と言うのも、コレクションとしても得物としても刀の手入れをするのに鍛冶スキルがあった方が便利だったのだ。

 アンビルやハンマーは勿論、その他諸々専門的な道具で溢れ返っている雑多な部屋だ。


「ここで私がルルちゃんの刀を作ってあげるからね」

「えー!? ノンちゃんが作るの!?」

「うん。さすがに飾ってある様な神々しい至高の逸品は無理だけど、そんじょそこらの鍛冶師が裸足で逃げ出す様な刀を打ってあげる」

「………えっと、売るの? あたし、お金あんまり………」

「あああ、違うよルルちゃん。刀とか剣を作る事をね、『打つ』って言うの。売るわけじゃ無いんだよ」

「そっかぁ、良かったぁ」


 なんで異界言語で喋っているのに日本語的なすれ違いが起きるのか。理解に苦しむ。

 とりあえずシルルちゃんへの誤解を解いた私は、次に調剤室を案内する。

 当然調薬スキルも持っている。

 鍛冶も調合も錬金も魔法付与も、本職には勝てないが、一通り出来る。


「このお部屋はお薬を作るお部屋だから、さっきの刀を打つ部屋と一緒で勝手に入っちゃダメだよ?」

「はーい! ここでノンちゃん、どんなお薬つくるの?」

「えーっとね、私の耳は魔法で生やしたけど、薬でも生やせるんだよ。ルルちゃんもお耳変えてみる?」

「………お母さんに怒られちゃう」

「そうだね。……止めておこうか」


 シルルちゃんが猫耳や犬耳、狐耳でも良いし熊耳でも馬耳でも牛耳でもとにかくどんな獣耳をもふもふさせた獣耳っ娘でもウルトラスーパーグレイテスト可愛いと思うけど、その場合シェノッテさんに怒られるのは多分私なので我慢しよう。多分「怒られる」じゃ済まない。

 ああ、色んな獣耳っ娘シルルちゃん絶対可愛いのに、ぺろぺろしてクンクンしてスーハースーハーして……………、あれ? 私こんなに幼女好きだったっけ?

 ここまで変態的にロリコンだったっけ? いや私は今八歳なのでロリコンじゃなくてただの同性愛者? あれ? アレアレ?


「ノンちゃん?」

「ああごめんね。ちょっとルルちゃんが可愛くてボケっとしてたよ」

「んーもう! ノンちゃんの方が可愛いもん!」


 私がロリコンかどうかは分からなかったが、結局シルルちゃんとイチャイチャしてしまうのだった。ぐふふふ。

 タレ目ふわふわ幼女可愛い………!


「次はお風呂場だね。このまま入っちゃう?」

「おふろー!」


 χ


「おふろ出たー!」

「ふふ、楽しかったねー」

「ねー!」


 可愛い幼女とお風呂で至福の時間を過ごした私は、シルルちゃんとお揃いのふりふり浴衣に着替えて裏庭にやって来た。


「かわいー!」

「でしょー?」


 裏庭でビッカさんにしたように、ポチ、ツァル、アルジェ、ウィニー、ベガ、ホルン、ロッサ、リフ、グラム、ロッティ、リジルを紹介すると、ビビっていたビッカさんと違ってシルルちゃんは大はしゃぎで、次々と突っ込んで撫で回して抱き着いてしまいにはロッサとキスして………、おいロッサァァァ! お前今自分が何したか分かってんだろうなぁぁぁあ!?


「可愛い可愛い! すごいすごーい!」

「ルルちゃんルルちゃん、ロッサと何したのかなー? 私もしたいなー?」

「ん、ロッサちゃんノンちゃんがちゅーしたいってー」


 ちがぁぁぁう! ロッサお前分かっててやってるな!?

 あああああロッサも可愛いけど違うの! ちくしょうこうなりゃ間接キスだぁぁあ!


「えへへー、ベガくん乗せてくれるの? え、アルジェちゃんも? あたし二人にはなれないよ? んぁ、ポチくんもー?」

「ルルちゃんモテモテだねぇ」


 ひとしきり遊んだあと、何故か従魔勢揃いで貧民窟までお出掛けになった。さすがにドラゴンはお留守番です。

 ポチに乗ったシルルちゃんと、アルジェに乗った私。ベガは乗って貰えずちょっと拗ねてる。

 ベガには悪いけど我慢して欲しい。敷地内なら良いんだけど、都市の中で馬に乗ったまま移動するのは法律で禁止されているらしいのだ。

 正確には都市内で乗馬出来るのは貴族の特権と言うことらしい。

 ベガは細かく言うと馬だけど馬じゃなくて魔物なので、もしかしたらセーフかも知れないが、見た目は完全に馬だし下手したらそこら辺の名馬よりよっぽど凛々しく雄々しく賢そうに見えるので、莫迦な貴族にでも乗馬しているのを見付かったら、法律違反の難癖を付けられベガが狙われるかも知れない。

 いや法律違反の部分は難癖でも何でも無いのだが、ベガを奪おうとするなら一切合切ぶち殺すしか無くなるので、都市の中ではベガに乗れないのは確定なのだ。


「ごめんねベガ。へリオルートの外だったら思いっきり乗れるから……」

『ぶぅふるる………』


 さて、何故貧民窟へ行くのかと言うと、シルルちゃんが行きたがったと言う単純な理由がある。

 何故シルルちゃんが貧民窟へ行きたがるかと言えば、私が貧民窟での出来事を喋ってしまったからだ。

 ちなみに、正門から出ると確実に騒ぎになるので今回は塀を飛び越えて直接貧民窟へ乗り込む。

 なにせメンバーに狼、熊、猛牛、虎、獅子鷲と一般人には恐ろしい魔物が居るのだ。絶対に兵士呼ばれる。


「ベガとツァル、リフは先に飛んで様子見てくれる? 踏み潰したりしたら大惨事だから………」


 私の指示で飛行能力を持つベガ達が先行して塀を越えた。

 言った通り、こちらのメンバーは巨体揃いなので、もし貧民を下敷きにでもしてしまったら、そのまま殺人事件になってしまう。

 うちのメンバーに踏まれて無事なタフネスがあったら、こんな所で燻っていないのだから。

 ツァルの合図があったのでポチとアルジェも単純な脚力だけで塀を超える。ちなみに塀は三メートルくらいの高さだ。

 さすがに飛べないし跳べないウィニーは私の頭の上に居座っている。

 主人の頭に座るなんて不敬だが、昨日はチャット役を頑張ってくれたから許してあげよう。

 お料理配送もトレードバッグの代わりにやってくれるし。

 壁を超えると、そこには既に人集りが出来ていて、ほぼ見知った顔だった。

 先に居たベガ達に驚いて、怖いもの見たさで集まったのだろう。


「おお女神様! この魔物達はあなたの配下だろうか?」

「そうですよ。えーと、あなたは棍棒の人でしたね」

「はい。私は女神様から棍棒を授かりました一人、ツルトと申します……。それで、今日はどの様な……?」


 ツルトと名乗った棍棒組の男性からは、強い困惑が感じられた。

 確かに昨日の今日で、何体も魔物を引き連れて再び現れた私の用事は気になるだろう。

 大きな武力を持って再登場した私は、端的に言ってカチコミにしか見えないだろうし。


「今日は、友達に昨日の事を話したら見てみたいと言われたので、見学に来ただけです。変な事はしないので安心してくださいね」

「おお、ご友人ですか。そちらの方ですか?」

「はい! シルルです!」

「ふふ、配下の子達は、ルルちゃんの護衛です。一応ここは貧民窟ですからね。分かってると思いますが、ルルちゃんに何かしたら皆殺しにしますので」


 ニッコリ笑いながら物騒な事を言う私に、青い顔をした貧民達は何度も頷いて、なんなら武器を手放そうとする。

 でも今日はその武器の扱いの見学なので、手放してもらっちゃ困る。

 改めて事情を説明して、やっているなら訓練を見せて欲しいとお願いすると、秒で快諾された。


「もちろんですとも! なんなら女神様から助言が欲しいくらいだ」


 そう言う訳で、私監修の訓練が始まった。

 見学者はシルルちゃん、ベガ、ロッサ、ホルン、リフ、ウィニーだ。

 ポチ、ツァル、アルジェは訓練に参加して、ポチが戦狼を召喚して敵の魔物役を担当。私とアルジェは棍棒や投石杖の指導役。そしてツァルは怪我をした人の治療を担当する。

 私とアルジェがポチ本体と戦ってみてお手本を見せ、次に戦狼と貧民を戦わせる。

 もちろん滅茶苦茶手加減をさせている。従魔の強さは基本的に召喚師のレベル依存なので、私のレベル、と言うかこの世界風に言うと深度が千四百なので、皆もそれに合わせた強さを持っている。

 途中、またどこかの銀等級シーカーが黒猫荘を襲撃したらしく、三メートルの壁を超えて顔を出したロッティに貧民窟は騒然とするトラブルもあったが、ロッティがそのままコチラに襲撃者をポイってしてくれたので、ツァルがそれを回復させて対人戦の練習も出来た。

 最初はドラゴンと言う存在に心折られた襲撃者が泣きながらイヤイヤしていたが、貧民達に勝てれば見逃してあげると囁くとすぐ元気になって、ちゃんと訓練に使う事が出来た。

 襲撃者は三人居たのだが、さすがに深度五の魔物にも負けていた落伍者と銀等級シーカーじゃ勝負にならないので、ツァルと私が貧民達に魔法でバフをかけてハンデとした。

 結果、二人は再起不能のボコボコになって身ぐるみを剥がされ、一人は辛勝ながら勝って自由の身になった。

 だが唯一勝ったその襲撃者は、自分で戦ってみて棍棒の良さに取り憑かれ貧民達の仲間になってしまった。

 意味が分からない。あなたは剣をちゃんと学んで扱えてる剣士じゃないの? まぁ確かに棍棒は良い武器だけども。


 ともあれ、終始楽しそうにしているシルルちゃんを見れば、見学も悪くなかったかなと思う。

 …………ボコボコにされて身ぐるみ剥がされた二人については、最後の悲惨な場面だけはシルルちゃんに見せていない。いないよ?


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