異世界民宿幼女
ももるる。【樹法の勇者は煽り厨。】書籍化
世界超越編
プロローグ
時刻は夕方に差し掛かり、空が赤く染まる夕暮れ時。
つい先程あった大きな地震で嫌な予感が、悪夢がフラッシュバックした紫苑は会社の重役会議をすっぽかして車を走らせている。
途中、全く同じ行動を取って同じく重役会議を蹴飛ばして来た妻を拾うと、紫苑は速度制限など死んでしまえとばかりにアクセルを踏み込んだ。
二人がそれぞれ勤める会社の人間も、「地震ばっかりは仕方ない」と諦めに似た気持ちで二人を見送っていた。
それは二人が何よりも大事にしている愛娘に降り掛かった事故が理由だ。
二人の会社はどちらも東京にあるのだが、自宅は首都の真上に位置する県で、大震災でも被害が驚くほど少なかった県である。
だから当時、二人は甘く見ていた。
その揺れで家具が倒れ、愛する娘を下敷きにしているなど、夢にも思っていなかった。
当時八歳の心優しい娘は、地震を舐めて居た紫苑達が仕事を終えて帰ってくるまで長い時間下敷きにされ続け、四肢は壊死して内蔵もいくつか壊れてしまっている。
だから、十七歳になった今も娘は、とある病院に入院している。
愛娘が四肢を失って達磨になると言う悪夢がトラウマになった二人は、娘を預ける病院は細心の注意を払って選び、地震に強いところへ娘を頼んだのだ。
なのに、紫苑は嫌な予感が募って腹が痛くなる。
「もう着くぞ」
「…………あなた、病院から電話がっ」
ああ、悪夢が蘇る。
地震で人生が粉々に壊されてしまった娘が入院する病院から、地震の後に来る電話とは、いったいどんな内容なのか。
想像したくないが、想像出来てしまう。
「………もう着くから」
「うん、大丈夫よね………?」
「ああ、きっと大丈夫さ。あんなに素直で可愛い、いい子なんだ。これ以上の不幸なんて起きないさ」
紫苑は不安がる妻に、慰めにもならない希望的な言葉を投げかける。
いや、慰めているのは自分自身なのか。そう信じたい事をそう言葉にして、自らを慰めている。
「そうさ、大丈夫さ。娘が苦しんでいる時に、呑気に仕事へ没頭して居た馬鹿な私たちを責めもしない、迷惑かけてごめんなさいだなんて謝る、あの優しい真萌が、可愛い真萌がっ! これ以上不幸になんてっ……!」
長い間家で一人下敷きにされ、痛みにもがき死んで行く体に苦しんだ当時幼い女の子が、涙を零しながら謝る両親に、謝り返すのだ。
-怪我してごめんなさい。迷惑かけてごめんなさい。動けなくてね、お夕飯作れなかったの。ごめんなさい。
紫苑と乃々華は神を恨んだ。
これがもし人災なら、人が起こした犯罪なら、その相手を想いだけで殺せる程に憎み、直接的な行動にだって訴えられる。
だが、地震なのだ。恨む相手すら居ないのだ。
だから神を恨む。神しか恨む相手が居ないのだ。
「真萌っ! 無事………、か………」
「………そんなっ、うそ、嘘よぉぉ………」
だが、それでも、神を恨んだとしても、起きた結果は覆らない。
追突する勢いで病院へ乗り込み、愛しい我が子が居るはずの病室へ飛び込んだ二人の目に映ったのは、悲痛な顔をする医者と、俯く看護師と、変わり果てた娘の姿だった。
享年十七歳。明智真萌は、地震による停電で、かつ予備電源装置とバッテリーにも影響が出て生命維持装置が数秒止まった為に、多臓器不全によってこの世を去る。
幸いと言っていいか分からないが、彼女は死ぬ間際、四肢を失った彼女を思った両親がプレゼントした意識没入型オンラインゲームをプレイしており、意識がゲームの中にあったため苦しむ事なく逝く事が出来た。
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